4. 老夫婦の思い出
◇老夫婦
「君は、この骨董市は初めてのようだね」そう言って、老人は微笑みながら
「わしも、最初は兄さんのように思ったものだ」
和也は老夫婦が常連客だろうと思い
「おじいさんは何度も来ているのですか」
「そうだな、三回目になるか」
「三回目ですか。ちなみにこの骨董市はよく開かれているのですか」
「前に案内が来たのは二十年前だったかな」
「二十年前! 」
和也が、絶句すると老人は、ゆっくりと話始めた
「実は昔、家が火事になって家財道具や思い出の品が全て燃えたことがあって、火事から立ち直った頃にこの案内が来たんだ。それで、来てみると、火事で焼けたはずの品物が置かれていて驚いたよ。その時は、今の君と同じように持ち合わせがなくて、一番ほしかった家族のアルバムも百万円と言われ、『これは我々のものだ、火事場から盗んだのじゃないのか』と粘ったが、売ってもらえなかった」
その老人は、奥で品物を整理している猫娘を見ながら、思い起こすように
「思い返せば、火事の時にそばにいたのだが、火の勢いは凄まじく、とても中の物を持って出られる状況ではなかったし、焼け跡に黒焦げになったのを見ている。しかたなく、アルバムの中から息子が小さい頃に写した家族一緒の写真1枚だけを特別に売って貰った。それも2万円したが。なんとか持ち合わせぎりぎりで買うことができた」
老人が話していると、向こうでお婆さんが呼んでいる
「おじいさん! ありましたよ。ほら、これ」
そばに行くと老婆は笑顔で一冊の古びたアルバムをさし出した。
「おー!これじゃ、これじゃ! まだあったか」
火事で燃えたはずのアルバムで、老人も嬉しそうにしている。老婆はアルバムを開け
「息子の幼い頃の写真が! ほら、これは家族で遊園地へ行ったときですよ。覚えてますか」
「覚えておる、覚えておる。あのころの生活は大変じゃったが、子供がいて楽しかったな」
老夫婦はしばらく見たあと猫娘に向かって
「ところで、これは以前と同じ百万円かのう」
猫娘は帳面をしらべ
「……はい。百万円ですニャ」
笑顔でアルバムを胸にひしっと抱える老婆
「やっとこれが戻るときがきた。なんと幸運なことじゃ! 」
横で聞いていた和也は
「お爺さん百万円って、お金あるの。現金でないとだめなのでしょ」
「ああ、あれから、少しずつお金を貯めて、いつ案内がきてもいいように現金で百万円だけは手をつけずに置いておいたのさ」そして周りを見て苦笑しながら「他にも、ほしい物はあるが、手がでんわ」
老人は、猫娘にお金を渡すとアルバムを受け取った。老婆は抱きかかえるようにアルバムを大切に持っている。
「それじゃあ、これで帰らせて貰おうか」
まだ時間があるのに帰る、と言う老夫婦に
「せっかくだから、もっと見ていけばいいのに、またいつ開催されるかわからないのだし」
「いいや。見ていると、さらにほしい物がでそうでな。買えるならいいが無理じゃろうし帰るとするよ。それと、大切なのは物自体ではなく、物に宿る思いなのだよ」そのあと、老人は和也の耳元で
「実は、あの店員の猫耳の少女だが、二十年前いやそれ以前にも同じ歳格好だった。まあ、違う子かもしれないがな」
そう言い残して、二人添って体育館を出ていった。




