3.弥生姫の骨董店
しかたなく、猫娘が箱を持ってくると、弥生姫はその中から何かをつまみ上げた。
「これなんかどう? これなら銀貨一枚でいいよ」
まるで適当に取り出したようにしか見えない、それは――
「リコーダー……?」
よく見ると、かすれた文字で
『……小学校 一年四組』
と書かれている。
(なんて、いい加減な……)
猫娘は内心で思ったが、念のため大福帳を開いてみると
『小学生の少女が使っていたリコーダー』
書かれているのは、それだけだった。
「やはり、ただのリコーダーですニャ。人によっては思い出の品かもしれませんが、エルフの兄妹が期待しているような霊力は、まったくありません」
やる気のなさそうな弥生姫の態度に、猫娘は落胆する。
エルフの兄も肩を落とし、がっくりとした表情で言った。
「こんな物じゃ……竜神様は納得しないよ……」
猫娘も同じ考えだった。
「弥生姫、確かにこんな物じゃなくて。今回だけでも、あのレア・アイテムを貸してあげるのはだめですかニャ」
「こんな物………」
弥生姫は呆れたように猫娘を見て。
「なつかしの骨董市の店員ともあろう者から出る言葉とは、思えないわね」
その一言に圧倒され、猫娘は固まったまま言葉を失う。
次に弥生姫は、エルフの兄に向き直った。
「どうして、これではだめなの? 」
「だって、とても強い霊力が必要なんだ」
「すごい霊力ねぇー。それって、古い物、いわれのある物、高価な材料で優秀な職人が作った物、偉大な演奏家が使っていた物、あるいは誰かが魔法をかけた笛……そんなところ?」
エルフの兄が首肯すると
「悪いけど、小さなエルフの村に、竜を抑え込むほどの笛なんて、そうそうあるはずがないわ」
そう言ってから、弥生姫は先ほどから黙っている妹エルフに視線を向けた。
「それより……あなたは、どうして笛吹きになったの?」
弥生姫の問いかけに、妹エルフはなぜか躊躇して、答えにくそうだ。
今度は優しく微笑み。
「いいから、本当のことを言って」
「それは……笛が、好きだから」
弥生姫は何か確信したように、うなずくと
「だったら、妹エルフちゃん、この笛を吹いてみて」
妹はリコーダーを手にとって、吹き始めた。
そぼくで、どこか懐かしい音色が店内に流れる。
特別な装飾も、魔力のうねりもない、ごく普通のリコーダーの音。
エルフの兄も、猫娘も、特に変わったところは感じなかった。
だが、吹き終えた妹エルフは、顔を紅潮させて呟く。
「………これは」
「どうしたんだ」
兄が慌てて尋ねると、妹は勢いよく顔を上げた。
「お兄ちゃん! これなら、いける! 私、これがいい! 」
「ええ! どうして」
驚く兄エルフをよそに、弥生姫が笑みを浮かべ
「リコーダーだって、中世からある立派な楽器。上手く吹きこなすのは決して簡単じゃない。そして、今の妹エルフちゃんにとって、最適な品だと思うわ」
妹エルフは、笑顔で大きくうなずいた。
「どういうことなのですニャ! 」
猫娘が思わず声を上げると、弥生姫は妹エルフの頭をやさしく撫でながら言った。
「“ファーメルンの笛”やレア商品を見せた時、妹エルフちゃんは、まったく興味を示さなかった。それどころか、少し怯えていたわ」
猫娘は、はっとする。
「妹エルフちゃんは、自分の実力では、あれらの笛を吹きこなせないと感じたのよ。でも――」
弥生姫は、妹エルフを見つめて続けた。
「竜神は、妹エルフちゃん自身の笛の音に魅了されている」
「……だとしたら」猫娘は、思いついたように言った。
「笛の力ではない……」
弥生姫は、にっこりとうなずいた。
「そう。高くても安くても、道具は使い手次第。大切に使い続けることで、道具は本来の力を発揮し、使う人の価値も高めてくれる。人と道具は、そうやって互いを高め合ってきたのよ」
そして、いつもよりやさしい笑顔で続ける。
「妹エルフちゃんが大切にしていた笛は、きっと寿命だったのね。
すぐに帰って、この笛を吹いてみなさい。――きっと大丈夫」
力強い言葉に、妹エルフは大きくうなずいた。
だが、猫娘が神妙な表情で口を挟む。
「でもここは雪山の中、どうやって帰るニャ……」
すると弥生姫が、窓を見ると
「さて、そろそろいい頃かな」
「いい頃って……?」
「さっきも言ったでしょ。この店は“動く”のよ」
「動くって……まさか!」
猫娘が玄関へ駆け寄り、扉を開けると――
そこには一面の緑の草原。
その先に、小さな村がぽつりと見えていた。
「僕たちの村だ! 」
兄エルフが叫ぶ。
「さあ、行きなさい」
弥生姫は穏やかな笑顔で送り出した。
「はい! ありがとうございます!」
兄妹エルフは並んで深く頭を下げ、村へと駆けていった。
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