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猫と女神の異界骨董市  作者: 猫ノ あずき
第10話 弥生姫の異世界骨董店
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3.弥生姫の骨董店

 しかたなく、猫娘が箱を持ってくると、弥生姫はその中から何かをつまみ上げた。

「これなんかどう? これなら銀貨一枚でいいよ」

 まるで適当に取り出したようにしか見えない、それは――


「リコーダー……?」


 よく見ると、かすれた文字で

『……小学校 一年四組』

 と書かれている。


(なんて、いい加減な……)

 猫娘は内心で思ったが、念のため大福帳を開いてみると

『小学生の少女が使っていたリコーダー』

 書かれているのは、それだけだった。


「やはり、ただのリコーダーですニャ。人によっては思い出の品かもしれませんが、エルフの兄妹が期待しているような霊力は、まったくありません」


 やる気のなさそうな弥生姫の態度に、猫娘は落胆する。

エルフの兄も肩を落とし、がっくりとした表情で言った。

「こんな物じゃ……竜神様は納得しないよ……」

 猫娘も同じ考えだった。

「弥生姫、確かにこんな物じゃなくて。今回だけでも、あのレア・アイテムを貸してあげるのはだめですかニャ」

 

「こんな物………」

 弥生姫は呆れたように猫娘を見て。

「なつかしの骨董市の店員ともあろう者から出る言葉とは、思えないわね」


 その一言に圧倒され、猫娘は固まったまま言葉を失う。

 次に弥生姫は、エルフの兄に向き直った。


「どうして、これではだめなの? 」

「だって、とても強い霊力が必要なんだ」


「すごい霊力ねぇー。それって、古い物、いわれのある物、高価な材料で優秀な職人が作った物、偉大な演奏家が使っていた物、あるいは誰かが魔法をかけた笛……そんなところ?」

 エルフの兄が首肯すると


「悪いけど、小さなエルフの村に、竜を抑え込むほどの笛なんて、そうそうあるはずがないわ」

 そう言ってから、弥生姫は先ほどから黙っている妹エルフに視線を向けた。


「それより……あなたは、どうして笛吹きになったの?」

 弥生姫の問いかけに、妹エルフはなぜか躊躇して、答えにくそうだ。

 今度は優しく微笑み。

「いいから、本当のことを言って」


「それは……笛が、好きだから」


 弥生姫は何か確信したように、うなずくと

「だったら、妹エルフちゃん、この笛を吹いてみて」

 妹はリコーダーを手にとって、吹き始めた。


 そぼくで、どこか懐かしい音色が店内に流れる。

 特別な装飾も、魔力のうねりもない、ごく普通のリコーダーの音。


 エルフの兄も、猫娘も、特に変わったところは感じなかった。

 だが、吹き終えた妹エルフは、顔を紅潮させて呟く。


「………これは」


「どうしたんだ」

 兄が慌てて尋ねると、妹は勢いよく顔を上げた。

「お兄ちゃん! これなら、いける! 私、これがいい! 」 

「ええ! どうして」


 驚く兄エルフをよそに、弥生姫が笑みを浮かべ

「リコーダーだって、中世からある立派な楽器。上手く吹きこなすのは決して簡単じゃない。そして、今の妹エルフちゃんにとって、最適な品だと思うわ」

 妹エルフは、笑顔で大きくうなずいた。


「どういうことなのですニャ! 」

 猫娘が思わず声を上げると、弥生姫は妹エルフの頭をやさしく撫でながら言った。


「“ファーメルンの笛”やレア商品を見せた時、妹エルフちゃんは、まったく興味を示さなかった。それどころか、少し怯えていたわ」

 猫娘は、はっとする。


「妹エルフちゃんは、自分の実力では、あれらの笛を吹きこなせないと感じたのよ。でも――」

弥生姫は、妹エルフを見つめて続けた。

「竜神は、妹エルフちゃん自身の笛の音に魅了されている」


「……だとしたら」猫娘は、思いついたように言った。

「笛の力ではない……」

 弥生姫は、にっこりとうなずいた。


「そう。高くても安くても、道具は使い手次第。大切に使い続けることで、道具は本来の力を発揮し、使う人の価値も高めてくれる。人と道具は、そうやって互いを高め合ってきたのよ」

 そして、いつもよりやさしい笑顔で続ける。


「妹エルフちゃんが大切にしていた笛は、きっと寿命だったのね。

 すぐに帰って、この笛を吹いてみなさい。――きっと大丈夫」

 力強い言葉に、妹エルフは大きくうなずいた。


 だが、猫娘が神妙な表情で口を挟む。

「でもここは雪山の中、どうやって帰るニャ……」


 すると弥生姫が、窓を見ると

「さて、そろそろいい頃かな」

「いい頃って……?」


「さっきも言ったでしょ。この店は“動く”のよ」

「動くって……まさか!」

 猫娘が玄関へ駆け寄り、扉を開けると――


 そこには一面の緑の草原。

 その先に、小さな村がぽつりと見えていた。


「僕たちの村だ! 」

 兄エルフが叫ぶ。


「さあ、行きなさい」

 弥生姫は穏やかな笑顔で送り出した。


「はい! ありがとうございます!」

 兄妹エルフは並んで深く頭を下げ、村へと駆けていった。

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