表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫と女神の異界骨董市  作者: 猫ノ あずき
第10話 弥生姫の異世界骨董店
38/51

2. エルフの兄妹

 さて、今日の最初の客は……


 入ってきたのは、エスキモーが着るような分厚いコートを着た少年と少女。

 全身は雪まみれ。よく見ると、コートのフードの隙間から、尖った耳が覗いている。


(……やはり来たか、エルフ)

 異世界といえばエルフ。

 へっぽこ作者の知識と想像力など、この程度かと、猫娘は内心でため息をつく。


 ――が、様子がおかしい。

 ふたりは、店に入るなり、ふらりとよろめき、そのまま床に倒れ込んだ。


「ど、どうしたんだニャ!」

 駆け寄ると、子供のエルフたちは凍えきっており、身体は氷のように冷たい。

 すぐに弥生姫が奥のソファに毛布を敷き、手早く濡れた服を着替えさせ、横に寝かせた。


「どうして、こんなに凍えてるのニャ……。今、店の外は異世界。冒険者や獣人が行き交う、西欧中世風の石畳とレンガの街――のはず」

 そう思い、猫娘は玄関の上に設置された丸い表示盤を見上げた。

 ダーツの的のような盤面には、

【異世界】【人間界】【高天ケ原】【弥生の部屋】

 と書かれ、中央の矢印が横の紐を引くことで回転する仕組みになっている。


 現在、針は【異世界】を指していた。

(……これも、どこかで見たことのあるシチュエーション)


猫娘が来たときは【高天ケ原】だった。その後、弥生姫が【異世界】に切り替えたが、猫娘自身はまだ外へ出ていない。

 嫌な予感がして、猫娘は玄関の扉を開けた。


「……ええええーーーっ!?」


 外は、吹雪の冬山の山頂。

 町どころか人影もなく、道すらない。


「弥生姫、何を考えてるニャ! こんな場所に、お客なんて来るわけない!」

 振り返ると、弥生姫は涼しい顔で答えた。


「大丈夫よ。この骨董店、動くから」


「動くって……“弥生姫の動く骨董店”とでも言うんですかニャ」

「その通り。今は、どうやら山越えの最中みたいね」

 釈然としない猫娘は、それ以上、言葉が出なかった。


 ――しばらくして。

 エルフの兄妹が目を覚ますと、弥生姫は温かいスープを飲ませ、落ち着いたところで静かに尋ねた。


「こんな吹雪の中……道に迷ったの?」

 兄のエルフは、ゆっくり首を横に振り、

「雪山の奥に、“幻の骨董店”があると聞いて……ここを目指して来たのです」

「この店を?」


 兄がうなずくと。

「僕たちの村の水源に、守り神である水竜がいるのですが、その竜が洞窟の奥に隠れてしまい、地下水が枯れてしまったのです」

 そのあと兄は俯いて、続ける。

「普段は、竜を呼び覚ます曲を笛で奏でると、水は再び湧きます。でも……村に代々伝わるその笛を、妹が壊してしまって……」


「妹エルフちゃんが、その奏者なの?」

 猫娘が尋ねると、兄はうなずいて、

「妹は幼い頃から笛が上手で、村の竜神を操る奏者に選ばれました。笛も大切にしていたのですが……ある日、音が出なくなったのです」


 そこで、責任を感じた妹と兄が、決死の覚悟で“魔法の笛”があるという冬山の頂の骨董店を目指した――ということらしい。


「そうですか、優しいお兄さんだニャ。でも、大変だったでしょう」

 猫娘は同情を込めて言い、弥生姫を振り返った。


 目が合った弥生姫は、

「……それは、お気の毒に」

 と、どこか他人事のよう。

その冷たさに、猫娘は思わず食ってかかる。


「弥生姫! この兄妹は命がけでここまで来たのニャ! 何か、霊力のある笛はありませんか」

 弥生姫は少し面倒そうに、

「まあ、猫娘ちゃんがそう言うなら。あることはあるけど……」

 弥生姫は、奥の古い家具の引き出しを開けて、いくつか笛もってきた。


「魔の力を宿す笛といえば、このファーメルンの笛、でもこれは子供にしか効かないし……魔笛のマルシュアスの笛もあるわよ。それと、日本製では……」

 さらに別の棚から


「これは、青葉の笛。源平の戦いで、若き武将にして名笛手、平敦盛の愛用だったもの。それと――これは、京の五条の橋で弁慶と対峙した、女装の牛若丸が吹いていた笛よ」

 次々と現れる超・超・レアアイテムに、猫娘は唖然とし、兄エルフは目を輝かせ、妹エルフは思わず身震いした。


「なんで、こんなすごい品物を持っているニャ。高天ヶ原の蔵にも、ここまでの品は滅多にない。これなら、絶対竜神様も目を覚ましますニャ! 」


「言ったでしょ、私の店の品は、由緒ある物ばかりなの」

 少し得意気な弥生姫。


 エルフの兄は、ここまで来た甲斐があったという笑顔で尋ねた。

「……売ってもらえるのですか」


「もちろんよ! 」

“買う”という言葉に、弥生姫の表情は一転、完璧な営業スマイルになる。


「幾らになりますか。村から集めた銀貨五十枚と金貨二枚あります」

 兄エルフは、持ってきた村人が出し合った硬貨を見せた。

 金貨一枚でもエルフ一年分の給金に相当する。


 だが、弥生姫は硬貨を見ると――突然、表情を変えた。

 さきほどまでの笑顔が消え、兄妹を見下ろすような冷たい目になる。

「猫娘ちゃん。この品、なつかしの骨董市なら、いくらで売る?」


「そりゃー、億はくだらないニャ」

「億ねえー……金貨なら一万枚ってとこかしら」


 それを聞いて、エルフは愕然とした。

 城ひとつが買える値段だ。顔色は真っ青になり、身体が震え、今にも泣き出しそうだ。


「……そういうこと。悪いけど、私たちも商売なの」

 弥生姫はそっけない。


 さすがに猫娘も見ていられず、

「なんとかならないですかニャ。売るのが無理なら、一時的に貸し出すとか……」

 弥生姫は、少しきつい口調で答えた。


「レンタル店じゃないのよ。気持ちはわかるけど、この子たちだけ特別扱いはできないわ」

「そこを……なんとか!」

 懇願され、弥生姫は深く息を吐き、肩を落とした。


「……わかったわ。猫娘ちゃん、アマテラスから預かってきた“ガラクタの箱”、持ってきて。何かあるかもしれない」

 それには猫娘も思うところがあった。


「でも……なつかしの骨董市の品は、基本的に“不思議な力”が宿っているわけじゃない。関係ない人から見れば、本当にガラクタだニャ」

 無駄だという猫娘に、弥生姫は。


「いいから。持ってきて」

 短くそう言った。

気になるなと思ってただければ、ブックマーク、お星さま(☆)をくださいませ! 

よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ