表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫と女神の異界骨董市  作者: 猫ノ あずき
第9話 孤高の豚
32/51

1. 豚男

 険しい山奥の秘境

 人間界と隔絶され魔獣も出没する魔境に、数百年の昔から続く、落ち武者の部落があった。


 村に通じる道は、幾重もの結界が張られ、外界とは特定の者しか行き来できない。

 戦国時代の合戦に破れた武者達が、人の世界からも隔絶されたこの場所に逃げのび、隠れ住んだ落人部落。


 時は流れ、剣も鎧も錆び、戦の記憶も伝承へと変わったが、

 この村だけは、今なお外界から閉ざされたまま生き続けていた。


 その村に、一人の男が住んでいた。

 いや――男、と呼ぶことを、村人は(はばか)った。


 人の体躯(たいく)をしていながら、異様に肥えた胴、太く短い首。

 頭髪はなく、突き出た大きな鼻は上を向き、顔立ちはまるで豚そのもの。

 しかも、口から発せられる声も、人語ではなく、濁った豚の鳴き声だけ。

 例えると、西遊記に出てくる猪八戒と言ったところか。


 かつて、村に迷い込んだ一人の妊婦がいた。

 その女は豚のような容姿の男児を産み落とし、ほどなく姿を消したという。


「親の因果が子に報いたのだ」

「祟りだ。化豚だ」

 そんな噂が囁かれ、やがてそれは真実のように扱われるようになった。


「ブゥ……ブゥ……」


(どうして、俺は人間の声が出ないんだ。どうして、こんな豚みたいな顔なんだ)

 意識は人間だが豚声しか出ない。


 幼いころから、彼は化物として扱われた。

 罵られ、石を投げられ、笑いものにされ、村外れの豚小屋で寝起きする。

 名は与えられず、ただ――


豚男ぶたお


 そう呼ばれ、蔑まれた。

 汚物の処理、死骸の片付け、誰もやりたがらぬ重労働。

 それが、彼の役目だった。


 逃げ出そうにも、村の外は魔獣の棲む森。

 結界に守られぬ場所で、人一人が生き延びられるはずもく、この村だけが生きていける場所なのだ。


 豚男は、不遇な星の元に産まれた自分の境遇を何度も呪った。生きる喜びなど欠片(かけら)もない。

 それでも――豚男は生きた。

 それは、せっかく他の奴らと同じ、この世に生を受けたのに、何一つの喜び、癒やしを知らずに死にたくなかった……だけのことだ。


◇魔獣退治

 成長すると、幼少の頃から豚男をいじめていた筆頭でもある、村長の放蕩息子の発案で、豚男にある仕事が与えられた。


 ―魔獣退治―


 黄泉の世界から現れる魔獣は農作物を荒らし、場合によっては人間も襲う。

 昔から村人数人が交代で退治していたのだが、大怪我をしたり、場合によっては死者がでることもある。その過酷で、危ない作業を豚男を一人に任した……というか押し付けたのだ。


「豚男など、どうせ死んでも惜しくない」

「魔獣に喰われても、化物が一匹減るだけだ」

 嘲笑が、背中に突き刺さる。


 豚男は村の外に追いやられ、何の助けもない。

 手製の石斧や、棒切れ同然の剣、廃材の板を張り合わせただけの盾や兜を作り、一人で戦い、自身を守っている。

 魔獣は倒すと、腐臭と血にまみれ、ひどい匂いがする。食用にもならないので、倒した魔獣は村から離れた場所に引きずって焼却するのだが、そんな汚れ仕事も一人でした。


 こうして、豚男は一人、村のために健気(けなげ)に戦った。

 頑張れば、村人も少しは認めてくれるのではないか……という、甘い願望だった。


 ちなみに、豚男の食事は、村人の残飯をバケツに入れたものが、豚男の小屋の横にあるゴミ捨て場に置かれ、それを食べていた。

 村人は番犬に餌を与えているような、つもりだろう。


 豚男はハエのたかるバケツに入った残飯を取りに行くと、中身を見て

(おお! 今日は肉が入ってる……でも気をつけないと)


 残飯は腐っているものが多く、何度も腹を壊し一人苦しんだ。

 食べられそうな部分だけをより分け、火を起こし、煮沸してから食べるのだが、もとは美味しい料理かもしれないが、ゴミと混ざり合い、どろどろで形はなくなり、味などあったものではない、まさに家畜の餌だ。


 魔獣は昼、夜となく出没する。

 村の要所に張り巡らした鳴子がなると、豚男は手製の武器を持ち、魔獣退治に出かけた。


 魔獣は大きな狼のような獣、猿のような手を使う獣もいる。

 最近は、鋭い牙のある獣や、棒のような武器を持つ獣まで出てきた。

 最初の頃の豚男は傷が絶えなかったが、幾つもの死線をかいくぐり強くなり、今は余裕で倒している。


 そんな豚男のおかげで、村は平穏を保っているように見えるが、事態は豚男や村人が思っているほど、甘くなかった。


 一人で戦う豚男は、数匹で出没する魔獣を全て退治できず、逃げ帰る魔獣も多い。

 以前は村人で確実に全滅させていたが、逃げ帰った魔獣は学習し、その後、思いがけない行動にでることになる。


こうして、日々魔獣との戦いと、汚物処理などの仕事をとしている豚男の元に、最近、病気の母と二人暮らしの娘が時々訪ねてくるようになった。



気になるなと思ってただければ、ブックマーク、お星さま(☆)をくださいませ! 

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ