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猫と女神の異界骨董市  作者: 猫ノ あずき
第8話 ウサギとカメの骨董市
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4. ウサギとカメ

 横でやり取りを聞いていた銭亀は、黒ウサに問いかけます。

「なつかしの骨董市のまねか」

「いや、良い品を少しでも高く売ろうとする、需要と供給を見極めた営業手腕さ」

 黒うさの返答に銭亀は、にたりと笑って何も言いませんでした。


 その後も黒ウサは店番もせず、あちこちをうろついて他の店の品物を眺めては、なじみの店主たちと談笑していました。

 見渡せば、ほこりをかぶったり、汚れたりした骨董品が、店先に堂々と並んでいます。この時ばかりは、つまらないゴミのような品でさえ、なぜか人の目を引きつけ、思わず手に取ってみたくなるのです。


 それは、捨てられることなく生き延びてきた、狡猾ともいえるしたたかさが価値となって、フェロモンのように滲み出てで、人を惹きつけるためなのかもしれません。

 そんな事を考えながら、黒ウサは途中の屋台で、可愛い猫の小さな置物を見つけ、思わず買ってしまいました。


 その直後、ふと五重の塔に目を向けると、あの少女が微笑みを浮かべて立っています。

 黒ウサが駆け寄ると、少女はジト目になって言いました。


「それ、猫のお姉ちゃんへのプレゼントでしょう」

 黒ウサは顔を真っ赤にして、

「べっ! べつに、キーホルダーにでもしようかと思っただけさ」

 少女はそのことは追求せず、静かに続けました。


「このお寺の周辺は、古い道具だけでなく、飼えなくなった猫も、よく捨てられた場所だったんだよ」

 すると黒ウサは、少しさみしげな表情になり、

「知ってる……猫娘はここで生まれたんだ」


 少女は、納得したようにうなずいたあと、顔をあげて言いました。

「リコーダー、売らなかったのだね」


「いや、売れなかったんだ」

 そう返すと、少女は苦笑いを浮かべました。


「お兄ちゃん、人を乗せるのがうまいね。リコーダーを買い戻すため、頑張ってもらうように促したの」


「そんなことないさ、あのお姉さんはそこまでしても手に入れたい、君との思い出。そして、想いを伝えてくれたリコーダーだった。だから、それだけ価値のある、それ相応の値段にしたんだ。値引きなんて、できないよ……それだけのことさ」


 すると、少女は黒ウサを再びじっと見つめて。

「たまには、いいこと言うのだね。というか、それで何人の女の人を騙したの」

 と、意地悪そうに言います。


「なっ……なんだよ、子供が言うことか! そんなことしてねーよ」

 わめくように答えると、少女はくすりと笑ったあと、真剣な眼差しで黒ウサを見つめながら。


「あの子と、よくこの骨董市に来てたから、返すためここで待っていたの。ここはとても強いパワースポットだから、私みたいな弱い霊魂でも漂っていられる。でも、人間には気づかれない。お兄ちゃんは兎耳のアヤカシだから気づいてくれた」


 黒ウサは腕を組み、少女の何かを察したように、

「ここで、ずっと待っていたのか」

「うん。でも、これで行ける……」

「どこに」


「どこって……私はここにいてはいけないの。わかるでしょ」

 少女はそう言って、穏やかな笑顔を浮かべました。

「ありがとう。かっこいいけど、商売は下手なウサ耳のお兄ちゃん」

 そう言いながら、少女の姿は宙に舞い、次第に体が霞んでいきます


「おい! 」

 黒ウサの呼びかけも虚しく、少女は木漏れ日のような笑顔を残して、霧散するように消えていきました。

 仰ぐと、流れる雲を背景に、天空を指し示す五重の塔に導かれて、少女の魂が昇っていくような気がしました。


 黒ウサは、少女を見送ったあと……ふと思います。

(そういえば、あの娘はなぜ、猫娘のことを知ってたんだ)


◇ウサギとカメ

 黄昏時……

 骨董市も終焉で、片づけが始まっています。銭亀は売れ残った品物を、のんびりと片付けていました。


 黒ウサは、とぼとぼと自分の出店に戻ってくると、片付けに手を貸しながら言いました。

「ところで、今日の売り上げはどうだった」

 すると、銭亀は売上箱を見せ、黒ウサは愕然とします。

「おおーー! 五万円はあるじゃないか! いつのまに」


 銭亀は、数十円、数百円の品物を良心的にコツコツと売って、いつの間にか黒ウサの売上を、はるかに上回っていたのです。

 一方の黒ウサは、猫娘へのお土産だけでなく、あちこちの屋台で買い食いをして、ほとんどお金は残っていません。


「銭亀さーん……そのー……一割、いただいて、よろしいでしょうか」

 黒ウサは手揉みしながら、情けない声てお願いするのでした。


<ウサギとカメの骨董市 ー了ー>


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