4. ウサギとカメ
横でやり取りを聞いていた銭亀は、黒ウサに問いかけます。
「なつかしの骨董市のまねか」
「いや、良い品を少しでも高く売ろうとする、需要と供給を見極めた営業手腕さ」
黒うさの返答に銭亀は、にたりと笑って何も言いませんでした。
その後も黒ウサは店番もせず、あちこちをうろついて他の店の品物を眺めては、なじみの店主たちと談笑していました。
見渡せば、ほこりをかぶったり、汚れたりした骨董品が、店先に堂々と並んでいます。この時ばかりは、つまらないゴミのような品でさえ、なぜか人の目を引きつけ、思わず手に取ってみたくなるのです。
それは、捨てられることなく生き延びてきた、狡猾ともいえるしたたかさが価値となって、フェロモンのように滲み出てで、人を惹きつけるためなのかもしれません。
そんな事を考えながら、黒ウサは途中の屋台で、可愛い猫の小さな置物を見つけ、思わず買ってしまいました。
その直後、ふと五重の塔に目を向けると、あの少女が微笑みを浮かべて立っています。
黒ウサが駆け寄ると、少女はジト目になって言いました。
「それ、猫のお姉ちゃんへのプレゼントでしょう」
黒ウサは顔を真っ赤にして、
「べっ! べつに、キーホルダーにでもしようかと思っただけさ」
少女はそのことは追求せず、静かに続けました。
「このお寺の周辺は、古い道具だけでなく、飼えなくなった猫も、よく捨てられた場所だったんだよ」
すると黒ウサは、少しさみしげな表情になり、
「知ってる……猫娘はここで生まれたんだ」
少女は、納得したようにうなずいたあと、顔をあげて言いました。
「リコーダー、売らなかったのだね」
「いや、売れなかったんだ」
そう返すと、少女は苦笑いを浮かべました。
「お兄ちゃん、人を乗せるのがうまいね。リコーダーを買い戻すため、頑張ってもらうように促したの」
「そんなことないさ、あのお姉さんはそこまでしても手に入れたい、君との思い出。そして、想いを伝えてくれたリコーダーだった。だから、それだけ価値のある、それ相応の値段にしたんだ。値引きなんて、できないよ……それだけのことさ」
すると、少女は黒ウサを再びじっと見つめて。
「たまには、いいこと言うのだね。というか、それで何人の女の人を騙したの」
と、意地悪そうに言います。
「なっ……なんだよ、子供が言うことか! そんなことしてねーよ」
わめくように答えると、少女はくすりと笑ったあと、真剣な眼差しで黒ウサを見つめながら。
「あの子と、よくこの骨董市に来てたから、返すためここで待っていたの。ここはとても強いパワースポットだから、私みたいな弱い霊魂でも漂っていられる。でも、人間には気づかれない。お兄ちゃんは兎耳のアヤカシだから気づいてくれた」
黒ウサは腕を組み、少女の何かを察したように、
「ここで、ずっと待っていたのか」
「うん。でも、これで行ける……」
「どこに」
「どこって……私はここにいてはいけないの。わかるでしょ」
少女はそう言って、穏やかな笑顔を浮かべました。
「ありがとう。かっこいいけど、商売は下手なウサ耳のお兄ちゃん」
そう言いながら、少女の姿は宙に舞い、次第に体が霞んでいきます
「おい! 」
黒ウサの呼びかけも虚しく、少女は木漏れ日のような笑顔を残して、霧散するように消えていきました。
仰ぐと、流れる雲を背景に、天空を指し示す五重の塔に導かれて、少女の魂が昇っていくような気がしました。
黒ウサは、少女を見送ったあと……ふと思います。
(そういえば、あの娘はなぜ、猫娘のことを知ってたんだ)
◇ウサギとカメ
黄昏時……
骨董市も終焉で、片づけが始まっています。銭亀は売れ残った品物を、のんびりと片付けていました。
黒ウサは、とぼとぼと自分の出店に戻ってくると、片付けに手を貸しながら言いました。
「ところで、今日の売り上げはどうだった」
すると、銭亀は売上箱を見せ、黒ウサは愕然とします。
「おおーー! 五万円はあるじゃないか! いつのまに」
銭亀は、数十円、数百円の品物を良心的にコツコツと売って、いつの間にか黒ウサの売上を、はるかに上回っていたのです。
一方の黒ウサは、猫娘へのお土産だけでなく、あちこちの屋台で買い食いをして、ほとんどお金は残っていません。
「銭亀さーん……そのー……一割、いただいて、よろしいでしょうか」
黒ウサは手揉みしながら、情けない声てお願いするのでした。
<ウサギとカメの骨董市 ー了ー>
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