1. 東寺の骨董市
黒ウサと銭亀は、ポンコツ軽トラックに荷物を山ほど積んで、骨董市の会場に向かっていました。
黒ウサはハンドルを握りながら、ちらりと助手席を見ると。
「銭亀の爺ちゃん、そろそろ運転代わって………って。寝てる! 」
狭い車内の横で、白髪に、白い髭と眉毛、まるで仙人のような初老の銭亀が、いびきをかいて寝ています。
「おいおい、寝るのは亀じゃなくてウサギの方だろ。爺ちゃんの仕事は遅いから、いつも僕がバタバタ働いているんだぜ。しかも、最近アマテラスのババア、売り上げノルマだの、なんだのってうるさいし」
ぶつぶつ文句を言いながらも、黒ウサは慣れた手つきでハンドルを操り、どうにか骨董市の会場に辿り着きました。
◇
二人がやって来たのは、京都の東寺で開かれる骨董市。
境内に足を踏み入れると、まず目に入るのは、木造塔として日本一の高さを誇る五重塔でした。悠然とそびえ立つその姿は、長い年月を見下ろしてきた威厳に満ち、弘法大師ゆかりの古刹らしい重厚な空気を漂わせています。
その一方で、参道や広場には所狭しと露店が並び、境内は祭りのような賑わいです。陶器、古着、古道具、玩具、茶碗などが出品され。さらに東南アジアやアフリカを思わせる、由来の分からない置物や人形まで並んでいます。雑多で混沌とした光景ですが、だからこそ思わぬ掘り出し物に出会える期待感があり、見ているだけでも時間を忘れてしまいます。
黒ウサも、その一角を間借りして店を構えていました。
「僕も早く、猫娘みたいに自分の骨董市を開きたいものだなぁ~」
そう言う黒ウサは、長い兎耳を畳んで隠すため、ボブカット風に整えた髪型をしています。細身の体型によく似合う黒のチノパンに、襟付きのシャツ、黒のチョッキという装いは、どこかバーテンダーのような雰囲気です。
整った顔立ちも相まって、骨董市には異色な姿ですが、年配の女性からは、やたらと可愛がられるのでした。
「だったら、もう少しまじめにやることだな」
作務衣姿の銭亀が、どこか他人事のようにぼやきます。「猫娘より長くやってるのに、すっかり追い抜かれてるじゃねえか」
「まじめにやってるよ! だいたい爺さんこそ、やる気ないじゃないか、直ぐに寝るし」
「年寄りはいたわるもんだ」
「都合のいいときだけ年寄りだ。だいたい、美少年の僕が、なんで銭亀なんかとペアーなんだよ。アマテラス様もひどいぜ」
「だったら、だれがいいんだ。猫娘か? 」
黒ウサは、急に真っ赤になって
「だっ! だれが、あんなやつと……」
銭亀はニヤニヤしています。
「なんだよ、いつも売上の大部分は僕なんだぜ」
からかわれて、少しムカついた黒ウサはふと思い出ついたように言いました。
「そうだ! 今日は各自で売り上げた分を取り分としようぜ。まあ、全額もなんだから、一割は渡すとして。いいな! 」
いつもは売上を山分けするのですが、銭亀はため息をついて了承しました。
黒ウサは猫娘のように骨董市を単独では、まだ開けません。こうして各地で開催される骨董市やガラクタ市などを巡って細々と商いをしているのでした。
もっとも、にここでは、なつかしの骨董市のような法外な値段では売りません。そもそも黒ウサは、貴重な骨董品自体、持っていないのです。
◇
昼が近づくにつれ、骨董市はますます人であふれ、境内には熱気がこもってきました。参拝客と買い物客が入り混じり、あちこちから値段交渉の声や笑い声が聞こえてきます。
黒ウサの店先には、陶器や雑貨、玩具などが雑然と並んでいます。どれも無難で、これといった特徴がないため、多くの客はちらりと見るだけで通り過ぎていきました。
そこへ、派手な化粧をした壮年の女性が足を止め、ネックレスを手に取ります。
黒ウサは、すかさず声をかけました。
「お姉さん、さすがお目が高いです。このネックレス、本当は二十万円の品なんですが……」
女性の反応を一瞬で見極め、買う気が薄いと判断すると、即座に言葉を変えます。
「綺麗なお姉さんには、また来ていただきたいので……特別に、五万円でどうですか」
どう見ても、お姉さんではないですが、黒ウサは一切きにせず、美辞麗句を並べ立てます。
「まあ、綺麗なお姉さんなんて……でも五万円はねぇ」
「うーむ……」黒ウサは腕を組み、真剣そうに考え込みます。もちろん、完全な演技です。
「わかりました! お姉さんのような美しい方にだけ、特別に内情をバラしましょう」そう言って、黒ウサは女性の耳元に顔を寄せ、ひそひそと囁きました。
「実はこの値段、私の取り分が二万円なんです。僕は一万円で十分ですから……二万円でどうでしょう」
二十万円が二万円という無茶な話ですが、真剣な眼差しで見つめられ、女性は思わずたじろぎます。
「………じゃあ、買おうかしら」
すっかり口説き落とされた形でした。
黒ウサは女性の手を両手で握り、満面の笑みを浮かべます。「ありがとうございます。今日はお姉さんのような美しい方にお会いできて、僕は本当に幸せ者です。ぜひ、またいらしてください」
歯の浮くような台詞を、いけしゃあしゃあと並べますが、女性は満足そうに頷き、品物を受け取って去っていきました。
実は、このネックレスの仕入れ値はニ千円ほど。
客が去ったあと、黒ウサは軽く伸びをして言いました。
「ちょろいもんよ。これで一万八千円の儲け、今日一日の稼ぎにはなったな。あとは適当にやるか。それから、銭亀の爺さん、一割の千八百円やるよ」
あまりにも飄々とした黒ウサの態度に、銭亀は小銭を受け取りながら、何とも言えない表情を浮かべるのでした。
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