3 猫娘の骨董市場 (挿絵あり)
最近勉強中の生成AIで、末尾に挿絵を載せました。
尋問を受け、殴られて顔を腫らした猫娘を、村の人々は痛ましげに見つめていました。
小春おばさんは見ていられなくなり、こっそりと食事を持って牢屋を訪れます。
しかし猫娘は、殴られたことなど少しも気にしていませんでした。
「このままでは、あの船の出港を……止められない……」
悔しさを噛み殺すように拳を握りしめ、唇を震わせて続けます。
「お願いです。せめて村の人だけでも……雪風に乗ってほしいニャ」
涙をこらえきれず訴える猫娘に、小春おばさんは首をかしげました。
「……どうして、雪風なの?」
「…………」
理由まで言うことはできません。
「お願いニャ……」
懇願するしかできない猫娘。
あとは村人の判断……いや運命に委ねるしかなかったのです。
すると、小春おばさんが、柔らかく口を開きました。
「猫はこの島の守り神。猫神様のお使いのような猫娘ちゃんが、そこまで言うのだし。村の人に話してみましょう」
「おばさん……」
「だいたい、私達はこの島以外に行く宛もないから、どこでも同じだし」
猫娘は胸が熱くなり、ここが“猫の島”でよかったと、心から思いました。
腫れた目で無理に笑顔を作り、何度も、何度も、うなずきます。
その後、島の代表が「呉へ向かいたい」と申し出たことで、村人たちは雪風に乗ることが決まりました。
◇
出港直前。
牢屋で横になっている猫娘のもとへ、小春おばさんが最後の食事を持ってきました。
「一緒に行けなくて……ごめんね」
そう言って、懐から大切そうにレンゲを取り出します。
「これは、大事にするから」
猫娘は努めて明るく笑い、
「あまり私と一緒にいると、小春おばさんも疑われるニャ。早く行くニャ」
小春おばさんは何も言えず、俯いたまま牢屋を後にしました。
牢屋の小さな窓から、雪風が静かに出港していくのを見届けてから、猫娘は食事に手を伸ばします。
――かちり。
おにぎりの中に、硬いものが入っていました。
「……鍵……」
小春おばさんは、そっと牢屋の鍵を忍ばせてくれていたのです。
駐在所の人間も、見て見ぬふりをしてくれたのでしょう。
猫娘は鍵を強く握りしめ、音を立てぬよう牢屋を抜け出しました。
けれど今の猫娘には、高天ケ原へ戻る力はありません。
本州の高千穂峰へ行かなければ帰れないのに、海を渡る霊力が尽きていたのです。
島の猫たちと山に隠れようと、猫神社へ向かう途中――
海を見渡せる高台から、水平線に雪風の小さな船影が見えました。
「これで……村人は助かる……」
けれど、胸が締めつけられます。
「でも、輸送船の人たちは……」
もっと何かできなかったのか……
神に近い存在で、未来が見えるがゆえに、救えなかった命の重さが、なおさら胸にのしかかります。
「それに、今回のことはアマテラス様には内緒にしておかなくては……」
「なにを、内緒かなーーー」
背後から、聞き覚えのある、のんびりとした声。
「――っ!」
ここには、誰もいないはず。
恐る恐る振り返ると、そこに立っていたのは――
「ア、アマテラス様……!」
艶やかな羽衣をまとったアマテラスが、含みのある微笑みを浮かべていました。
「あの……その……」
猫娘は言葉に詰まりますが、アマテラスは気にも留めず、海の方を見つめます。
そして、どこか悲しげに、独り言のように語り始めました。
「私は、その気になれば、この悲惨な戦争を止めることができたかもしれません。私は、それだけの神力を持っています」
「……」
「でもね、力で世の趨勢を変えるのは、力の行使である戦争と同じだと思ったのです………」
自分にも責任があるような言い方をするアマテラスは、やりきれない、といった表情で
「身銭を切ってお賽銭を捧げ、願い、努力して、ささやかな希望を掴もうとする」
「……」
「私たち神の役目は、救いを求める人に、そっと手を差しのべることなのです」
最後はうつむいて、自分自身に諭すように語るアマテラスに、猫娘は一歩前に出て。
「救済は神の専売特許ではありません。人間にだって出来ますニャ! 」
アマテラスは驚いたように顔を上げ、ふっと微笑みました。
「ごめんなさい、つい愚痴を言ってしまいました……さあ、帰りますよ。もうすぐここも戦場になります。優秀で可愛い従業員を死なせるわけにいきません」
「はいニャ……できれば、野良猫も」
アマテラスは、やさしく頷きました。
そのとき、猫娘はふと思います。
(島の人が脱出する、タイミングで。しかも、こんな小さな離島に、かの雪風が寄港するなど、偶然にしては出来すぎている。まさか……)
猫娘はアマテラスを見上げますが、アマテラスは島の方を向いて。
「ここは美しい島ね、砂浜もきれいだし。戦争が終わったら、みんなで海水浴に来ましょう」
猫娘は笑顔になり
「ぜひ、来てくださいニャ! 」
◇村人の想い
雪風は無事に呉へ到着しました。
一方、輸送船は――猫娘の予知どおり撃沈され、多くの犠牲者を出しました。
その話を聞いた村人たちは、亡くなった人々を悼むと同時に、猫娘のことを思い、深く感謝しました。
終戦後、島は壊滅状態でしたが、小春おばさんをはじめ、少しずつ人が戻り、復興が進められました。
村を救った猫娘は、猫神様のお使いに違いない。
そう信じて島中を探しましたが、猫娘だけでなく野良猫達も、ついに見つかりませんでした。
酷い仕打ちをしたせいで、もう戻らないのか。
それとも、命を落としたのか。
猫娘を島に置き去りにしたことを、村人たちはとても悔やみました。
◇
数年後。
島の暮らしがようやく落ち着いたころ――
村人たちは、猫娘を偲び、露店を開いていた道端に、小さな石碑を建てました。
『猫娘の骨董市場』
その場所には、建物も店も出さないと決めました。
――その翌日。
石碑の前に、大きな籠を背負った少女が、周りに沢山の猫をつれて立っています。
すぐに、村人達が集まってきました。
「ここで、骨董市をひらいてもいいですかニャ」
笑顔の猫娘と野良猫達を、村人たちは大歓迎したのでした。
<南の島の骨董市ー了ー>
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