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猫と女神の異界骨董市  作者: 猫ノ あずき
第7話 南の島の骨董市 (後編)
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2 雪風 

 猫娘を始め村人達は戦闘機が頭上を飛ぶ大きな爆音と、機銃掃射の乾いた音を、身を縮めながら聞いていました。

 それに――出ていった小春おばさんのことも、気がかりでした。


 やがて飛行機の姿が遠ざかり、恐る恐る港へ戻ってみると、猫娘が乗ってきた貨物船が、どうやら標的にされたらしく、船体は無残にも傷だらけになっていました。

 舷側には無数の弾痕が刻まれ、マストの一部は折れ曲がっています。


 幸い、爆弾は投下されなかったようで、村そのものに被害はありませんでした。


「……もし、乗っているときに見つかっていたら……」


 そう思っただけで、背筋に冷たいものが走り、猫娘は思わず身震いします。


 猫娘がいた場所にも流れ弾が飛んできたらしく、地面や柱には弾痕が残り、並べていた品物は影も形もありません。

  為す術もなく、茫然と立ち尽くしていると――


「可愛い行商人さん、これでしょ」

 聞き覚えのある声とともに、小春おばさんが姿を現しました。

 その腕には、猫娘の背負っていた籠が抱えられています。


「おばさん!」

 猫娘は目を見開き、思わず駆け寄りました。

 品物は無事でしたが、猫娘はそんなことより


「空襲の中を、危ないですニャ! 」

「大丈夫、大丈夫。私は大人だからね」

「そんなー、もう骨董品はいらないから! 」

 猫娘は声を震わせ、涙ながらに訴えます。


「それより、この島も戦場になるそうなの。村人は明日くる輸送船で本土に逃げることになったから、一緒に行きましょう」

 猫娘は小さく息をのみ、うなずきました。


「わかりました……。でも、ここも戦場になるのですか……」

 周囲で不安そうに鳴く猫たちを見回し、ぽつりと続けます。

「……野良猫までは、無理でしょうニャ」


 翌朝。

 他の離島からも避難民を乗せた輸送船が寄港し、村人たちは次々と乗船していきました。

 しかし猫娘の胸には、どうしても拭えない嫌な予感がありました。


(この船は……途中で、潜水艦の攻撃を受けて沈む)


 神に近い存在であるがゆえに、分かってしまう未来。

 けれど、それを口にすることはできません。


 アマテラスから「未来予知で直接、人を助けてはいけない」と、厳命されているのです。

 それは、歴史をねじ曲げ、特定の人だけを助ければ、助けられなかった人はどう思うでしょう、依怙贔屓する神を恨むかもしれません。


 かといって、船に乗らず村に残っていたとしても、ここが戦場になり多くの犠牲者が出るのは間違いありません。

 猫娘が港で立ち尽くしていると、低く重々しい汽笛が響きました。

 一隻の軍艦が、ゆっくりと入港してきたのです。

 その姿を見た瞬間、猫娘は息を呑みました。


「あの船は……まさか……」

 桟橋しに艦名を確認し、まさかと思いました。


「駆逐艦、雪風!」


 常に最前線に出撃し、終戦まで生き残った、神宿るとも言われた駆逐艦。

 呉の港に整備に帰る途中に、たまたま立ち寄ったようです。


(あの船は、沈まない! )


 雪風は、太平洋戦争の始めから主な激戦に参加し、撃沈された船の乗員や、漂流している人、危険な撤退作戦で兵士を数知れず救助してきました。

 終戦後は、動く船が少ないため、日本と戦地を休みなく往復し、復員兵を故郷に送り届けた船です。


 でも、この船が沈まないことも話せません。

 もっとも、そんなことを言っても、今の村人は信じないでしょうが。


(なんとか、村人を雪風に乗るように仕向けなければ。それだけでなく、今寄港している輸送船の人達も……)


 猫娘は、歴史に手を加えるなという、猫娘は、アマテラスの厳命に背かぬよう、グレーゾーンで勝負することを決めました。


 猫娘は夜、密かに輸送船に忍び込み、輸送船の機関部を壊し、船が出港できなくして、全員が雪風に乗るように仕向けようと考えたのです。

 猫の頃の身のこなしが出来るので、音もなく船に飛び移り、機関部に入りました。

 ――しかし。

 どこを壊せば「出港できない程度」で済むのか、分かりません。

 やむを得ず、目についた配管を外した瞬間、


 シューッ!


 高温の蒸気が吹き出しました。

「誰だ!?」

 すぐに船員が駆けつけ、猫娘はあっけなく取り押さえられます。


 敵の工作員、あるいはスパイの疑いをかけられ、そのまま村の駐在所の牢屋へ。

 国家反逆のスパイ容疑は、極めて重い罪でした。


 その結果、猫娘は――

 避難船にも乗せられず、わずかの駐留兵と、この島に置き去りにされることになったのです。

気になるなと思ってただければ、ブックマーク、お星さま(☆)をくださいニャ! 

よろしくお願いしますニャ!

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