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猫と女神の異界骨董市  作者: 猫ノ あずき
第7話 南の島の骨董市 (後編)
25/51

1 戦時の離島の村

 太平洋戦争末期--

 猫娘は行商のため、貨物船に乗って、とある南の離島へ向かっていました。


 その島は、古くから猫が多く棲むことで知られ、猫を守り神として祀り、大切にしてきた土地です。そうした縁もあり、猫娘は戦前から、何度もこの島を訪れていました。


 当時の猫娘は、一人で自分の体よりも大きな籠を背負い、繕いだらけの着物にモンペ姿で、骨董品や日用品を売り歩く行商人でした。


 船上のデッキにもたれ、潮風に耳を揺らしながら、猫娘は一人、水平線を眺めていました。青く澄んだ海の向こうに、目的の島影が、ゆっくりと近づいてきます。


「最近は、戦争も激しくなって全然売れないにゃ。鉄製品は軍備に使うと言われて没収されたし。花瓶や、小さな食器くらいしか残ってない。高天ケ原の蔵は、戦争中は無くなったり壊れたりするからといって、売れそうな品物が出てこない。また、営業成績ゼロ、早く戦争が終わらないかニャ」

 猫娘は一人、ぼやいています。


 船が島に到着すると、猫娘は大きな籠を背負って波止場の先の村に向かいました。

 村の入口、道端の空いた場所に籠をおろし、風呂敷を広げて品物を並べます。

 欠けた茶碗などの食器、雑貨、一輪挿しの花瓶。

 一見すると、どこかで拾ってきたような、地味な品ばかりです。


 広げた品物を前にして、お客を待ちますが、人通りは多くありません。

 たまに見かける人はいても、たいていは通り過ぎていきます。


 あくびをしながら、ぼんやりと防波堤の先に見える、穏やかに波打つ海を眺めていると。

「おや、猫娘の行商人さん。また来たのね」

 幼い子を連れた母親が、声をかけてきました。


「これは、小春おばさん。その子、この前来たときは、抱っこされてたのに……もう歩けるのニャ」

 一歳過ぎたほどの子供が、よちよちと母親の足元にしがみついています。

 猫娘は目を細めて笑いました。


「結構やんちゃで、大変なの」

 小春おばさんはそう言いながら品物を見渡し、

「……あまり売れていないようね」


「そうですニャ……」

 力なく猫娘は答えました。


 戦時中は高価な骨董品が売れず、生活に使う品を安く売って、その日その日の食費に充てるのが精一杯だったのです。

小春おばさんは、並べた品物を見渡し、隅に置かれた一本のレンゲに目を留めました。 


「それじゃあ、この子が自分で食事できるように……この、猫の絵の入った子供用のレンゲを買おうかな」

「ありがとうございます! これは、ニ十銭ですニャ」

 猫娘は嬉しそうに答えました。

 新聞紙で包もうとしましたが、小春おばさんは首を振り、きれいに拭いて、そのまま子供に手渡しました。

 子供はうれしそうに握りしめ、振り回したり、口に入れてなめたりしています。


「この子が初めて、自分の手で握った食器だよ」

 小春おばさんが言うと、猫娘も子供の様子を微笑んで見つめ


「実は、お金がなくて困っていました。本当にありがとうございますニャ」

 その日売れたのは、小春おばさんが買ってくれたレンゲだけでしたが、二十銭で、カンパンを買うことができました。


 ちなみに、夜は猫神社の社の中で勝手に野宿しています。

 村の人も黙認しているようで、たまに差し入れをくれる人もいました。さらに、普段になく沢山の野良猫が集まって、ニャーニャーと賑やかでした。


 翌日も同じ場所で露店をひらいていると、小春おばさんがやってきました。

「この子、昨日買ったレンゲで、初めて自分で食べたの。今まで嫌がっていたのに、このレンゲだけは手放さないのですよ」

「それはよかったです。気に入ってもらえて、嬉しいですニャ」

 猫娘と小春おばさんは、レンゲを持って離さない子供を微笑んで見ています。


 ――そのときです。

 突然、空襲警報が鳴り響きました。


 猫娘は、はっとして周囲を見回しましたが、どこへ逃げればよいのかわからず、立ち尽くしてしまいます。


「こっちにおいで!」

 小春おばさんが叫び、猫娘の手を引きました。

「は、はいニャ!」

 猫娘が品物を片付けようとすると、飛行機の爆音が聞こえます


「早く! 品物は置いてきなさい! 」

「でも、これは大切な商売の品です。無くなったら、食べて行けなくなりますニャ」

 泣きそうな猫娘に、

「命が大事でしょ。早く!」


 そう強く言われ、猫娘は歯を食いしばり、小春おばさんに引っ張られるまま、山の麓に掘られた防空壕へと逃げ込みました。

 しかしその後、おばさんは家に寄ってくると言って、子供を猫娘にあずけて出ていったのです。

気になるなと思ってただければ、ブックマーク、お星さま(☆)をくださいニャ! 

よろしくお願いしますニャ!

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