3 天女の婚活
健太は、隅に置いていた箱を引き寄せ、詰め込んでいたガラクタを広げて見せました。
島で拾った茶碗などの食器、錆びついた機械の破片、ガラスのように透き通ったきれいな石。どう見てもガラクタかゴミですが、猫娘は箱の奥に残っていた一つの品に目を留めました。
「これは……なぜ、こんなところにあるニャ」
それは、食事に使う、猫の絵が描かれた子ども用のレンゲでした。猫娘の胸に、懐かしい記憶が静かに蘇ります。思わず見入っていると、横から健太が何気なく言いました。
「あ、それ。茶碗とかスプーンと一緒に箱に捨てられてたやつだよ。欠けてるし、つまらないから、ほとんど捨てたんだけど……なぜか、これだけ残ってた」
健太は本当に気にも留めていない様子です。しかし猫娘は、レンゲをそっと指でなぞり、感心したように言いました。
「これは……なつかしの骨董市も顔負けですニャ」
「え、こんな物が?」
健太は首をかしげました。
「そう、こんな物が、なのニャ。健太君なら、これをいくらで売りますか?」
「えっと……普通なら、十円でも高いかな」
「その通りですニャ。普通なら十円どころか、ただでも売れない。もはやゴミです。でも――」
猫娘は、健太の目をまっすぐに見ました。
「今の私なら、十万円でも買いますニャ。売ってくれますか?」
「えっ!?」
健太は声を裏返らせました。十万円など、想像もしたことのない金額です。思わず父親の方を見ようとしましたが、猫娘は静かに健太を見つめ続けています。その視線は、「自分で考えなさい」と語っているようでした。
まだ幼い健太には重い判断かもしれません。それでも、少し考えたあと、健太はきっぱりと言いました。
「お姉ちゃん……十円で売るよ」
迷いのない答えでした。猫娘は一瞬目を見開き、次の瞬間、満面の笑みで健太の頭をなでました。そして、十円玉を一枚渡し、レンゲを大切そうに受け取ります。
「これは、私の遠い昔の思い出の品。そして――今は、健太君が初めて売った骨董品。私が健太君から初めて買った、健太くんの心のこもった品物ですニャ」
猫娘はレンゲを胸に抱きました。
「もう、私には値段のつけようがない、大切な物になりましたニャ」
そのとき、どこからかホタルの光が流れ始めます。
猫娘は名残惜しそうに品物を眺めている村人たちに向き直りました。
「これで閉店です。またのご来店を、心からお待ちしておりますニャ」
◇巫女達のバカンス
骨董市が終わった翌日、トラックに荷物を詰み込んだあと、猫娘は夕方の便がくるフェリー乗り場に向かいました。
しかし、トラックは公民館に停めたままで、なぜか帰る気配がありません。
黒ウサは、だるそうに言いました。
「次のフェリーで帰らないのか」
「明後日のフェリーでかえるニャ」
「ええー、早く帰ろうぜ。こんな、何もない島つまらないよ」
面倒くさそうな黒ウサに、猫娘は含みのある目つきを向けました。
「昨日、島の人がだれでも来られることを、アマテラス様が、なぜ許可したか知りたいと、言っていたニャ」
「えっ……まあ、な」
「もうすぐ、その答えがわかるニャ」
黒ウサは渋々うなずき、猫娘とフェリー乗り場で待ちました。
しばらくして、フェリーが波止場に着くと、降りてきたのは……
「猫ちゃーーーん! 」
聞き覚えのある声です。
サンダル履きにサングラス、派手なTシャツに、大きな浮き輪を持ったバカンス姿のアマテラスが出てきました。
「ええ! アマテラス様」
一瞬、青ざめた黒ウサでしたが……
その後ろから、アメノウズメが細いお腹をのぞかせたタンクトップにホットパンツという、かなり開放的な姿で降りてきました。さらに数人の巫女神たちも、薄衣の夏の普段着で続きます。
「おおおお! これは、高天ケ原美女軍団! 」
「軍団とは失敬な、女子会だニャ」
言うまでも無く、村人総出のお出迎えとなります。
健太のお母さんも駆けつけ、懐かしそうにアマテラスやアメノウズメと挨拶を交わしています。
いつもの巫女装束とは違い、ミニスカートやホットパンツで素足やおへそを惜しげもなく見せる巫女神たちに、黒ウサはデレデレです。
「おい、まさか、この南の島でのバカンスが目的で許可してるのか! 確かにこれじゃあ、島の人も秘密をばらさないよなー………特に男どもは」
「まあ、離島で若者が離れていくから、嫁不足で。婚活もかねているニャ」
「婚活?……」
目を丸くする黒ウサに、猫娘はさらりと言いました。
「ちなみに、健太のお母さんは元、高天ケ原の巫女神で。以前ここに来た時、健太のお父さんと知り合って結婚したニャ」
「まじか! それで、アマテラス様や巫女神と親しく話しているのか」
「巫女神は人間と結婚すると霊力はなくなるので、今は普通の人間だけど。幸せに暮らしているニャ」
からくりを知った黒ウサですが、まだ納得できない様子です。
一方、猫娘は夕陽に染まる海を見つめ、健太から買ったレンゲをそっと握りしめました。
(それだけじゃ、ないんだニャ……この村には、大きな貸しがあるんだニャ)
猫娘は、前の戦争での出来事を、静かに思い出していました。
後編に続く……
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