1.南の離島に骨董市がやってきた!
水平線に続く碧海の海、青空には真綿をちぎったような雲の流れが早く、真夏の陽射しが降り注いでいます。
海辺に遊びに来ていた小学生の健太は、砂浜の隅で、捨てられた茶碗やスプーンなどの食器類が詰め込まれた箱を見つけました。
「ゴミみたいだけど……いろいろ入ってるし。一応、持って帰るか」
箱を抱えたそのとき、沖合から漁船が戻ってくるのが見えました。
「お父さんだ!」
健太は砂を蹴って漁港へ駆けていきました。
港では、お父さんが魚を山盛りにした籠を船から揚げ、母親がそれを台車に乗せて運んでいます。健太は船のそばまで走り寄りました。
「なんだ、それは。またガラクタを拾ってきたな。お前も骨董市を開くつもりか」
お父さんは船の片付けをしながら、陽に焼けた顔から白い歯をのぞかせて笑っています。
「うん! それより今日、なつかしの骨董市が来るんだろ」
「ああ。お父さんとお母さんはこれから家に帰って準備する。お前はフェリー乗り場に迎えに行ってこい」
健太は目を輝かせました。
「わかった! あの猫耳のお姉ちゃん、また来るかな」
「ああ、きっと来るだろう」
健太は港のフェリー乗り場で、船の到着を今か今かと待ちました。
◇
夕方、島の小さな港に、二日に一往復する定期便のフェリーが入港してきました。
船から出てきたのは、小さな乗用車が二台と、今は見られないボンネット・トラックが一台だけ。
そのトラックに向かって健太が手を振ると、運転席の窓が開き、猫耳の娘が顔を出して手を振り返します。
トラックは、そのまま港の端にある公民館の前に停まり、健太のお父さんをはじめ、村の数人が集まってきました。
トラックから降りてきたのは猫娘の他。フォーマルな装いで小奇麗にしている自称美少年の黒ウサ(ちなみに、兎耳を髪の中に折りたたんでいるのですが、たまに飛び出すようです)。
トラックを運転していたのは黒ウサの相棒で、小太りの体に白髪交じりの髭、太いまつげが印象的な、まるで仙人のような初老の男――銭亀でした。
村の代表が前に出て。
「いらっしゃい、島の住人一同、心待ちにしていました」
「それは、うれしいです。私も、ここに来るのを楽しみにしてました。よろしくお願いしますニャ」
猫娘が丁寧に頭を下げると、黒ウサと銭亀もそれに倣って挨拶をしました。
よく周りを見ると、港の周囲にはいつの間にか野良猫が集まっていました。
黒ウサが周囲を見回し。
「この島、やたら猫が多いな」
「ここは猫を大事にしている島で、猫神社もあるのニャ」
「なるほど。それで猫娘はよく来るんだな。いいな、自分の島みたいじゃないか」
「そういえば、兎がたくさんいる島に行ったことがあるニャ」
「マジか! 今度、教えてくれよ」
猫娘は笑って、うなずきした。
村長は、三人を見て言います。
「そういえば、豚男さんはご一緒ではないのですか」
「実は豚男の奥さんが、もうすぐ出産でして。代わりに、こちらの黒ウサと、銭亀に手伝いに来てもらいましたニャ」
「へえー、豚男さんには奥さんがいらっしゃったのですか」
村人は意外そうに顔を見合わせると。黒ウサが肩をすくめて。
「それが、豚男には似合わない別嬪さんでね。しかも子供は、五人目なんですぜ」
呆れたような口ぶりに、周囲から笑みがこぼれます。
「とりあえず、荷物をおろしますニャ」
猫娘たちはトラックの荷台から荷降ろしを始め、健太の父親や島の人たちも手伝いました。
◇
荷物をすべて公民館に運び終えると、猫娘は集まった村人たちに向かって言いました。
「ありがとうございます。陳列は明日の朝、私たちで行いますので、楽しみにしていてくださいニャ」
黒ウサも並んで頭を下げます。すると、待ち構えていたように健太が駆け寄ってきました。
「猫耳のお姉ちゃん。今回もぼくの家に泊まるのでしょ」
猫娘は健太に笑顔でうなずくと、次に父親に幹治ります。
「またお世話になるニャ」
「なつかしの骨董市には大きな借りがあるし、女房も楽しみにしてるから、自分の家と思ってくつろいでください」
「ありがとうございますニャ」
お礼を言うと、健太は猫娘の手を引いて家へ向かいました。
その道すがら、黒ウサは前を歩く猫娘に声をかけます。
「ここは、案内状なしで、だれでも来られるのか」
「そう、だれでも来られる。アマテラス様にも許可を得ているニャ」
「へえー、許可くれたんだ。あの渋ちんババァが? 俺にはいつも、あれはだめ、これはダメって言うくせに」
「それは、黒ウサが人を騙すような商売をするからニャ」
蔑むような視線を向けられても、黒ウサは気にせず。
「騙すとは人聞きが悪い。効果的な宣伝で消費意欲を高め、相手の財力を見極めて適正な報酬をいただく。自由競争に基づく、民主主義的な商売をしているだけさ」
「効果的な宣伝……それ、誇大宣伝じゃないですかニャ?」
猫娘は上目遣いで睨み、黒ウサは慌てて話題を変えます。
「そ、それより、どうして許可してくれたんだ? 猫の島だからか?」
「それは、骨董市が終わればわかるニャ」
なぜか、にやりと笑う猫娘。
「終われば? たとえ誰でも来ていいとしても、ここで骨董市が開かれることが世間に知れたら、まずいだろう」
「外に漏れれば、私たちは二度と来ない。それを村は知っていますニャ。それに――さっき健太のお父さんが言ったでしょう。この村には、大きな貸しがあるのニャ」
「貸しって、なんだ?」
「それは、秘密ですニャ」
とぼけて笑う猫娘に、黒ウサは納得のいかない表情を浮かべるのでした。
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