表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫と女神の異界骨董市  作者: 猫ノ あずき
第6話 春風の骨董市
21/51

3.春風

 猫娘は、やめろと言わんばかりに、再度念を押します。

「ほんとにいいのか……ニャ! 」

 赤いリボンの少女は笑顔でうなずき。


「猫娘さん、私は他にほしい物ないし、最後だから全部使って」

 そう言って桜貝を差し出すと、猫娘は震える手で受け取り、子どもたち一人ひとりに、欲しがる品を売っていきました。


 生徒たちは大喜びで、思い思いの品を手に取り、はしゃぎ回っています。

 そんな様子を見ながら、猫娘は声をかけました。


「みんな、おねえちゃんにお礼を言うニャ。今、手にしている品物は、おねえちゃんが苦労して桜貝を集めて買ったもの。言ってみれば、おねえちゃんの分身みたいなもの。そのことを忘れず、大切にするニャ」


 諭すように言われ、子どもたちは一斉に赤いリボンの少女へお礼を言います。

 少女は少し照れたようにうなずきましたが、その表情には、どこか寂しさが残っていました。


 やがて、手ぶらになった赤いリボンの少女は、あの品物――オルゴールの前に、静かに立ち尽くしていました。


 猫娘は、譲ってあげたい気持ちでいっぱいでしたが、安易に渡すことはできません。

 一人に渡せば、ほかの子も欲しがります。この少女だけ特別、というわけにはいかないのです。


 横に並んだ猫娘は、ぽつりと言いました。

「なんとかしてあげたいけど……ごめんニャ」

「猫娘さんが謝ること、ないよ」

 少女は穏やかに笑います。


「こうして、なつかしの骨董市が来てくれて、この品物に出会えただけでも、よかったと思ってる。みんなも、あんなに喜んでるし」

 そして、少し震える声で続けました。


「……オルゴール、聞かせてもらっていいですか」


「いいニャ」


 子どものころに聞いた、なつかしい音色。

 この先、もう二度と聞けないでしょう。

 少女は骨董市が終わるまで、何度も何度も、その音色に耳を傾けていました。

 猫娘は言葉がありません。


 やがて時間となり、骨董市は終わりました。

 みんな手を振って見送ってくれましたが、猫娘には少し後味悪い、店じまいでした。


 夕暮れの海岸線を、ボンネット・トラックは走って行きます。


 窓を開けて、ぼんやりと夕陽を見つめる猫娘に、再びあの風の声が聞こえて来ました。

「やあ、猫娘、今日の売り上げはどうだい」

「今日はたくさん売れたニャ……」

 でも、その声に力はありません。


 運転席の横に、袋一杯の桜貝が置かれていますが、ほとんどが、赤いリボンの少女が集めたものです。

「おお! これはすごい。借金の完済も、もうすぐだね」


 それでも、猫娘はもの悲しく桜貝を見つめています。

「どうしたんだい、浮かない顔だね」


「あの娘は、自分のことを後回しにして、子供達に桜貝を渡した。だけど、私は彼女に何もしなかった……ニャ」

 猫娘は俯いて、自分が情けない、といった口ぶりです。


「猫娘、時に我慢することも大事だよ。何でも思い通りに手に入るなんて、どうかと思うよ。一応、そのことを子供達に伝えたんだろ」

 猫娘は、ゆっくり顔をあげると


「……そうだといいニャ」


「それじゃあ、ぼくは、これから日本中を駆け抜けないといけない。また来年」

「うん……また来年。春一番の精霊さん」


◇春風


 ………十年の月日が流れました。


 猫娘は相変わらず、春になると海辺の養護学校を訪れていますす。

 あの赤いリボンの少女はいません。

 けれど、あのとき、少女が買えなかった、お母さんとの思い出のオルゴールは、必ず持ってきています。


 今回も学校に近づくと先生が門を開けて迎えてくれました。

 校庭に入って、猫娘がトラックから降りると、先生と生徒が並んで挨拶してくれます。


 並んでいる子供は、元気な子、大人しい子、恥ずかしがる子――

 さまざまな子どもたちが、いつものように期待に満ちた表情で並んで、猫娘の胸は温かくなりました。


 その生徒の後ろには先ほど門をあけた、優しく微笑む新任の先生……

 そこに春風が吹き抜け、先生の髪をふわりと巻き上げました。

 それを見た猫娘は、息をのみます。


 ………先生

 ………まさか!


 感激で言葉を失い、知らず知らずのうちに、涙があふれていました。


 春風になびく、その先生の髪には、

 あの日と同じ――赤いリボンが結ばれていたのです。


<春風の骨董市 了>

気になるなと思ってただければ、ブックマーク、お星さま(☆)をくださいませ! 

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ