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猫と女神の異界骨董市  作者: 猫ノ あずき
第6話 春風の骨董市
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2.少女の想い

「今年の春に来た、男の子がいない!」


 校舎の中、病棟、学校の周囲を探しますが、どこにも見当たりません。

 先生はすぐに校外へも探しに出て、母親や交番にも連絡しました。他の生徒たちは、校長先生と一緒に学校で待つことになります。


 入学して間もない子どもが、寂しさから学校を抜け出し、家へ帰ろうとすることは、決して珍しくありません。


 場合によっては、バスに乗って出かけてしまうこともあります。以前には、タクシーに乗って家まで帰った子どももいました。


 たいていはお金を持っていないため遠くへ行けず、すぐに見つかります。

 しかし今回は、なかなか見つかりません。小学生はお金の持ち込みが禁止されていますが、どうやら隠し持っていたようでした。


 そんな慌ただしい学校の中へ、猫娘のボンネット・トラックが入ってきました。


 いつもなら盛大に迎えられるはずなのに、今日は様子が違います。

 猫娘が首をかしげて尋ねました。


「どうしたのニャ」


「この春に入学したばかりの男の子が、いなくなったのです」

「いなくなったニャ!」


 猫娘も驚き、すぐに豚男の運転するボンネット・トラックで、捜索を手伝うことになりました。


 ただし、猫娘はスマートフォンや携帯電話を持っていないため、あまり遠くまでは行けません。時間を決めて、いったん学校へ戻る約束をします。


 一時間ほど探して戻ってきても、まだ見つかっていないようでした。


 養護学校の先生は、校長先生を含めても三人ほどです。

 併設の病院も小規模で、先生一人と看護師が数人しかいません。全員で探しますが、人手が足りず、捜索は難航していました。


 猫娘のボンネット・トラックは、念のため隣町まで足を延ばします。


 途中、道ばたで地図を広げていると、窓の外から声がかかりました。

 道の駅で話しかけてきた、あの声です。


 猫娘が窓を開けると――


「猫娘。どうしたんだい、そんなに慌てて」

「男の子を探してるニャ。学校からいなくなったんだ」


「それは大変だ! ぼくも探すよ。そうだ、山の方から見てみる」

「頼むニャ」


 その後も、猫娘のボンネット・トラックは走り続けました。

 しばらくすると、山の方から強い風が吹き下ろし、その中に声が混じります。


「西の公園に、子どもがいるよ」

「西の公園!? そんなところに……きっと、バスを間違えたんだ。行ってみるニャ!」


 猫娘は地図を見ながら、豚男に道を指示しました。


 西の公園では、途方に暮れた様子で、ベンチに座り込む男の子がいました。

 猫娘が声をかけると、男の子は泣きながら抱きついてきます。


 学校へ連れて戻ると、先生たちが総出で迎えました。


 男の子は赤いリボンの少女にすっかり懐いており、やさしくなだめられています。

 泣き止まない男の子のそばで、猫娘は声を張りました。


「よーし! それじゃあ、骨董市を始めるニャ!

 みんな、手伝ってくれるかニャ?」


 すると、生徒たちは声をそろえて答えます。


「はいニャ!」


 みんな猫娘のまねをして、笑顔で返事をしました。


 ここに並ぶ品物は、おもちゃや文房具が中心です。

 近代的なゲーム類はありませんが、どれもどこか懐かしく、見ているだけでも楽しくなります。


 相手は子どもたちなので、お金の代わりに桜貝で取引します。ここで出す品は、おもちゃや文房具が中心で、近代的なゲーム類はないですが、思い出の品もあり、見ているだけでも楽しくなります。

 

 そんな骨董品の中に、あの赤いリボンの少女の目当ての品もありました。


「あった……! 」


 最後の骨董市で、やっと手に入るときが来たのです。少女は瞳を潤ませながら、品物を大切に抱きかかえています。


 赤いリボンの少女は、幼いころに両親を亡くしていました。

 両親の顔をほとんど覚えておらず、病気もあったため、小学校からこの養護学校に通っていたのです。


 やがて、両親との思い出の品物は無くなってしまいましたが、この骨董市で失ったはずの幼い自分と両親が映っている写真の入ったオルゴールを見つけました。

  その写真に写っているお母さんと、幼い自分がお揃いの赤いリボンで髪を括っているのを見て、それからいつも赤いリボンで髪を結ぶようになったのです。


 最初、オルゴールは法外な値段を言われ、桜貝も百個とのことでした。それ以来、春に来る骨董市でこの写真を見るのを楽しみにしながら、いつか買い戻そうと、桜貝を集め続けてきたのです。


「やっと、買える! 」 


 そう思い、猫娘に声をかけようとしたとき――

 奥で猫娘が困った様子をしているのが見えました。


「これは、桜貝10個いる……私の独断で値下げすることはできないニャ」


「でも、ほしい! 」


 さきほど学校を抜け出した男の子が、泣きながらせがんでいます。

 男の子が持っている桜貝は、たった一個だけでした。


 猫娘が困った表情で、赤いリボンの少女を見ると、少女はそっと近づき、男の子に尋ねました。


「どうして、これがほしいの」

「これ……パパが買ってくれたカードゲームのレアカードなんだ。

 失くしちゃって……もう売ってなくて……」


 男の子は母子家庭で、父親は二年前に亡くなっていました。

 事情を知っている少女は、やさしく言います。


「これがあれば、もう学校を抜け出したりしない?」

「うん」


 大きくうなずく男の子を見て、少女は猫娘に向き直りました。


「あのー……私、桜貝が余分にあるから……これで」


 そう言って、十個の桜貝を差し出します。

 猫娘は、少女が本来買おうとしていた品を知っていましたが、まだ桜貝に余裕があることを確認し、受け取り、男の子にカードを渡しました。


 それを見ていた別の子どもが叫びます。


「ええー、ずるい! わたしも何か買って!」


 次々と子どもたちが集まってきます。

 無理を言い始める子どもたちに、猫娘は言いました。


「お姉ちゃんが困っているニャ」


 すると、別の子がカードをもらった男の子に言います。


「だったら、カード返しなよ!」

「そうよ! どうしてあの子だけなの!

 だったら、私も学校を抜け出す!」

「ぼくも!」


 男の子は、もらったカードを胸に抱きしめ、離そうとしません。


 猫娘は、少し厳しい声で言いました。

「そんなこと、言うものじゃないニャ!」


 しかし、子どもたちは口々に叫びます。

「えこひいきだ!」

「お姉ちゃん、嫌い!」


 そこまで言われ、少女は言葉を失いました。

 しばらく、母親の写真の入ったオルゴールを見つめたあと、手に持っていた桜貝の袋を、みんなに見せて言います。


「わかった……それじゃあ、この桜貝、みんなで分けましょう」


 その言葉に、猫娘は、思わず息をのみました。


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