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猫と女神の異界骨董市  作者: 猫ノ あずき
第6話 春風の骨董市
19/51

1.海沿いの学校

桜咲く海岸沿いの道の駅


「やあ、猫娘。春だね」

「春ですニャ」

「景気はどうだい」

「ぼちぼちでんニャ」


「そう言えば借金の方は」

「………まだまだ、先は長いですニャ」


「そうかい。でも、無理しちゃいけないよ。それじゃあ、ぼくは先に行くから」

 猫娘がうなずくと、心地よい春風が吹き抜けました。


 その直後、駐車場で待っていた豚男の運転する古いボンネット・トラックが、短くクラクションを鳴らします。

 長旅の休憩で立ち寄った「道の駅」の桜並木。


 猫娘は、ボンネット・トラックに駆けていきました。

 

◇赤いリボンの少女


 猫娘の向かう先は海辺の養護学校。

 小学生から中学生までが通う養護学校は、海岸近くの高台にあり、生徒はこの春に入学した小学生の一人を含め、八人だけの小さな学校です。


 その小さな養護学校の、小さな校庭で、生徒達が昼休みに遊んでいるところに、一陣の春風が校庭の桜をゆらして吹き抜けました。


「春一番だ! 」


 校庭にいる生徒から、声があがります。

「来るかなあー」

「たぶん来るよ」


 そこへ、校舎から一人の子供が興奮しながら駆けてきました。

「案内状が来たよ!」


 みんなが集まり、海辺の養護学校の生徒宛ての案内状を開くと、そこにはこう書かれていました。


――『なつかしの骨董市』

 本日午後、海辺の養護学校にて開催――

 

 生徒達は大喜びで職員室の先生のところに行くと、案内状を見た先生はすぐに、学校の表門を開けにいきます。


 すると、海岸沿いの道を、一台の古いボンネット・トラックが、学校に向かって走って来るのが見えました。


 この小さな養護学校には、さまざまな事情を抱えた子供がいます。

 病気の子、不登校の子、障害のある子、家庭に問題のある子、理由はさまざまです。


 学校には小さな病院が併設され、生徒達は病棟に入院しながら、毎朝、隣の学校に登校していました。


 平日は病院と学校での生活ですが、金曜日の夜になると、両親が迎えに来て、子どもたちは週末を家で過ごします。そして日曜日の夜、再び両親に連れられて、病棟に戻るのです。


 このため、普通の子供は、親とゆっくり過ごせる楽しい日曜日の夕食が、もうすぐ養護学校に戻らないといけない合図のようで、美味しくありません。


 兄妹のいる子どもは、普通に学校へ通う兄や姉、弟や妹を、うらやましそうに見つめながら、養護学校へ戻る車に乗り込みます。言うまでもなく、両親も幼い我が子を置いていくのはとても辛いのです。

 

 そんな中、週末になっても、誰も迎えに来ない少女がいました。


 いつも髪に赤いリボンを結んでいる少女は、中学三年生。

 八人しかいない海辺の養護学校の最年長です。


 金曜日の夜、両親に迎えられて嬉しそうに帰っていくほかの生徒たちを、少女はいつも笑顔で見送ります。

しかし、最後に一人になると、病棟のベッドで、よく泣いていました。


 そして、日曜日の夜になると、親と離れたくなくて泣く子どもたちを、やさしく迎えてくれる、お姉さんでした。

 

 学校では授業の合間や放課後、皆で時々海岸で桜貝を拾いに行くことがありました。それは、年に一度やって来る「なつかしの骨董市」で買い物をするためです。


 赤いリボンの少女は、生徒のいない土日になると、よく一人で海岸に行って桜貝を集めていました。骨董市が来たら、どうしても買いたい思い出の品物があるのです。


 袋一杯に集めた桜貝。


 今年になって、ようやくその品物を買える量になり、骨董市が早く来ないかと、心待ちにしていました。


 そんな赤いリボンの少女は中学三年生なので、来年は卒業して、この養護学校から離れることになります。

 少女にとっては、やっと念願の品物が買える、最後の骨董市なのです。


 今年も、春一番とともにやってきたボンネット・トラックに、赤いリボンの少女は心躍っていました。


 そのとき、思いがけないことが……


気になるなと思ってただければ、ブックマーク、お星さま(☆)をくださいませ! 

よろしくお願いします!

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