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猫と女神の異界骨董市  作者: 猫ノ あずき
第4話 山桜の骨董市 (後編)
14/51

1.故郷の骨董市

ある日、仕事を終えて両親と暮らすマンションに帰宅すると、郵便受けに、差出人も切手も貼られていない広告が入っていた。


『なつかしの骨董市 好評開催!

 朝五時~六時

 場所:奥山村分校』


 小学生が書いたような、拙い手書き文字をそのまま印刷した紙で、最初は悪質ないたずらな気がしたのですが、書かれていた場所の名を見て、私は思わず息をのみました。


――奥山村分校。


そこは、私が廃校になる最後の年に卒業した学校だったのです。


 私は奥山村分校を卒業とともに、両親と三人で都会に引っ越して、仕事に就いたものの。不規則なシフトに、安い給料、田舎育ちで、もともと気の弱い私は、都会について行けず人間関係もうまくありません。

 何度か仕事を変わりながら、アルバイトの簡単な仕事を続けています。


 両親は、早く結婚してほしそうです。

 ですが、アルバイト勤めで引っ込み思案な私には出会いもなく、男の人とお付き合いしたことも一度もありません。

 焦る気持ちはあります。

 それでも、気にしても仕方がないと、無理に割り切るようにしてきました。


 ふと、手にした広告を眺めていると、小さな頃の記憶が、静かによみがえってきました。

 広がる水田、緑に包まれた山々、川のせせらぎ。

 夜になると聞こえてくる虫やカエルの声。

 そして、数少ない友達と、夢中になって遊んだ日々。


 けれど、私の故郷には、もう何の足掛かりもありません。

 祖父母は亡くなり、家は処分され、墓もこちらへ移しました。戻る理由は、何ひとつ残っていないはずでした。奥山村はいわゆる限界集落で、私たちが引っ越したあと、若い人はいなくなり、やがて廃村になったと聞いています。

 私は広告に印刷された「奥山村」の文字を、じっと見つめました。

(そういえば……)


  小さい頃、よく一緒に遊び、高校を卒業した男の子は、今どうしているだろう。

 ウサギのように駆け回り、真っ黒に日焼けして、いつも屈託なく話しかけてきました。村の子どもたちを引っ張っていた、活発な子でした。


――今はもう立派になって、結婚して、子どももいるのでしょう。


 そう考えると、都会で何もつかめず、ふらふらしている自分が急に情けなくなり、苛立ちと焦りばかりが募っていきました。


 お盆休みに入っていたこともあり、私は思い切って、その骨董市に行ってみることにしました。

  両親は、

「そんな場所で骨董市なんて、うさんくさいわね。気をつけなさい」

 と心配しましたが、

「田舎の町おこしとかのイベントでしょう。懐かしいし……騙されたと思って行ってみます」

 と、私は答えましたが、なぜか故郷との不思議なえにしを感じ、列車の切符を予約しました。


 骨董市の前日、私は近くの町のビジネスホテルに一泊し、翌朝、シャトルバスが来るというホテルの前の駅前に向かいました。

 小さな町は閑散とし、しばらくして軽自動車が一台、先のビジネスホテルから出ただけでした。

 他に車も人通りもありません。


(本当に、骨董市が開かれるの)

 少し心配になってきましたが、しばらくして、小さなマイクロバスが姿を現しました。


 窓には、下手な字で

『なつかしの骨董市会場行き シャトルバス』

 と書かれた紙が貼ってあります。

 それを見て、少しだけ胸をなで下ろしました。

 

 運転席から降りてきたのは、なぜかウサギの耳を付けた男――いえ、少年のようにも見えます。

軽く挨拶をすると、そのまま彼の運転でバスは発車しました。

 曲がりくねった山道を乱暴に走るので、酔いそうになります。

 かつて住んでいた懐かしい家並みも見えましたが、それどころではありませんでした。


 村の高台にある奥山村分校に着くと、草が生い茂った運動場の向こうに、懐かしい木造校舎が姿を現しました。

 卒業した日の面影を、そのまま残しています。

 子どもの頃は大きく見えた校舎も、今ではずいぶん小さく感じ、自分が大人になってしまったのだと、改めて実感します。

 校舎の横には、「一本桜」と呼んでいた大きな桜の木が、今も変わらず立っていました。


(一本桜……)


 もう戻らない時間。

 無垢で、明日のことなど考えず、ただ流れに身を任せて遊んでいた日々。そんな私たちを包み込んでいた大木は、今もなお、当時へと私を誘うようでした。

 懐かしい友人に無性に会いたくなり、胸が熱くなります。


 校舎の前には、今ではほとんど見られないボンネット・トラックと、その隣に乗用車と軽自動車が停まっています。

 私はバスを降りて、校舎に向かいました。


 正面玄関の前には、

『なつかしの骨董市会場』

と書かれた立て看板があり、体の大きな男が法被を着た大きな男が立っていました。

 鼻が上を向いた豚のような顔立ちで、どこか大柄な僧侶を思わせます。

 私が広告を見せると、挨拶もなく、ただ一度うなずき、奥を指さしました。

 ――少し、怖いです。


 きしむ廊下を進むと、かつて使っていた教室の前にも、同じ立て看板がありました。

すると、教室の中から、法被姿で猫耳を付けた可愛らしい少女が、ぴょんと飛び出してきました。

「いらっしゃいです。こっちですニャ!」

 語尾に「ニャ」を付けて、にこにこ手招きしています。先ほどの豚面の男とは正反対で、愛想のいい、小学生か中学生くらいの少女でした。


 教室に入ると少し埃っぽいですが、木枠の窓、白墨の消し後の残る黒板、その横には、学級当番の表が掲げられ、後ろの棚には、まだ自分の名前が残っています。

 毎日鞄を入れていた棚、小さな机、懐かしさにしばし見入っていました。


 教室の中は勉強机を六つほど寄せていくつかの島をつくり、その上に品物が置かれています。奥には、先程の車の客でしょうか、壮年の婦人が一人、机に置かれた品物を見ていました。


 品物はどれも懐かしい物ですが、とても売り物とは言えないようなものばかり。そんな中、私が着ていたものと同じ柄の浴衣が目に留まり、手に取りました。


「これは、川向の男の子と夏祭りに着ていったものと同じ……確かあのとき、ソースをこぼして、彼が一生懸命に拭いてくれたけど、とれなかったんだ」

 懐かしい思い出でに追わず呟き、何気なく、その部分を見ると……

 染みが、そのまま残っている。


「これは! 私が着ていた浴衣そのもの。引っ越しの時に処分したはず……」

 私は、もしやと思い、他の品物も見てみると


「これは、私が欲しいと言って、お父さんが町まで買いに行ったリカちゃん人形。他にも……筆箱にランドセル、教科書まである」

 しかも、私の名前が書いてある。


 処分したはずのものが、なぜここにある。

 私は店員の猫娘に事情を尋ねましたが

「すみません。入手経路は私にはよくわからないのですニャ」


 さらに、その値段に驚きました。

 あの、ソースの染みのついた浴衣が二百五十万円、他の品物も数十万円と言うのです。

 いったい、この骨董市は何なのでしょう。


 わけが分からず、唖然としていると、先ほどから品物を見ていた婦人が、親しげに声をかけてきました。



気になるなと思ってただければ、ブックマーク、お星さま(☆)をくださいませ! 

よろしくお願いします!

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