無能の末娘だと私を侮辱した家族、貴族、教師、メイド、婚約者、王妃、国王は、今、絶望の淵にいます〜淵の深淵が甘く囁く〜
私、セフィリアは、公爵家の末娘として生まれた。人生は、生まれたその日から呪いによって縛られていたそれは、魔力を持たなかったこと。 魔力を持たぬ者は、人間としての価値を認められなかった。
家族は無能と呼び、使用人たちでさえ、嘲笑してくる。特に、姉のリュシエンヌは徹底的に見下しているのに、国でも有数の魔力を持つ天才で誰もが彼女を称賛し、慕っていた。その才能が傲慢さをますます増長させていたのだ。
「無能な子。あなたは家にいるだけで汚らわしい。せめて、私に恥をかかせないでね」
リュシエンヌは、冷たい目で見下ろした。鋭い氷の刃のように心臓を突き刺す。泣き、絶望する姿を楽しそうに眺めていた。それが、日常の風景。
ある日、庭の片隅で一人静かに花を植えていた時、リュシエンヌが友人を引き連れてやってきた。彼女らも無能と罵り、植えた花を無残にも踏みつける。その瞬間、心にこれまで感じたことのない強い感情が湧き上がった。
怒りでも、悲しみでもない自身の存在そのものが姉の悪意を吸収し、浄化するかのような不思議な感覚。その日以来、気づいたのだ。魔力は感情という呪いを吸収し、それを相手に返す力を持っていることに。
力を密かに研ぎ澄ませ、姉の傲慢さを身をもって知らしめるために。公爵家が主催する夜会の日、リュシエンヌは無理矢理夜会に連れてきた。無能を社交界で笑いものにするために。
古くて安っぽいドレスを着せ、話しかけるな、誰とも目を合わせるなと厳命。無茶苦茶だ。夜会が始まり、リュシエンヌは優雅な笑みを浮かべ、貴族たちの注目を集めつつ人形のように扱い恥をかかせるタイミングを伺う。
「ああ、ごめんなさい、セフィリア。こんな安っぽいドレスを着ているから、うっかり手が滑ってしまったわ」
リュシエンヌはそばを通り過ぎる際、わざとドレスにワインをこぼした。周囲の貴族たちに嘲笑するように仕向けた屈辱に耐えながら、静かに魔力を発動させる。魔力はリュシエンヌがかけた悪意の呪いを、彼女自身へと返す。
リュシエンヌは一瞬、驚きの表情を浮かべた。姉の美しいドレスには身につけていた安物の宝石が泥のようにへばりついていく。わざわざ向けた醜い感情が形となって現れたかのよう。顔には受けた屈辱と絶望が醜い痣となって浮かび上がる。効果は大きい。夜会の者達はリュシエンヌの姿を見て驚き、嘲笑した。
「は!?な、なにこれ!?」
悲鳴を上げたが時すでに遅し。リュシエンヌは自らがかけた呪いによって夜会の笑い者となる。崩れ落ちる姉のリュシエンヌに近づき、静かに囁く。
「姉様、悪意は、もう二度と私には届きません」
両親、公爵と公爵夫人は娘であるこちらを価値のないモノのように扱った。彼らにとって娘は魔力という商品であり、無能な者は公爵家の恥でしかなかったのだろう。父は視界に入れることすら嫌い、母は冷たい言葉を浴びせ続けた。
「魔力を持たぬ娘など、公爵家に必要ない。お前など、生まれてこなければよかったのに、はぁ、向こうへ行って」
母の言葉は心を深く抉った。しかし、もう泣くことはない。彼らの悪意は何も意味を持たない。なぜなら、向けた悪意はすべて魔力に吸収され、呪いとして自身へ返されるから。
ある日、両親は魔力を持たぬことを理由に辺境の修道院へと送ろうと画策していたことを知る。それは公爵家から完全に追放し、存在を抹消するための計画だったみたいだ。
「セフィリア。お前は明日から修道院で暮らすことになる。公爵家の名誉のために、おとなしく従いなさい」
父は冷酷な目で命じた。悪意に満ちた言葉を静かに受け止め、魔力は順調に悪意を吸収し呪いを最も大切にしているものへと返していく。
夜、公爵家の広大な庭園に、悲痛な叫び声が響き渡る。
「ああ、始まったみたい」
国で最も希少な、生涯をかけて集めた魔法のバラがすべて枯れ果てているのを発見したのだろう。バラは公爵家の栄華の象徴として、何よりも大切にしていたもの。娘よりも子供よりも。
「うわああああ!な、なぜだ……!こんなことがありえるはずがない!どうしてっ」
父は、震える声で叫ぶ。
「バッ、バラは、わ、私たちが何よりも愛したものなのに……どういうことなのぉ!うわあああ!」
母は枯れ果てたバラを抱きしめて泣き崩れていた。子供みたいにわんわんと。窓から光景を静かに見つめつつ、両親が向けた悪意は彼らが愛し、誇りにしていたものをすべて奪い去ったのだと、把握する。静かに呟く。
「お父様、お母様。あなた達の愛はもう二度と実を結びません」
次なる標的はこの国の第一王女、イザベラ。己の婚約者である第一王子を奪おうと画策していたから。
「セフィリア。あなたは、王子にふさわしくないの。無能なあなたに王女としての資格などないのよ?」
イザベラは社交界の舞台で嘲笑し、王子の婚約者から引きずり下ろそうと陰謀を巡らせ、悪意は王子の心をも操ろうとしていた。悪意を静かに吸収し、呪いを最も大切にしているものへと返していく。
イザベラは孤独を恐れ、友人も真実の愛も持たず権力と名声に執着していた。呪いは孤独を増幅させ、周りからすべての人々を遠ざけていくことに。取り巻きは本当の姿を知り、離れていった。
愛を求めた王子は悪意に満ちた心を見て、嫌悪感を抱くように。イザベラは王宮の広間で一人、泣き崩れていた。周りにはもう誰もいない。彼女に近づき、静かに言った。
「イザベラ様、あなたの悪意は永遠の孤独へと導きました」
学園の教師、アルベールが次の標的。彼は無能を公然と嘲笑し、授業中に罵倒して生徒たちの前で恥をかかせる始末。
「セフィリア。君のような劣等生は授業を受ける資格すらない。君はこの学園の恥なんだ」
アルベールは教壇から見下ろし、傲慢な笑みを浮かべた。彼の言葉は同じように魔力を持たぬ生徒たちをも傷つける。
悪意は吸収され、最も大切にしているものへと返っていくと知識を削る。アルベールは自らの知識を何よりも誇りに思っていたことで、生徒たちを知識で圧倒し優越感に浸っている。知識を呪いへと変えていく。
次の授業。アルベールは簡単な魔法の理論を説明しようとして、言葉に詰まった。頭の中が霧に包まれたように何も思い出せず、知識は水のように指の間からこぼれ落ちていく。
「なぜだ……!こんなことが、ありえるはずがない!ぐ、お、思い出せない!?」
アルベールは黒板の前で混乱し、生徒たちの嘲笑の的となる。自分が向けた言葉を今、生徒たちから向けられているのだ。
「先生、知識は傲慢さを証明するだけの道具でしたね」
教師のアルベールが崩れ落ちるのを見届け、静かに席を立つ。
さて、次は友人もどきのエミリー。数少ない理解者を装っていたがその裏では秘密を暴露し、陥れていた。
「セフィリア。私はあなたの味方よ。あの人たちがあなたのことをどう言おうと、私はあなたのことを信じているから。親友だものね」
エミリーは優しく微笑んだ。しかし、心の中には力を利用して自分の地位を高めようとする、醜い欲望が渦巻いていた。悪意は吸収され大切にしているものへと返っていく。信頼だ。
エミリーは友人を装って近づき、秘密を聞き出そうとしたが言葉は毒のようにこちらを蝕もうとしていた。毒を静かに受け止めながらも魔力は言葉を、彼女自身の心を蝕む呪いへと変えていく。
「エミリー、口は災いの元」
次の日、エミリーは学園の生徒たちから無視されるようになった。これまで築き上げてきたすべての人からの信頼が、一夜にして消え去ったのだ。
「え、なぜ……?どうして、みんな私を避けるの?なんでっ?」
エミリーは恥知らずにも助けを求めた。もちろん背を向ける。
裏切りが心を蝕む呪いへと変わったのだから、それだけ。
「エミリー、偽りの心はもう誰にも信じてもらえないの」
エミリーの背後に広がる、彼女の孤独な世界を見つめた。
復讐の矛先は、この国で崇拝される聖女アーネスティ。人々を癒す奇跡の力を持っていると信じられていたが、その力は他人の魔力を奪うことによって維持されていたのでセフィリアの魔力をも奪い、利用しようと画策していた。
「セフィリア。あなたの魔力は、私のような聖女が持つべきもの。さあ、私に捧げなさい、ふふ!」
アーネスティは人前で命じ、魔力を奪おうとしたが悪意は魔力に吸収され、呪いは本人へと返っていく。聖女としての力。呪いはアーネスティがこれまで奪い続けてきた魔力をすべて元の持ち主へと返し、そして、聖女としての力は砂のように崩れ去る。
アーネスティは目の前で奇跡を失い、絶望的な顔でこちらを見つめていた。偽りの聖女であったことはすべての人々に知れ渡り、これまで周りから受けた崇拝を、すべて失うことに。
「聖女様、偽りの力は、あなた自身を破滅へと導きました。もう奪えないようでなによりです」
婚約者である第一王子、エドワード。彼はセフィリアを無能と見下しながらも、美貌を利用して自分の地位を固めようとしていた。
「セフィリア。お前のような無能な女を妻に迎えるつもりはない。私の飾りでしかない。忘れるな」
エドワードは言い放った。道具としてしか見ていない醜い欲望が満ちている。悪意は彼が最も大切にしているものへと返っていく。
王位継承権などエドワードがこれまで積み上げてきた功績を、すべて無に帰した。権力は幻のように消え去り、彼の野心はすべて破滅へと導かれる。
エドワードは目の前でさらりと王位継承権を失い、絶望的な顔で未練がましく見つめていた。
「た、助けてくれるよな?な?」
周りから人々が離れていき、彼はすべてを失った男となった。男のなさけない声など聞こえない。
「王子、婚約者様。欲望はあなたを永遠の孤独へと導いたみたい」
エドワードに背を向け、静かに歩き出した。
国の国王はセフィリアを無能と罵り、政略結婚の道具として利用。
「セフィリア。お前はこの国のために隣国の王子と結婚し、我が国の名誉を守らなければならない」
国王は命じた。国の平和を願うかのように聞こえたが心には道具としてしか見ていない、冷酷な計算がある。
悪意は返っていく。王としての威厳。呪いは国王がこれまで築き上げてきた、すべての人からの尊敬と忠誠心をすべて消し去る。権威は幻のように崩れ去り、命令は誰にも届かなくなった。誰からも無視される。
国王は目の前で自分の威厳を失い、絶望的な顔で見つめてくる。気持ち悪いから見ないでほしい。周りから人々が離れていき、すべてを失った男となったのだ。
「国王陛下、偽善は永遠の孤独へと導きました。私にもなにも言えなくなったようでよかったです」
王妃。彼女は醜い魔力を持たぬ娘と罵り、存在を心から嫌悪していた。
「セフィリア?醜い存在は王宮を汚す。あなたみたいな人はこの世から消えるべきよね?間違っているかしら?」
王妃が言い放つ内容は醜い嫉妬と憎しみに満ちていた。
悪意は魔力に吸収されて呪いは大切にしているものへと返っていくと、それは美しさであったので呪いは王妃がこれまで自慢してきた美しさを、すべて奪い去る。最後に見た顔には醜い痣が浮かび上がり、体は老女のようにしわくちゃになっていた。
「あっ、あ、あ、あああああ!!」
王妃は目の前で自分の美しさを失い、絶望的な顔で叫ぶ。これまで自分がこちらへ向けた言葉を今、自分自身に向けられていた。
「王妃様、醜い心は、あなたの美しさをすべて奪い去りました。誰の目にも入らないように、消えた方が、喜ばれるみたいですよ?」
背を向け、静かに歩き出した。消えろと言われたからお望み通り二度と会うことはしない。嬉しいでしょう?
女の人生は公爵家の一員でありながら、メイドたちからも嘲笑される日々だった。彼女たちは無能なお嬢様と呼び、陰で悪口を言い、困っている姿を見て楽しんでいる。生粋の悪魔でも驚かない。
「見て、お嬢様。お茶もまともに淹れられないんだって。本当に役に立たないったらない」
声はいつも耳に届いていた。彼女たちの悪意は全て返っていくのだ。それは、彼女たちの五感。お喋りだから仕方ない。
呪いは彼女たちがこれまで令嬢に向けてきた悪意を、彼女たち自身の五感を蝕む呪いへと変えた。メイドたちは庭で花を植えているのを見て、嘲笑しようとしたものの、五感は霧に包まれたかのように何も感じられない。
誰の姿を見ることができず、誰の声を聞くこともできず誰かの香りを嗅ぐこともできなくなったのだ。透明な壁に囲まれたかのようにお互いの存在を感じることができなくなり、孤独に震え出す。
「メイドの人たちは、永遠の孤独へと導かれていったみたい。可哀想」
絶望的な顔を見て、静かに微笑んだ。
家庭教師、ロデリックは担当の生徒である少女を無能だということを両親に誇張して伝え、魔法の訓練を怠っていると嘘をついた。精神的に追い詰めることで自分の地位を固めようとしていたのだ。
「はー、セフィリア様。本日も、魔力の制御ができていません。公爵家のご息女とは思えませんよ。この事実をご両親にお伝えしなければなりませんな。ふぅ」
ロデリックは軽蔑するような目で見ていた。いちいちため息を挟まれる。深く抉ったが悪意は吸収され、呪いは奪う。知識と名声などをロデリックは、自らの知識を何よりも誇りに思っていると知る。貴族の家庭教師として名声は学園内でも広く知られていた。
知識を彼自身にとっての呪いへと変え、次の日、ロデリックは貴族の子息たちに魔法の歴史を教えようとして言葉に詰まった。何も思い出せない知識はボロボロとこぼれ落ちていく。
教師と同じ嘲笑の的となって、生徒たちから向けられているのは嘲り。
「知識はあなたの驕りを証明するだけの道具でした。落第なので一年生からやり直してみては?」
ロデリックが崩れ落ちるのを見届け、静かに部屋を後にした。
これで全ての者達に報いを受けさせられた。呪いが蝕むのを感じる。人を呪わば穴二つ。目を閉じ、最後を見届ける。
【ダメだ】
「えっ?」
耳鳴りか、幻聴か。とぷりと闇が包み込む。真っ暗な海のように沈み込ませる。
【まだ、生きれるだろう?】
呪いが優しく頬を撫でる。涙がほろりと流れた。
【泡になるのも悪くはないが、呪いはただ、そこに存在するだけでいいんだ。一緒に世界を見て周らないか?】
優しく涙が闇に吸い込まれ、セフィリアは人生で初めての心からの笑みを浮かべた。
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