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第十章 おばけのティータイム

放課後。千影(ちかげ)はまたもや玄斗(げんと)、あげはと共に鳳蝶(スワローテイルズ)本部へと向かっていた。

「ねぇねぇ、ちょっと寄り道して行かない?」

あげはが頬を上げてにまにまと可愛らしく微笑む。「最近できたスイーツのお店なんだけど、リリスと篠さんがとっても美味しいってお勧めしてたの!」千影が怪訝そうな顔をして、「鳳蝶の用事があるんじゃねぇのか」とぶっきらぼうに言うと、「何よその態度!もう、失礼しちゃうわ!」と言って幼い体の丸くてつやつやした頬を膨らませて怒った。「ねぇお兄ちゃん、行かない?私パフェ食べたいなぁ」

「…仕方ないな」と困った顔をして玄斗が答えた。

「やったぁ!お兄ちゃん大好き!」とあげはははしゃいで玄斗の周りをくるくる飛び回った。

「妹に甘すぎじゃね…?」

「妹のおねだりに勝てるほど俺は強くない」

「分かりやすい弱点だな、メモっとこ」千影は徐にペンと紙切れを取り出した。「…本当にメモしてるのか?」と不安になって玄斗は千影の手元を覗き込んだ。


・鳳蝶の仲間を大事にしてる

・撫でられると喜ぶ

・妹のおねだりには弱い


「こうやって見ると、お前があの鳳蝶のボスだとは到底思えねぇな。せいぜい妹好きな学級委員のプロフィールだろ、これ」

千影が目を細めてメモ書きを見つめ、玄斗に視線を移すと、玄斗は顔を真っ赤にしていた。

「撫でられて喜んでた訳じゃねぇし。勘違いすんな気色悪りぃ」

淡々とした声の割には不満げで幼い表情に、つい千影は笑みをこぼしてしまった。

「…お前が笑ってるの、初めて見たかも。そんな顔出来るんだな、睨みつけるような顔じゃなくてさ」

玄斗は光のない暗く澄み切った瞳で、そう言った。その瞳は、凄惨な過去と、それが奪えなかった彼の純真無垢でどこか子供らしい部分をよく表していた。

「笑ってたほうが良いよ、千影」

玄斗は眉の先を曲げて、泣き出しそうな顔で笑った。


「よーし、カフェにとうちゃーく!

あのチョコレートファウンテンサンデーも美味しそうだし、ストロベリーガーデンサンデーも美味しそう…」

あげはは席に着くなりメニュー表を浮かし、周りの目も気にせずにはしゃいでいる。

「…あのさ。あげはって飯どうやって食べんの?」

本人に聞こえないよう声を殺して玄斗に尋ねると、玄斗は「普通に食べられるよ」と小声で返した。

あげはの能力は一回死んで発動する「幽霊」で、本人に成仏しようという気がなければ不老不死の体となるらしい。物は指一本でなんでも自由に操れる為、フォークを使ってご飯を食べたり服を着替えたりすることはできるらしい。ただ、当たり判定がないため物や人に直接触ったりすることは不可能、ということらしい。

「苦労してるんだな」

「あげはが幸せなら…いいんだけどな」

少し俯いた後、玄斗は顔を上げて目の前に座るあげはに微笑みかけた。

「食べたいの、決まった?今日は俺が出すから、好きなの食べなよ」

「やったぁ!大好きよお兄ちゃん!

じゃあねー、これと、これと…!」

その姿は、鳳蝶のボスと幽霊に、到底似ても似つかなかった。


「んー、美味しかった!」

にっこりと微笑んだあげはの横で、千影と玄斗は顔を顰めた。

「しばらく甘いもん食えねぇわ…」

「パフェの恐ろしさを思い知った…」


「ほらほら、急いで行きましょ!会議に間に合わないわ!」

上機嫌なあげはを見て、2人は顔を見合わせて再び笑ったのだった。

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