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契約

「って、誰と誰が以心伝心か!お前となんて、一瞬足りと繋がっていたくないわ!」


「まぁ、なんてことを言うの?恐れ多くもこの私と、一瞬でも、例え先っちょだけでも繋がっていたかもしれないことを、光栄に思わない人間がいるというのかしら」


「って待て!もうこの際、以心伝心でもいいから、一瞬飛び出てしまったその言葉を、仮にも女の子なんだから、もう二度と使うな約束しろ!」


ラブホに入った男の常套句じゃあるまいし


「仮にも?ですって、こう見えても私の頭の先っちょからつま先の爪の先っちょまで、全てが女の子であることを、あなたの、私の爪の先っちょの垢のもういらない細胞の、さらにその欠片の先っちょにすら満たない程度の大きさしかない脳みその持ち主であるあなたに、仮にも、だなんて言葉を先っちょほども使って欲しくないわね」


「お前は一体どんな天邪鬼だってんだ!!」


連呼するにも程がある


別に淑女であれと言うつもりはないが、あからさまなのは頂けない


それに、言動といいこの意地っ張りなところといい化け何とか語に出てくる、戦いのつく地名姓のヒロインみたいな奴だ。デレ要素も萌要素も皆無だが


「あら、それを言うならあなたこそ、化物何とかに出てくる、思わず名前を噛みながら呼んでしまいたくなるロリコンでツッコミ役の主人公に似ているわね」


「おいこら、せっかく名称を伏せているのを、よくあるバラエティーみたいに2つ連続でその名称を出してバラすな。あと、これについての詳しい話は却下だ。一応付け加えておくと、僕はロリコンじゃない!」


それに僕は、その原作者を贔屓にしてるんだ。それをあんまりお前に話して欲しくない


「あらそう、殊勝な事ね。これだけキャラをパクっておいて」


「やかましい!」


だから、世界には自分たちが触れてはいけない事があるんだ!


「って、そういえばさっきお前、僕の脳みそをバカにしただろ!?言っておくけど僕はバカじゃないからな!」


「強引な舵取りね。とってつけたようだわ」


「だからやかましい!」


「事実だもの。気にすることではないわ」


「気にするよ!」


「にしても下僕君?」


「そこで突然自然に無視すんな!あと、その呼び方も今すぐ止めろ!僕には刷辺するべ 永貴ながきって列記とした名前があるんだ!」


「するべ、ながき?...ええ、分かったわ。永遠に貴きslave ということね。いい名前ね。あなたにピッタリじゃない。これ以上ないと言うほどの素晴らしい名前だわ。初めてあなたを褒めてあげる」


「お前、人の名前を、永遠の奴隷として認識しやがったな!」


「あら、違うわ。貴い、が抜けているじゃない。つまり私という美しく気高く尊ぶべき存在に永遠に従僕し続ける奴隷の名前、というのが正しい認識ね」


「もっと最悪だろうがっ!!」


「ところで、スレイブ君。改めて一つ聞いてもいいかしら」


「ものすごい不本意なあだ名がついたっ!」


「先ほど、先っちょ、について、気にしていたようだけど、あなた、そういうことに興味があるのかしら?」


な、何っ!?


「な、なんだよ。どういう意味だよ。てか、だからそういう隠語的な言葉を使うのは止めてくれ頼むから」


あるよ


あるに決まってるだろ


こちとら色々と抱え込んだ不遇の男子高校生だ


「いえね?もしかしてもしかすると、私はあなたのために一肌脱いであげても良いかしら、なんて善意を、図らずも思ってみたものだから」


「なっ!?」


なんだそれ


どういう意味だ?


一肌脱ぐ?


この殺人女が!?


一見は確かに、こいつが自分で言うほどの絶対性を持っているとは思わないけれど、けれどそれでも確かに僕の知りうる限りでは、確かに美しいという形容を使う事を、憚らないわけではないような容姿をした、しかも同じく高校生の女の子だ。だがしかしでもそれでも、今こいつの言葉は、一体どういう意味に...


「私の知り合いにね。とても格好のいい、しかも男好きな男性、つまりゲイがいるのだけど、あなた、そのカッコいい彼と、一晩共にしてみる気はないかしら。そうしてくれると私が嬉しいわ、とそういう意味なの」


「弄ばれちゃう!?」


分かってたよ!


こんな展開なんだって分かってたよ僕


それより、誰が男に抱かれたいなんて思うんだよ!


僕は完璧にノーマルだ!!


「そう。答えないということは、脈はあるのね」


「今までモノローグ相手に会話していた人が!?」


「あら、そんなの知らないわ。秘書が勝手にやったことよ」


「お前は政治家か!!」


最近、そういう事を言う人がいなかったと思ったのに、仮にも政権交代したばかりの首相が、今更そんなステレオタイプを言うとは思わなかったくらいの衝撃だ


「とにかく!僕は普通に女の子が好きなんだ。断じて男色家なんかじゃない!」


こいつのBL妄想になんて巻き込まれてたまるか


「そう。それは残念ね。絵的に私も絡んであげようかしら。なんて思いもなくはなかったのだけど」


「参加してくれたんですか!?」


ちょっと惹かれる


「嘘よ。そんな戯言にまで一々ツッコミを入れないでくれるかしら、ドン引きよ。セクハラで脅して騙して訴えて搾り取るわよ」


「もう心身ズタズタ!?」


なんて女だ


こいつ殺人鬼どころか、世紀の大悪人じゃないか


ダメだ、もうさっさと帰ろう


こんな奴をこれ以上相手にしていたら、僕が過労死してしまう


どんな無茶苦茶な振りにもボケにもツッコんでやるもんか


「じゃ、僕は」

「では、スレイブ?さっさと付いてきなさい?」


「...........」


はて?


何かいま、妙な言葉が聞こえたような


気の、せいだよな?


「ほら、スレイブ。私の荷物がクラスに置いたままになっているから、さっさとそれを取ってきなさいな」


「............」


「スレイブ?何をボサッとしているの。これ以上私を待たせると、厳罰に処すわよ」


「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ。そのスレイブってのが僕の呼称であることも不快なんだけど、それより何で僕が、お前の荷物をわざわざ取りに行って、それをお前の変わりに運ばないといけないんだ?そもそも付いてきなさいって何!?」


「何を言っているの?当たり前じゃない。あなたは私の下僕なのだから、それくらいやるのが当然の務めというものでしょう」


「だ、だから、どうして僕がお前の下僕なんだ?いつそんなとんでも恐ろしいことになったんだっ!?」


「いつって、ついさっきあなたが自分で言ったんじゃないの。下僕にでも何でもなりますから捌かないで、と」


「え、あ、あれ?あれなの?いや、だってあれは一種のノリで言っ」

「そんなことはどうでもいいの。私は『私があなたを殺さない』ということの代わりに、『あなたを奴隷として下僕として扱うこと』を対価として受け取ることを『了承』したのだから。つまりこれは一つのちゃんとした契約なのよ」


「文書は?印鑑は?」


「口頭でも契約は契約。そもそも印鑑なんて必要ない信用契約よ」


「なら、クーリングオフは?」


「私との契約は、私の中で8日前ということになっているわね。つまり却下よ」


「時間遡ってる!?」


どこの詐欺会社なんだよお前は!


「いいから、さっさと荷物を持ってきなさいな。クラスはA組よ」


「だ、だだだだだだだから!僕はお前の奴隷でも下僕でもスレイブでもな...くもないような気はしますが、この首元のナイフは、その、しまって頂けると、ひじょ~に助かるのですが」


「あら、思わず袖口から飛び出してしまったわね。さすがは私、見事なタイミングといっていいわ」


「...うぁ」


まったく、反応できなかった


僕の、直感がまるで働かなかった


さっきまでは本気でもなんでもなかってことなのか?


つまり、殺そうと思えば、最初からいつだって殺せたと?


ダメだダメだ!


全っ然ダメだ!


彼女と僕とでは圧倒的な差がある


もし本気で逆らったら、一秒後には首が胴から離れているかもしれない


「分かったなら、私の荷物を持ってきなさい。理解して?あなたにうみねこの主人公のような知的推理なんて不可能なんだから」


「やかましいっ!って...くっ......はい」


再びナイフを突きつけられて(鼻っ柱に)そう返事をした瞬間


僕の中の何かが、音を立てて崩れ去って、トイレに流れていったような気がした


確かに、今の僕に、黄金の魔女に立ち向かう勇気も度胸もありはしない

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