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捕獲

「って、あれ?」


はて、どうしたんだろう


痛みがこない


死んだはずなのだから、もしかしたら痛みはないものなのかもしれないが、ほんの僅かな痛みすらない


死ぬのって、こんなもんなのだろうか?


意外とあっけない


不思議に思い、恐る恐る目をしばたかせながら、少しずつ開けていく。すると


「うおっ!」


死ぬほど驚いた


あ、いや、もしかしたら死んでるのかもしれないけど、とにかくそれくらい驚いた


だが、もしこれ以上いいリアクション気味に驚き過ぎていたら、僕は暗闇に落ちていた事だろう


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


「あら、残念。目玉もちゃんと残ったわね。運がいいわ、あなた」


「おおおお、お前、なななな、な何を...」


「何を?何をというけれど、あなたは見て分からないのかしら。それともあなたの目は節穴か義眼だとでもいうの?だったら遠慮なく潰してあげたのに」


いや、義眼であったら、まぁ十万歩くらい譲っていいかもしれないけれど、節穴だったなら、それでも目玉は目玉なのだから失明してしまうことだろう。というか潰さないでもらえますか...


「だ、だから、この、俺の眼前に、もうちょっと前に顔を倒したら確実に目が切り刻まれてしまうような位置にある、このナイフだ...」


「そうね。その通りだと思うわ。あなたの蛆虫並みの脳みそとみみず並みの視力によれば、ええ実にその通りと言わざるを得ない状況を、この私も、ええ仕方なく、仕方なく詮方なく、本当は嫌なのだけど認めざるを得ないことを、まぁ私って寛大ねと思いたくなるくらいの温情をかけた上で、はぁ、なんてため息を吐きたくなるところを、我慢せずに認めてあげようと思わなくもないかし、ら?」


長い!長過ぎる!今にも僕の目が本当にミミズ以下の視力になってしまうかも知れないというのに、わざわざ敢えて長く話すお前に、さっきから抱いていた以上の殺意を抱きたくなるくらいに長い!というか、僕の脳みそは蛆虫並みでもないし、視力だって1.5はある。そもそもミミズに視力があるのか?いや、それにお前ため息を我慢してないし、我慢しようともしてないし、てか最後何気に疑問系で終わってますよね?


なんて、僕もついつい長めのツッコミを入れたくなるのを我慢して、ってなんで僕が我慢してるんだよ?と思いながらも言葉を続ける


「だ、から、つ、つまり、ナイ、フを、このナイフを、お、下ろして、もらえ、ないか、なと」


「ダッカラッツッツマリッナイッフヲッコノナイフヲッオッオロシテッモラエッナイカッナト?あなた、この私も知らないような妙で変で難解な国の言葉を知っているのね。バカだと思ったわ」


ワザとだっ!


分かりやすいくらいにワザとだっ!


しかも、最後に感心したわ、とかではなく、バカって言いやがったっ!


「いい加減にしろ!ナイフを下ろせ!目を切り刻むな...まないでください...」


「あら、そう。そう言っていたのね。全く気づかなかったわ」


悪びれねぇやつ...


しかもこいつ...命令口調だったのを、人睨みで正させやがった


怖えぇ女だ


いやもう十二分に、一億二千万分に怖いけれど


「まぁ、いいわ。感謝尊敬し、お上に対して思う存分へりくだりなさい。そうしたら下ろしてあげる。三枚に」


「止めてくださいお願いしますどんなことでもします下僕にでも何でもなりますからどうにか魚のようになんて捌かないで下さいっどうかどうかどうかどうかどお~かっお願いしますっ!!」


もう本当に勘弁して欲しい


どうやら生きていることは分かったが、どうしてここまで虐められなくてはならないのだろうか


もう、いっそ死にたい気分である


「そう。ええ、いいわ。了承しました。こんな素晴らしい善行なんて、滅多にお目にかかれないのだから、心の奥底からあたかも神様のご光臨のようにありがたく思いなさい」


彼女はそう言って、ようやく僕の目玉は解放してくれた


そこでようやく、地面にへたり込むことができる


もうずっと緊張しっぱなしだったのだから、疲れて当然だ


というより、こいつ相手にツッコミし過ぎて疲れた


あ、そういえば、さっきのザンッって紛らわしい音は何と思って後ろを見ると、そこにキレイな穴が空いている


ナイフで、穴...


恐ろしい奴


「それじゃ、今日はこれも使わないわね」


「え?」


そう言って、そのナイフ自体も、袖口(袖口っ!?)に隠した


「お、おい、もしかして、見逃してくれるのか?」


「ええ、あなたは殺さないことに決めたわ」


「そ、そうか。そいつはありがたい」


まさに命拾いである


九死に一生を得たとはこの事を言うのだろう


生きてるって素晴らしい


「じゃ、じゃあ...」


後はさっさと立ち去るだけだ


確かに殺意は消えているようだし、これなら全速力で走れば、追いつかれることもないだろう


そしたら、真っ先に警察に駆け込んで、この殺人女を逮捕してもらうことにしよう


何、相手はナイフ一本


しかも一人


いかなる手誰の殺人鬼とて、銃器で武装した警察に適うはずもないのである


へへっ、ざまぁみるがいい


国家権力なめんなよって具合である


そう思い、力の抜けた足を踏ん張り、何とか立ち上がってその場からさっさと立ち去ろうとする


「ちょっと、待ちなさい」


ビクゥゥッ!!


「は、はい!?僕は別に警察になんて駆け込んでお前を逮捕してもらってざまぁみろへへへっ国家権力なめんなよなんて思ってないぞ!?」


「............」


「うあ゛」


まずい


「下僕。あなた、そんなことを考」

「いえ決して、心から決して、僕はあなた様に生かしてもらった奴隷である身ですから決して決してそんな大それた、大仰な、あたかも神にバチを与えるような不遜なことなんてこれっぽっちも、ええミジンコの脳みそほども思ってませんですはい」


って、どうして僕は、ここまでへりくだっている、というか、こんなにも卑屈な態度をとっていなければならないんだよ!


「あら、分かっているじゃないの」


で、こいつはこいつで満足そうだし


きっと、遺伝子レベルのサド野郎に違いない


「サディストではあるけど、野郎ではないわね」


「お前はエスパーなのか!?」


心の声に言葉で返すなよ!


人外すぎるだろうがそれ!


「あら、おかしいわね。もう随分と前から以心伝心だったような気がするのだけど」


「それは...気のせいだ」


そう


この世には考えてはいけないことがある


自分たちの世界が、単なるお話の世界だなんて、そんな幻想が世の中にあってはいけないのだから

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