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13 繋がっていく未来の先で、貴方といたい

お読みいただきありがとうございます。

「寒いから、風邪ひくよ」

 そう言ってエヴァンはわたくしにショールをかけた。空を見上げると、薄い灰色の空からは今にも雪が零れ落ちてきそうだった。

「……戻りましょうか」

「そうだな」

 そう言って、わたくしはもう振り返らずに帰った。


 王城の一室にある温かい暖炉の前に座ると、エヴァンも隣に座った。そしてポツリと呟く。

「君は、僕が知らない時間も生きているんだとずっと思ってきた。それを知らないままで良いと思っていたことを、今回の事ですごく後悔したよ」

 それは、わたくしの前世の事だろうか。エヴァンを見つめると、冷えた硬い手で、わたくしの手を取った。

「ローズ、君を知りたい」

 情熱的な言葉、これに応えなければシェリアローズの名が廃りますわね。そうわたくしは笑うと、ゆっくり話し始めた。

 わたくしには前世の記憶がある事。家族に恵まれなかった事。ゲームに登場する貴方が好きだった事。最後は、お見合い相手に殺されてしまった事。

 温かい暖炉が、わたくし達の輪郭をまろやかに浮かび上げる。わたくしはエヴァンの反応を確かめるようにしながら、ポツリポツリと話す。


 話を終えると、エヴァンはなんとも言えぬ顔でわたくしを見つめていた。そして、わたくしを抱きしめた。

「君を、守ってあげられなくてごめん」

「何を謝るのですか、だって貴方は御伽の人で……」

「それでも!」

 エヴァンの目とわたくしの目が重なる。彼の瞳は涙でゆらゆら揺れていた。

「君は、僕を好いていてくれた。そんな君を、色んな悪意から守ってあげたかった」

 鼻がツンと痛む。唇を噛みしめると零れ落ちた雫は温かくわたくしの握りしめた拳を濡らす。

「もう、もう十分貴方に守ってもらっていましたわ」

 前世のわたくしの灰色の世界に、エヴァンが色彩をくれた。それは思わず涙が溢れてしまう程綺麗で、わたくしの心に鮮烈に輝き続けている。

「大好きです、エヴァン」

 わたくしが泣きながらそう言うと、ぐぅ 、とエヴァンは唸った。その顔は耳まで赤くなっている。まだ初心なところもとびきり好き。

「ローズは、いつも僕の先を行く……」

 その言葉に少しだけ困ってしまう。そうして何を話せばいいのか分からなくなってぼんやり下を向いているエヴァンのつむじを見ていると、ようやくエヴァンが顔をあげた。

 その表情は、なんだかすっきりとしているようだった。

「でも、必ず追いつくから。ローズは安心していいよ」

 ……本当に、そういう所だ。なんて罪づくりな人なのだ、貴方は。

「だから、その」

「?」

 さっきまでキリッと話していたのに急に勢いがなくなってしまった。どうしたのかと思うとエヴァンは今までに見たことが無いほど顔を真っ赤にしている。今にも湯気が立ち昇りそうな勢いだ。

「大好きなローズと、本当の夫婦になりたい」

「……っ、はい、不束者ですがこれからもよろしくお願いします」

 そうして、わたくし達はゆっくり、お互いがとろけ合って元から一つの命だったと言うように、体を重ね合った。


◇◇◇


 それから半年後にエヴァンが正式な王太子となり、その2年後にわたくし達は結婚式をあげた。

 お父様と一緒にヴァージンロードを歩いていると、タール王国の王女に腕を抱かれて目が死んでるルドリアック殿下やまだ式は始まったばかりなのにもう涙を流しているリーシェさん、そんな彼女にハンカチを渡すセドリックが目に入る。

 他にもわたくしと父を温かい目で見守る母。それからわたくしに幼い頃から仕えてくれていたメイド達。沢山の人が、わたくし達の幸せを願い祝福してくれている。


 ふと顔を前に向けると、薄いヴェール越しにエヴァンと目があった。愛しい貴方の元へ、わたくしは歩いていく。

 そして、辿り着いた。瞳を潤ませた父が「幸せにな」と言ってその場を離れると、先ずは誓いの言葉から始まった。

「病める時も健やかなる時も、エヴァン•トワイラントはシェリアローズ•リーントルを愛する事を誓いますか?」

「誓います」

「病める時も健やかなる時も、シェリアローズ•リーントルはエヴァント•ワイラントを愛する事を誓いますか?」

「誓います」

 

「では、誓いのキスを」

 わたくしの、ヴェールがエヴァンの手によって上がる。そして、わたくし達は、唇を近づけた。


 ――わたくしのウエディングドレスのコルセットは締付けが弱い。それは、愛する貴方との大切な生命の結晶が詰まっているから。わたくしに子が宿っていると分かった時、嬉しすぎて飛び跳ねていたエヴァンを思い出してこんな場だというのに笑いがこみ上げる。

 そうだ、わたくしはこれからもずっと、ずぅっとこんな風に幸せを知りながら生きていきたい。貴方の隣に、ずっといたい。


 目をぎゅぅ、とつむりながら口を近づけるエヴァンの柔らかな唇とわたくしのそれが重なり合うまで、あとほんの一瞬。

 ここまでお付き合いくださりありがとうございました。初めての長編(中編?)は難しかったけど楽しかったです。

 面白いと思ったら☆☆☆☆☆をくださると次回作の励みになります。

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