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とある物語の始まりは -リア充主人公ストーリーのモブですが、モブとしての主人公は自分です-

作者: がお!

少し違った話を思いついたので勢いのまま書いてみました。

フィクションですので、よろしくお願いします。

「ファンタジー系が好きなの」

 高校二年生、夏の終わり。冬の訪れはまだ先。秋と呼ぶに相応しい季節ではあるけれど、昨今秋と感じる何かが無くなり、涼しくなった風と共に女子から声を掛けてきた。

 開いた窓から差し込む日差しは傾いており、斜め前の机に腰を預ける女子の陰影を強くした。

 髪はショート、目鼻たち美少女とまでは行かなくとも、可愛くはある。

 学校指定の紺色の制服、膝下まであるスカート。クラスメートではあるが面識があるだけで、今まで話したことは無い。

 春原、其れが彼女の名前だった。下の名前は……知らない。

「まぁ、良く読むね。えっと、春原さんで良かったかな。春原さんも小説を読むのかな?」

「えぇ、まぁね。私は恋愛系とか、悪役令嬢者とか、偶にファンタジー系もよく読むよ」

 少しぎこちなかったのは何故だろうかと頭の片隅を横切ったが、それより疑問がある。

 様々な事がグルグルと頭の中を回る、女子と話さないことは無いけれど、その他大勢のいる中で他愛のない先生からの連絡等やり取りするぐらいであり、教室で二人きりの状況は無かった。

 動揺していたけれど、それを悟られまいと必死に取り繕ってどうにか声を出す。

「えっと……恋愛ものは読まないかな、でもどうしてそんな事を?」

「んっと……ごめんね。本当は見るつもりじゃなかったんだけど、後ろ通るときに画面が見えて、其れがたまたまで小説サイトだったからユーザー名が『納豆腐』って……」

 納豆腐は確かによく読む小説サイトの一つで登録しているユーザー名だ。

 其れを知られたと言う事はもしかしたら皆に内緒にしている事も知られたと言う事か。

「もしかして……」

 彼女は自分の口元を気まずそうにスマホで隠しながら両手で摘まみ上げる。

「うん、だから気になって見たら……」

 画面から見えるのは小説サイトの一つ、その中でもユーザー情報が書かれているページだった。

 うん、ばれた。そして話しかけてきた理由も何と無く理解した。けれどそれ以上に恥ずかしく。

 もう隠すことなく、それでいて手で口元を隠し声出すことなく俯いてしまった。

 ユーザー名『納豆腐』でファンタジー小説を書いていることに彼女は、春原さんは知り得てしまった。

「内緒にしてたんだよね、ごめんね。でも読んでみて面白かったよ」

 学校の成績で褒められても喜びはしないし、帰宅部だから何かある訳でもない。ゲームの腕がいい訳でもない。

 何が言いたいかというと、普段褒められ慣れていないから、こう真っすぐに褒められると気恥ずかしく、例え社交辞令だったとしても嬉しかったりする。

「あ、ありがと」

「で、でファンタジー一本なのかな。それもリアルより? なものばかりで無双系とかはやらないの」

「最強とか前に少し挑戦はしたんだけどね。加減が難しくて」

「加減って」

「簡単に言うと、強さのインフレかな。それと親近感が無いって処かな」

「爽快感はあると思うけど」

「其れだけだね。共感が得られないから、何処か他人事にしか思えなくて、その上に強さのインフレが出来るからどうしてってなる」

「んー分からなくもないけど、それは持って行き方次第じゃないかな」

「かもしれないけど、頑張って続けた結果……疲れた上に書いていてどうなのって、自分で疑問に思ってしまって」

「あっはは、其れでやめたの? でも書いていたんだよね、それ如何したの?」

 屈託なく笑う彼女は、遠慮なく古傷に触れて来る。

 過去の失敗作は中々にして恥ずかしい。特に……。

「無理やり終わらせて、削除した」

「そうなんだ、もったいない。まだ残っているの、ちょっと読んでみたいな」

「流石にそれは……なんて言うか恥ずかしすぎるからやめて」

「そっか、其れは残念。それでもファンタジー系なんだ」

「まぁ、それは好きだからね。やっぱり剣と魔法って憧れるじゃん、現実では無理でも話の中では幾らでも存在出来るからね」

「小説好きとしては分かるわー。悪役成敗して皆から感謝される。現実ではないもんね、やっぱり持ってないモノに憧れる訳だ」

「世の中あやふやな事が多いから、せめて小説の中だけでもって描き始めたんだけど、意外とはまって、書いているのが面白いんだよ」

「でもあまり人気ない?」

 ぐさりと突き刺さる。そう、確かに伸びない。一番気にしている事だ。

「こ、更新速度が遅いから中々伸びなくて」

「あぁ御免。やっぱり気になるか、PV……」

 皆が気にしている訳では無いけれど、大抵投降する人は気にしているだろう。

「そりゃ気になるよ。感想とか評価とか。読んで欲しいから投降する訳で、貰えたらそれだけ読んでくれているって事だからがんばろって思うしね」

 でも色々と理由が重なって伸びない。伸びない訳を分析しようにも、どう分析すればいいのか分からない。

 無理やり投降を増やして頑張ってみたけど、一時期だけでは焼け石に水。効果は望めなかった。

「誤字脱字もあるかも」

 春原さんは人の傷を抉るのが好きなのかな。

「一応、読み返えして、ワー〇でチェックもかけてるんだけどね。難しいよね、言葉って。一字違っただけで意味が全然違うくなるんだから」

「昔の投降読み返して、あまりの稚拙さに愕然とするときもあるよね」

 ん? 確かにそれも有るけど、それって。

「それで今書いているのは楽しんでいるんだ」

 さっきの意味を問い返そうかと思ったけれど、先に言われてしまった。

 微かな疑問は今書いている小説について意識を取られ、思考の片隅に追いやられてしまった。

「楽しくは書いているよ。だけど自分が楽しいと思う事と人が楽しいと思う事は別だからね。どんなに楽しかったとしても、やっぱり投稿している限りは人気が出ないと辛いかな」

「承認欲求か。誰に向けて書いているのかって事もあるしね。人が求めているものを書くか、自分が楽しんでいるものを書き続けるか」

「無双系書いていた時も思ったけど、自分が楽しくないと続かないかな。その上で読み手に合うものが書ければいいんだけどね」

「先駆者は難しいか」

 こっちが落ち込むと慌て、楽しそうに話すと笑う。コロコロと表情を変える春原さんと話すのは楽しかった。

「他の人がやっていない話を書こうにも思いつかないしね、溢れに溢れた話はもうやってない話が無いんじゃないかって思うよ」

「でもそういうのが出てくると、やられたーって思うよね」

「其れが面白かったなら尚更だね。思わず頭の中でその物語の続きを勝手に綴ってしまうよ」

「あるあるだー」

「あるある、いっぱいあるし、聞いたりする。例えば勝手にキャラが頭の中で動き出すとか」

「思っていなかった展開になったりしたりしてね」

「小説だけでなく、漫画とか芸術家でもそういうのあるらしいから、そういうのが書いていて面白いと思う処かな。あとはあまり書かないけれど、必殺技とか考えたりとかね。使えるかどうかは置いといてこういうのはどうだろうって、考え込んだりするよ」

「其れは其れは、立派な中二病だね」

 ニヤッと笑う春原さんはまるで悪役代官みたいで、だからかつい調子に乗ってしまったのかもしれない。

 此れは此れで将来黒歴史決定と思うようなことを口走ってしまった……。


「この世のファンタジー作家はすべからく厨二病だ!」

 

 拳を握り力強く答えてしまった。

「えっと……それは言い過ぎだと思うよ。色々と恨まれそうだから、謝ったほうがいいかな」

 呆れる様に苦笑いしながら否定されてしまった。

 だからか同じ苦笑いで返しておいた。

 そして此処が何処か失念していたのも確か。学校の教室であり、誰でも入って来られると言う事を。

 だからいきなり扉が開いて人が入って来ても不思議ではないし、驚いて入ってきた人を睨むのもお門違いなのだが。

「まだ残っていたのか。そろそろ鍵を閉めようと思うがまだいるのか。なら最後のカギ閉めを頼めるか」

 入って来たのはクラスのムードメーカで人気者、生徒会役員で副会長をしている今日の日直、大海原くんだ。此れもまた下の名前は憶えていない。

 一息吐くも、春原さんを見ると『帰ろっか』と語りかけているので。

「ごめん、もう帰るよ。後お願いできるかな」

「了解、気を付けて帰れよ」

 席から立ち上がり鞄を肩にかける。

 春原さんも鞄を持ったみたいで、帰る準備は出来ている様だった。

「じゃ、お先に」

 大海原くんの横を通り過ぎ廊下に出ると、壁に背を預けている女子が一人。

 知らない人。どうやらこのクラスの人ではないみたいだけど。

 通り過ぎるときに軽く頭を下げると、向こうも頭を下げて返して来た。

 同じ生徒会の人なのかな。

 クラスの人気者に生徒会の副会長と他のクラスの人に好かれている。どうやら彼は僕と違ってリア充の様だ。

 そんな彼からしたら俺はただのモブかな。

 背中越しに二人の話し声が聞こえるが、何を言っているのかまでは分からない。

「ちょっと吃驚したね」

 階段を下り校舎出た所、教室を見上げながら言って来た。

 確かに驚いたけれど、教室に長居してはこうなる事は分かっていたはず。ただ話に夢中になっていただけの事。

「ちょっと悪いことしたかな」

「ん? 鍵の事」

「そ、別に鍵を掛けて職員室へ持っていくだけだから受けても良かったかなって」

「そだね。でも驚いて逃げちゃったね。でも気にしてないと思うよ」

 校舎から黄門まではそう遠くはない。校舎沿いに歩けばすぐに辿り着く。

 其処から左右へ分かれており、左の道が家へと続く道。

「家、どっち?」

「ん、あっち」

 春原さんが指差す方向は右側。どうやら此処でお別れの様だ

「俺は左だから」

「そっか、ならまた明日だね」

「今日は話せて楽しかった。小説の話は出来るけれど、書く側の話なんてそう出来ないからね」

「私も。また話そ、じゃね」

「うん、また明日」

 お互い手を振って別れ家路につく。

 明日からの事を思うとちょっと楽しみが出来た。

 何か得意なものがある訳でもない、成績も悪くないけれど出来る訳でもない。大海原くんから見ればモブに等しいけれど、大海原くんに成れるわけでは無いので、やはり自分を頑張るしかない。

 モブにはモブの、モブ自身の物語を勧めよう。

 そう、厨二病真っ只中の心が叫んでいた。


書いていて色々な意味でちがうなぁーと思いつつ、息抜き感覚で書いてみました。

二人の続きはどうなるか、知りません。

読んでいただき、ありがとうございました。

「その世界は残酷なれど、旅人は旅をする…… 」をよろしくお願いします。

<https://ncode.syosetu.com/n3310em/>

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