おまけ:お庭にて(ルタとルディ)
ルタの言葉を聞いたルディが納得しながら言葉を零す。
「クミィを可愛く思ってもらうってことだね」
すると、ルタは不思議そうに、ルディを眺めた。
「違いますわよ」
「違うの?」
「クミィはすぐに余計なことを言ってしまうのです。だから、言えないように口を塞いでおいてもらおうかと思っているのです」
その答えに、ルディはぽかんとしてしまった。確かに、テオはクミィに言い負かされているけれど、普通に考えれば、口紅は女性を綺麗に見せるためにあるのではなかろうか。
「口を塞ぐとは限らなくない?」
「大丈夫です。きっと、恥ずかしがって隠そうとしますから」
その自信はどこから来るのか……。
まぁ、ルタが言うのだから間違いないのだろうけど。
「とんだ惚れ薬だ」
そして、少し気になっていたことをルディはルタに尋ねた。
「ルタって、惚れ薬とか媚薬とかって呼ばれるようなの作ったことあるの?」
「いいえ」
思っていたとおりの返事のあと、やはり思っていたとおりの答えが返ってきた。
「そんな面倒なことしなくても、人間など簡単に転がせましたし、人間の弱みなど、その辺りにころころ落ちていますし……」
なるほど。ルタならその辺り容赦ない魔女だったのだろうな……。そう思いながら苦笑いをしてしまう。
「ラルーだった頃は、人の考えも読めましたから、全く必要と思ったことはありませんでしたわ」
そこで、言葉を止めたルタが、ルディを見上げた。
「ルディが必要なら作りますわよ」
政治的な面でしか考えないそんなルタが、クミィの恋を後押ししようとする。ちょっとそれが可笑しい。
「必要と感じる時があるなら、ルタが僕を嫌いになった時くらいかなぁ」
「そんな状態で、協力しようと思うかが甚だ疑問ですけど、……わたくしがルディを嫌いになることはないような気がしますわ……」
ルタは自分の感情に対しての答え合わせをしてから、ルディに言葉を向ける。続く言葉は、多分、ふたりの子どもたちルカにもグレーシアにも続けられる言葉である。
「ルディは良い子ですから」
ルタは変わらない。魔女であれ人間であれ。
とても真面目で、真っ直ぐにしか歩まない。
「そうであっても、嫌われないように努力する。それ持つよ」
ルタを魔女に戻す人間がルディであってはいけないのだから。
「まだ何か必要?」
「そうですわね……食卓に飾る花を」
ルタの花籠を持ったルディは、ルタに道を譲ると秋の花の咲く庭を一緒に歩いた。