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61話 空に舞う流星のごとく

「最近の私の扱いが納得できません」


 ヴァイスが王子との会話に出席できずに、枕にしがみついてキースにふてくされる。


「……もし、目の前で王子が彼女の手の甲に接吻をしたら耐えられたのですか?」


 キースが薄目で見ると、


「そんなことをしたら、これですね!」


 と、喜々としてモーニングスターをふたつ取り出した。


「そういうところですっっ!! それに、旦那様にとって奥様が最大の弱点と知れ渡るのは望ましくありません。もう少し奥様に免疫をつけて、正常に行動できるようにしてからでないと。大体なんですか、接吻一つで固まるなんて」


「……仕方ないでしょう!?恋というものは往々にして空に舞う流星のごとく神秘に満ち、大地からあふれ出る神流のごとくまばゆき尊きもの!それに抗うのは自然の摂理と法則をすべてを凌駕する力が必要なのですから!」


「や、だからその謎ポエムやめていただけませんか。旦那様だとより一層気色悪いです」


 キースが注いでいた紅茶を思わずどぼどぼとこぼしながら言う。


「免疫と言われましても、彼女は抑制剤の研究で忙しそうですし、邪魔するわけにもいきません。仕方ないじゃないですか」


 ヴァイスがぼすんっとベッドに寝そべりながら、愚痴る。


「……それがわかりません。今なら国を脅して奥様の出国を早めることも可能ではないですか。国に戻り、安全な屋敷でいくらでもイチャイチャできるのに、何故それをしないのですか?」


「私が束縛を望むとでも?」


「イチャイチャしたいのでしょう?」


「………したいです」


 そう言いながら、赤くなった顔を手で覆う。


「なら、国に戻って安全な場所で……」


「ですがそれとこれとは話は別でしょう」


 キースが言いかけた言葉を遮って、言うとヴァイスは天井を見上げる。


 そう、ヴァイスが魅かれたのは仕事を誇りに思いプライドをもったあの強い瞳。

 もし彼女からそれを取り上げて、愛でたとしても、彼女のあの強い瞳は光を失ってしまうかもしれない。それでは意味がないのだ。


 彼女のあの強い意志を守りつつ、愛したい。そして――願う事なら愛されたい。


「恋とは本当に面倒なものですね」


 ヴァイスがため息交じりに言うと


「その割にはお顔が嬉しそうですが」


 と、自分でこぼした紅茶を優雅に拭きながらキースが答えた。



 ★★★



「……これは……」


 私は手の半分が高質化してしまった女性を見て私は口ごもる。

 ヴァイス様や父の時ほどではないけれど、これはこれでかなりひどい状態だ。


 あの後、一番酷い患者から見ていこうということになり、最初に診る事なったのが公爵家の御令嬢だった。


 金髪で健康な状態ならとってもかわいらしいであろう10代前半の女の子。

 顔にぼつぼつができており、左手の半分が硬質化してしまい、苦しそうにはぁはぁとうなされている。


「娘は助かりますでしょうか?」


 金髪の気品のある顔立ちの公爵が私に聞いてくる。


「体調が悪いのは硬質化とは無関係です。ですがこのまま放置しておけば危ないのは確かだと思います。テーゼの花が咲けば、王室から頂ける話になっていますから、それまで硬質化を止めないといけません」


 私の言葉に今度は少女の花である公爵夫人が祈るように、「出来る事ならなんでもします!娘を助けてください!」と涙ながらにすがる。


 私は微笑みながら「はい。必ず」と安心させるように公爵夫人の手をとった。



 ★★★


「思った以上に酷いですね」


 貴族の令嬢や婦人の様子を診察した帰りの馬車。一緒に診て回ったキースさんに言われて、私は頷いた。正直、ここまで皆進んでいるとはおもわなかった。何人かは本当に、このままいくと臓器に硬質化がはじまらないように祈るしかない状況だ。強めの抑制剤を置いてきたので、すぐにどうこうなるわけではないけれど、テーゼの花が咲くまで持つか持たないかは、五分五分であまりいい状況とはいえない。


 ……でも、ヴァイス様の時と状況が大きく違うことがある。

 それは私がエデリー家の秘術を使えるようになっていることだ。


 ヴァイス様の薬と作るとき不思議な声を聴いてから、熟成の錬金術を一回も失敗したことがない。これなら他の秘術も使えるかもしれない。


 そして私にはほかの秘術の場所に心当たりがあった。


「キースさん、一つお願いがあるのですがよろしいですか?」


「はい? 私にできる事なら何なりと」


「殿下に、エデリー家の中から本などの持ち出しの許可をいただきたいのです」


 私の言葉にキースさんが「はい、それくらいなら簡単でしょう。旦那様に頼めば可能かと思います。早速手配いたしましょう」と笑ってくれた。


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