6話 情報屋 ★
「どこに行かれるつもりですか?」
怖くなって自分のバッグだけもって部屋を出ようとするとキールさんに呼び止められる。
「あ、あのやっぱり私には無理ですヴァイス様と結婚するなんて!
離婚した身の私がランドリュー家のヴァイス様と結婚するなんてありえません!」
「申し訳ありませんがそれは直接旦那様に言っていただけますか。
私は仕事として命じられた事をやらなければいけません。
未来の妻としてもてなせと命じられた以上、その対応をさせていただかないと私が怒られてしまいます。
私には故郷に病弱な妹がいまして。
ここで貴方に出ていかれて首となってしまったら、妹の病気代が払えなくなってしまうのです」
ハンカチを手に涙ぐむキールさん。
うっ。そんなことを言われてしまったら、出ていけない。
「……そ、それは困ります」
「はい、そうです。どうか私を憐れんで、療養していただけると助かります」
「ヴァイス様はいつ頃戻る予定なのでしょうか?」
「さぁ、あの方は気まぐれなので」
そう言ってキールさんは微笑んだ。
★★★
カラン。
嵐で閉じているはずの店に客が訪れる。
外は酷い風雨のはずだが、その男はまるで何事もなかったかのように衣服の濡れもなく部屋の中に現れた。
おそらく魔法で衣服を乾かしたのだろう。
そして男は休んでいた店主の前ににこにことした笑顔で話しかけてくる。
「お久しぶりです。仕事の依頼にきました」
「ええ、久しぶりですね。旦那。それにしてもこの嵐の中、供も連れずお一人でくるとは何かありましたか」
酒のグラスを磨きながら情報屋の男が答える。
「ええ、使いのものをよこしてもよかったのですが、予定外の出来事で供をあまり連れていない状態でしてね。
自ら来るしかありませんでした。それで、少し調べてほしいことがありまして」
そう言って何かメモしたものを情報屋に渡す。
「エデリー家ですか」
「はい。金に糸目はつけません。隅々まで調査の方よろしくお願いいたします」
「次のターゲットはそこですか。お可哀想に」
情報屋がため息をつくと、
「おや、人を何だと思っているのですか?」
笑いながら葉巻に火をつける。
「品行方正で心のお美しいヴァイス様です」
「よくわかっているではありませんか。それと、今日、ここに泊めていただけますか?
そこのソファをお借りするだけでいいので」
「……はい?」
「何、女性を口説くためにホテルに戻るわけにはいかないのでね」
そう言って葉巻をふかしながらソファに寝そべるのだった。