56話 勝利宣言
「錬金術師会長。この国に茶色の斑点や、シミ、ぼつぼつなどの肌の異常が流行している原因は、エデリー商会の薬やお茶に使われている西部の薬草です。
そして、その薬は使っていくうちに、肌が高質化し、最後には人間の臓器まで硬質化させて死にいたります。ですから、国の薬を管理すべき錬金術師協会は、いますぐエデリー商会の商品の販売をやめ、流通している商品の回収に回るべきです。
……それがわかっていて、なぜエデリー商会のマリア様がここにいるのですか?」
私の問いに、錬金術師協会会長と、義母だったマリアがにやりと笑った。
錬金術師協会に呼ばれたあと、私とキースさんは、錬金術師協会の人々に薬の対処方を説明していた。どういった症状でどのような処置をするのか、そして魔力細胞活性化を収める抑制剤の作り方。
説明が終わって、会長がお礼をしたいと会長室に呼び出され、ソファに座って待っていたら、現れたのが会長と元義母だったのである。
「エデリー商会のマリアと私が一緒な時点で察しはつくのではないかね?君たちにはそのことを黙っていてもらおうと思ってね」
会長がにやにやした顔をした顔を言ってくる。
「つまり、錬金術師協会の会長である貴方と、硬質化病気の原因である薬を売っているエデリー商会の代表が手を組んで、証拠を隠滅しようとしていることでよろしいでしょうか?」
私の問いに、義母がにやりと笑った。
「そういう事よ。この病気はあの憎きヴァイス・ランドリューが持ち込んだことにして、うちの薬のせいではなかったことにする予定なの」
「貴方達は本気でやっているのですかっ!?わが商家・ランドリュー商会のヴァイス様を病原菌の原因にするなど、そんな戯言が通るわけがない!今出回っている薬を分析すれば、すぐにばれる嘘だ!」
キースさんが怒鳴り気味に、義母に抗議した。
「今ある薬はこの国でしか出回っていないし、すでに無害な薬に配合をかえてあるわ。今手元にある薬を使っているものは全てランドリューの病気のせい。死んでも全部あの男のせいにしておくだけ」
義母の言葉に私は思わず、拳を握る。
「――それは、今出回っている害の薬を放置したままにして、死者がでても全てヴァイス様のせいにして終わりにするつもりということですか? これから被害者が出るのを知っていて放置すると、本気でおっしゃっているのですか!?」
思わず叫んで聞き返す。
義母達は、斑点の理由をヴァイス様のせいにするつもりだとは、ヴァイス様に聞いていた。
――でも、まさか自分たちの罪を隠すために、今出回っている分を放置して、病人がでるのを放置するほどひどいとは思っていなかった。
私はくやしくて、思わず二人を睨みつける。
「それは君次第だよ。シルヴィア」
今度は会長がにっこりわらって言う。
「どういうことですか?」
「君が治療薬を開発してくれれば、それでいいんだ。皆治る」
「治療薬はすぐできるわけじゃない!私が開発できなければ皆死んでしまいます!そんな事許されるわけがないじゃないですか!! それに、そんな理不尽な事、ヴァイス様が許すわけがない!!!」
私が、会長を睨みつけて怒鳴りつけると、会長はにやりと笑った。
「許すも、許さないももうあの男はこの世にいないだろう?」
何事もなかったかのように私とキースさんの前のソファに座る。
「……どういう事ですか?」
私が睨みながら聞くと、会長はふふと笑う。
「もうあの男は死んでいる。もう手の者がとっくに殺したはずだ。今頃館の中で死体で転がっているのではないかね?」
「まさか!!西部三地区の屋敷にいる、旦那様を手にかけたということですか!?」
キースさんが身を乗り出した。
「そういうことだ。そして君もその対象だということだ」
と、声が聞こえ―――ヴぉんっ!!!
キースさんが後ろから何か攻撃を受けて、「がはっ!!!」と苦悶の声をあげた。
「え!?」
私が後ろをみると、そこには杖をもった、錬金術師の人が魔法を放ったあとだった。
「キースさんっ!!!」
私が慌てて、キースさんを支えると、背中に魔法の直撃をうけたのか、血がどくどくと溢れている。キースさんは苦悶の表情のまま何か宝石をかみ砕いた。とたん私とキースさんの周りに透明なガラスのようなバリアが出来上がる。
「キースさんを魔法で背後から攻撃するなんて卑怯です!!凄い血です!このままでは死んでしまう!」
「ほう、防御結界魔法か」
私の抗議など無視して会長が面白そうに笑う。
「無駄なあがきだわ。その結界宝石はもって一時間じゃない。私達から逃げられるとおもっているの?」
私の前にある壁を触りながら義母が笑う。
そんな中、キースさんは力なく、その場に倒れた。
「さぁ、その男もそう長くないわ。シルヴィア。貴方は私の元に戻ってくるの。また一緒に仲良くやりましょう」
義母がいつもの笑みを浮かべた。
そう――昔はこの笑みに逆らえなかった。
怖くて怖くて仕方なかった。
絶対的な存在で言う事をきかなきゃいけないと思っていた。
でも――今は全然怖くない。
ヴァイス様を守ると誓ったあの時、私の中にあった何かが晴れたのだと実感する。
もう大丈夫。
私はこの人の言う事を聞く必要なんてない。
なんで私は以前はこんな人に怯えていたのだろう。
あまりにも小物すぎて、逆に滑稽に見えてくる。
冷静に物事をみれるようになった私にとってはこの人は軽蔑すべき対象だ。
「断ります」
私がきっぱり言うと、義母が笑う。
「あら、その男を殺してもいいの? そのままじゃ死ぬわよ」
背中からどくどくと血を流したキースさんを見ながら言う。
「今度はキースさんを人質に脅しですか?
自分たちの利益のためには、人の命を何とも思わない、貴方達らしい」
私は義母と会長を睨みつける。
「何とでも言うがいうといい。君は従うしか他ないのだよ」
会長は倒れているキースさんをまるで気に留めることなく紅茶を飲み始めた。
「こんな事!!国が許すわけがありません!!!!
きっと国王陛下はじめ、国の正規軍が動き出しますっ!!!」
私が力強く反論すると、義母マリアがにぃっと笑う。
「あら、じゃあ、失望させてあげる。国は動かないわ――だって、第二王妃殿下が私たちの後ろ盾ですもの」
その言葉に私は顔を青ざめた。
「――まさか。第二王妃殿下も貴方達の味方だと?」
私の問いに会長がにやりと笑い―――
「そう言う事だ。おとなしく従いたまえ、シルヴィア・エデリー」
言い放つ。
自慢気に言い放つ義母と会長の言葉を聞いて、私は思わず笑ってしまう。
彼らはきっと勝った気でいるのだろう。
でも勝ったのは私達だ。
思ったとたん、
「会長!!!大変です!!外に抗議の民衆が集まり始めています!!
そしてこの部屋の会話が、どういうわけか町中に流れているみたいですぅぅぅぅぅ!!!!」
錬金術協会の事務員が慌てて部屋にとびこんできた。
おそらく、キースさんが途中で邪魔されないようにと、この部屋に他の人が入れないように封じていた結界を解いたのだろう。
そう、言質はとった。
あとは貴方達が裁かれる番だ。事件の全てを知った国中の人達に。
私は何事もなかったかのようにむくりと立ち上がったキースさんと、勝利を喜ぶようにぱんっと手をたたいた。








