53話 目覚め
パタン。
シルヴィアと別れてから、キースはヴァイスの部屋に戻る。
待機していた侍女に休むように伝え、ヴァイスのベッドの隣にある椅子に座り、情報屋に調査をしてもらうための事項をすらすらとメモ帳に書きだした。
ヴァイスの件で人員はほぼ屋敷に集中している。信頼できる人間はヴァイスとシルヴィアの護衛につけなければならず、動かせる人員がいない。
こちらで雇った人間は基本的に信用できず、怪しいものは解雇してしまったので、人手が常に不足している状態だ。
だが多少無理をしても今日の錬金術協会といい、外の情報は得る必要があるだろう。
ヴァイスの事が心配で他の事に手がまわっていなかった失態に、キースはため息をついた。外の情報を集めるためにヴァイスが懇意にしている情報屋に調査を頼む必要がある。
調査すべき内容を書き出していると、視線を感じた。
キースが顔をあげると、キースのメモをうつろな目で黙って見ていたヴァイスと目が合った。
「だ、旦那様?」
まさか黙って自分の様子を観察していたとは思わず、キースは呆けた声をあげた。
★★★
「シルヴィアは召集に応じなかったと?」
錬金術師協会の会長応接室で会長が部下に問う。
「はい。どういたしましょうか」
部下の問いに、マリアと向かい合いに座り報告を聞いていた会長がふむと頷いた。
「あの女はあのエデリー家の血筋だ、殺すには惜しい。あの男を病原菌として始末する際に、巻き添えにならぬよう隔離しておきたいところだが」
「そうですよ。あの子は、治療法を研究していました。ランドリューは殺すにしても、シルヴィアはこちらの手のうちにいれておいたほうがいいでしょう」
会長の言葉にマリアもうなずく。
ヴァイスの方は病気で動けないうちに、捕らえるか、抵抗するなら殺すかして、病原菌として隔離したのち病で死んだとすればいい。
だがエデリー家の血を引くシルヴィアは錬金術師協会としては手もとにおいておきたい。
「もっと強制力の強い方法で呼び出しなさい」
会長が部下に告げるのだった。
★★★
「ヴァイス様っ!!!」
マーサさんに目を覚ましたと連絡をうけて、慌てて部屋に行くと、ヴァイス様が枕に背をあずけたまま座った状態でにっこり微笑んでくれた。
「心配をおかけしてすみません。マイレディ」
その笑顔がいつものヴァイス様で、私は泣きたくなる。
よかった、大丈夫だった!
本当は不安だった。
すでに脳まで硬質化が進んでしまっていて、脳の細胞が壊れてしまっていてそのまま目を覚まさないんじゃないかって。
ここにきて一気に涙がこみあげてくる。
よかった。
本当にっ。
「ヴァイス様っ!!!」
泣きながら抱き着くと、ヴァイス様が抱きしめてくれた。
「エーデル家の秘術に成功するとはさすがマイレディ。
私の命があるのも貴方のおかげです。ありがとうございます」
そう言って背に回した抱き寄せる力が少し強くなり、
「……怖かったでしょう?つらい思いをさせて申し訳ありませんでした」
と、耳元でささやいて私の肩に顔を埋める。
「ヴァイス様」
何か言おうとして言葉に詰まる。言いたい事はいっぱいある。
本当は怖かった。失敗して死んじゃったらどうしようって。
でもヴァイス様がいたから、ヴァイス様が私に大事な事を思い出させてくれたから。
だから、頑張れた。後ろから背中を押して、見守ってくれていたのはヴァイス様で、だから全然怖くなかったと言いたいのに、でてきたのはぽろぽろと流れる大粒の涙だけだった。
「ヴァイス様っ、ヴァイス様……っ」
涙でよく言えないまま、私も必死にだきついた。
結局、しばらくお互い何も言えないままに、ただ抱きしめあった。
「起きるのが遅くなって申し訳ありませんでした、夢があまりにも心地よかったもので」
しばらく私が泣いていてやっと嗚咽が収まったころ、ヴァイス様がぽつりとつぶやいた。
いつの間にか部屋には私とヴァイス様の二人になっている。
「夢……ですか?」
「はい、貴方と結婚式をあげる夢を見ていまして」
にっこり笑って言う、ヴァイス様の無邪気な笑顔に私はおもわず口ごもる。
結婚という言葉にどぎまぎしてしまう。
「夢の貴方も美しかったですが……やはり本当のあなたの方が何十倍も美しいですね」
そう言って涙を手でぬぐってくれて、思わず耳たぶのほうまで熱くなってしまうのを感じた。
「ヴァ、ヴァイス様はこんな時でもお言葉が上手ですっ!?」
恥ずかしくなって、ヴァイス様と身体を引き離すとヴァイス様がにっこり笑う。
「そうでしょうか。思った事を正直に申し上げているだけなのですが」
「じゃ、じゃあ私も言います!ヴァイス様は顔が綺麗で赤い瞳が美しくて、それからすごくかっこよくて、手も綺麗で、あと身長もすらりとしてかっこいいです!!!」
私が負けじとヴァイス様のカッコよさを並べると、ヴァイス様は「褒めていただけて光栄です」とにっこり笑うだけで、逆に私の方がまた恥ずかしくなってしまう。
にこにこと無邪気に浮かべる笑みにまたときめいてしまうのだ。
「も、もういいですっ……」
なんだか負けた気がして両手で真っ赤になってしまった顔を隠すと、ヴァイス様がふふっと笑う声が聞こえた。
「愛していますよ……マイレディ。貴方に再び会えたことを、いままで存在すら信じたことすらなかった神に感謝しましょう」
そう言ってヴァイス様がおでこに軽いキスをしてくれた。








