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49話 諦めない

「旦那様っ!!!」


 キースさんが慌てて寝させようとするけれど、ヴァイス様は手で制す。


「申し訳ありませんが、私の命に係わることなので私に決定権をいただきたい」


 苦しそうに胸を抑えながら私に微笑む。


「ヴァイス様……」


「私の願いを聞いてくださいますか?マイレディ」


 優しく残酷な事を言う。嫌だ、失敗したらヴァイス様が死んでしまう。

 怖くて作れるわけがない。


「でも、でも、作れる自信がありませんっ」


 ぼろぼろと涙が止められない。大好きなヴァイス様失いたくないという想いと、失敗が怖くて逃げたい思いとかいろんな感情がごっちゃになって自分でもよくわからない。


 みっともなく泣いていると、ヴァイス様が手を伸ばし私を抱きしめた。


「……ヴァイス様?」


「その時はそれが運命だったのでしょう。あなたのせいではありませんよ。私が決定した以上、どんな結果になったとしても、それは私の責任です。……わかりますね?」


 私の耳元でささやくようにヴァイス様が言う。


「でもっ、でもっ……!?」


 ぎゅっとヴァイス様の背に手をまわして力強く抱き寄せた。


 ヴァイス様のぬくもりに、かすかにかおる香水に。

 もし死んでしまったらもうこのぬくもりを感じる事ができなくなる。


 やだ。やだ。やだ。

 お願い死なないで。


「もともとあなたと出会わなければ死んでいた身です。

 私に何かあったとしても、貴方のせいではありません」


 ヴァイス様が私をぎゅっと抱きしめた。

 その体は震えていて、私は思わず顔を上げる。


「……すみません、私のせいで貴方に酷な選択を強いる事になってしまいました。

 背負わなくていい罪を貴方に背負わせることになってしまい、申し訳ありません。

 こんなことを望んでいたわけではなかったのに。

 貴方を苦しめたかったわけじゃなかった」


 声を震わせて、言うヴァイス様の目からは涙が溢れていた。

 その姿に――私は固まった。


 私は――何をしているのだろう。

 一番つらいのはヴァイス様で、苦しいのも、死ぬ恐怖も全部抱え込んでいるのは彼のはずなのに。

 

 そんな彼に、私は慰められている。


 違う、違う、違う。


 患者に寄り添い励まさなきゃいけないのは私の方。

 最後まで希望を捨てるなと声をかけて、不安をとりのぞかなきゃいけない立場なのに患者であるヴァイス様に慰められてしまっている。


 どんなに辛くても、悲しくても、仕事に対する誇りは捨てちゃいけない。


 私は慰められる側じゃない。



 ――私は彼を支える側じゃなきゃいけないんだ。



「シルヴィア、お願いがあります」


「お願い……ですか?」


「私といま結婚していただけませんか? 次動けなくなってしまったら……もうサインもできなくなってしまうかもしれません。せめて、貴方と夫婦になって……」


 言いながら微笑むヴァイス様の顔はどこかはかなげで、もう死を覚悟しているのではないかと不安になる。

 そう――死を覚悟しているからこそ、遺産を私に渡すためにこのタイミングで、結婚を申し込んだ。そしてサインを今この場でしようとしている。そう考えたほうがつじつまがあう。


 ヴァイス様の涙で、私は妙に意識がはっきりしたように感じた。


 抜ける事の出来なかった霧の中から急に視界が開けた不思議な感覚。


 泣いている場合じゃない。

 治す側が希望を失ってしまったら駄目。どんなに可能性が低くても、諦めちゃだめなんだ。


「はい。私もヴァイス様が大好きです。ですからお願いします、結婚してください」


 私の言葉にヴァイス様の顔が驚いた顔になる。

 硬質化がはじまってしまい、肌のまだらな茶色で顔色はわからないけれど、それでも嬉しそうに笑ってくれたのは嬉しかった。


 だからこそ、譲れない。


「でも、それはヴァイス様が完治してからです。今の状態で結婚は絶対嫌です」


「ですが……」


 ヴァイス様が何か言いかけるが私はヴァイス様の唇に人差し指をあててその言葉をとめた。

 だってヴァイス様に討論で敵うわけないもの。

 それに、何を言われても私の意思はかわらない。


「私はあきらめません、だからヴァイス様もあきらめないでください。

 治して、お互いに元気な状態で、ちゃんと式をあげてサインをしたいです」


 まっすぐ見つめて言う。


「……シルヴィア」


「熟成の錬金を試してみます。だから待っていてくださいね」


 私が微笑むと、ヴァイス様も微笑んでくれた。


「はい、ではお待ちしていますよ。マイレディ」


「絶対成功させて戻ってきます。だから、諦めないでくださいね。大好きなヴァイス様」


 涙をぐっとこらえて、耳元でささやくと、そのまま抱きしめてくれた。



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