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48話 可能性

「薬をもってまいりましたっ!!!」


 屋敷に戻り、ヴァイス様をベッドに寝かせたところで、キースさんが工房にあった薬をもってきてくれた。

 ヴァイス様の服を脱がせてみたけれど、肌の三分の一くらいがすでに茶色くなってしまっていて、ものすごく進行してしまっている。

 ヴァイス様の意識はあるようだけれど、口からヒューハ―と音をだすだけで、言葉を発しない。眼はうつろで、焦点もあっていない。どうしよう、父の末期の手前の症状まで一気に進行している。でもなんで!?


「まずは効くか、飲ませてみましょう!」


 私はキースさんから薬を受け取ると、そのまま口移しで押し込むように飲ませた。

 なんとか飲み込んでもらわないと困る。


 まだ気管までは硬質化していないようで、なんとかヴァイス様は薬を飲みこんでくれた。


――お願い効いて――


 父を治したくて必死に勉強して作り出した薬のレシピ。

 父がまだ元気なうちに父と一緒に研究に研究を重ねたからきっと効くはず。


 しゅぅぅぅっと音がして、少しずつ、ヴァイス様の茶色の塊が薄くなっていく。


「き、効いた!?」

「旦那様っ!?」


 マーサさんとキースさんが思わず身を乗り出す。


 確かに少しよくなった。

 効いたように見える。


 でも、違う。


「……だめです。予定よりずっと効果が薄い。これじゃあまたすぐ進行してしまいます。

 やはり熟成期間が短すぎました」


「じゃあ、残りを飲ませれば!?」


 キースさんが残ったポーションを指さしてすがるように言うけれど、薬は多く飲んだらその分効くわけじゃない。


「コップと同じです。身体が受け付ける量はおなじで余分に注いだところで水があふれてしまうだけ。ここで飲ませても身体が受け付けず無駄になってしまいます」


「では、旦那様はどうなるのですっ!?」


 キースさんが私の両肩を掴んですがるように言う。


「方法は二つ。この状態のまま毎日抑制剤を飲み続けて、薬が熟成するまで待ちテーゼの花が咲くのを待つか……。


 もう一つはエデリー家の秘術、熟成を促す術を使うか」


「そうすれば助かるのでしょうか?」


「……正直どちらもものすごく可能性は低いです。

 父も同じ状態でしたが抑制剤を投入しましたが、皮膚への広がりは確かに抑えられたのですが、見えない部分……硬質化が臓器に侵食してしまって10日もたたずすぐになくなってしまいました」


「では!エデリー家の秘術は!?」


 キースさんが私に顔を近づけて必死に叫ぶ。


「……私は百回とチャレンジした中で一回しか成功したことがありません」


「でも、可能性が0じゃないんでしょう?奥様。どちらかを試してみないと」


 マーサさんが私の肩に手を置いた。


「……はい。わかっています。わかっていますっ!でも、どうすればいいのか、わからなくてっ!!」


 泣きながら私は頭を抱える。

 

「最善をつくさなきゃ、つくさなきゃ駄目なんですっ!

 そうしなきゃヴァイス様が死んじゃいますっ。

 でもどっちを選べばいいのかわからないんですっ。

 テーゼの薬はあと一回分。

 錬金術の秘術を失敗してしまったら無駄になってしまう。

 

 この薬を残して熟成させたほうがいいのか。それとも100分の1の可能性にかけるか。


 でも、抑制剤で広がる範囲を抑えたとしても、もうここまで広がってしまった状態だと、臓器の方に人知れずに広がってしまって命を落とす可能性が高すぎてっ。

 10日~30日もてばいいほうで、とてもじゃないけど、薬の熟成まで間に合わないっ!!」


 説明しながら涙がぽろぽろ流れる。


 ――そう、どちらを選んだとしてもものすごく可能性が低いのだ。

 選んだ方がダメだったら?

 どうして。嫌。やだ。このままじゃヴァイス様が死んでしまう。


「こんな事なら、ちゃんとエデリー家の秘術を使えるまでポーションを作り続けるべきだったんです!!作るとイヤな顔をされるから、力を見せつける気かと言われるのが怖かったから、私は逃げてしまったっ!!


 全部、全部、私のせいなんですっ!!」


 あふれる涙が止まらない。


 そう、リックスが何を言ったとしても、ちゃんと自分を持つべきだった。

 嫌われたくない。好かれたい。嫌な顔をされたくない。

 そうやって顔色ばかり窺って私は何もかも放り投げだしてしまった。


 守るべきエデリー家の技術も。

 家も、家を支えていてくれた人たちも、私のせいで全部失ってしまった。


 そして今、大事なヴァイス様まで失いそうになっている。


「やっぱり私は駄目な人間なんですっ!!!

 だって一番守りたいものの前に、結局何も出来ないっ!!!!

 リックス達の言う通りだったんですっ!!!

 私なんて役立たずでお荷物で高飛車でっ!!!!」


「いえ、まだあきらめるべきではありません。

 一度でも成功したことがあるというのなら錬金術の秘術を試しましょう」


 私のヒステリックな叫びを遮ったのは、キースさんでも、マーサさんでもなかった。


 「旦那様……」


 マーサさんが声の主の名を呼ぶ。

 そう、私の叫びを遮ったのは寝ていたはずのヴァイス様だった。

 テーゼの花の薬の効果か少し硬質化が解けたことで喋れるようになったようで、のそりと起き上がった。



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