45話 甘い味
「わぁ」
きれいに飾られた中央広場のダンス会場に私は思わず声をあげた。
魔道具でキラキラと幻想的な光が会場中央にある噴水を綺麗に演出し、舗装されたレンガの床にも綺麗に光の演出がされていた。七色の光が、レンガを照らしていて幻想的だ。オーケストラの準備をしている人々や、会場でダンスを待つ恋人たちが嬉しそうに談笑している。
私が豊穣祭に来ていたころにはダンスはなかったけれど、いつの間にかここでは結婚する前の恋人たちが踊る場として定着していたらしい。
入場券を買って、設置されたホールに入る。
ここは大人気でなかなかチケットが取れないと教えてくれた。
ヴァイス様が先に予約をしてくれていたおかげで、私たちはすんなり会場内に入ることができた。
「観光地化の一環ですね。国をあげて力を入れている事業です。他国でもここは一度訪れたいデートスポットになっています。そのため各国から人が集まるため、ここで新たな流行が生まれると、注目されている場所でもあります。ここには社員が毎年調査にきていますが、私も一度視察したいと思っていた場所です」
人差し指を口に当ててウィンクして教えてくれた。
そしてそのまま私の手をとって踊るポーズをして
「何より、貴方と一緒に踊れる事が光栄です」
ヴァイス様は私を抱き寄せて耳元でささやいたあと、踊る風に体をくるっと一回転したあとにっこり笑って頬を少し赤らめた。
私も思わず顔が赤くなる。
ど、どうしよう。動作の一つ一つがかっこいい。マーサさんが言っていた無自覚で気障ってこういうことなのかな。ドキドキしてしまって、どう接したらいいのかわからない。
「さて、一曲踊る前に飲み物でも買ってきましょう。ここでお待ちいただけますか、お姫様。警備の方もキースたちが密かにそばにいますから、安心していただけると」
ヴァイス様がにっこり笑ってくれる。で、でも。
「あ、あのヴァイス様」
「わかっていますよ。私はここで買ったものには手をつけませんから安心してください。あなたと踊る前に倒れてしまっては悔やんでも悔やみきれませんから。本当なら一緒のジュースを二人で一緒に呑むというのも体験はしてみたかったのですが、残念です」
「ジュースですか?」
「はい、一つのジュースを二人で顔をあわせながらストローで飲むというのが、流行だそうでして。マイレディとならぜひご一緒したかったのですが」
そう言ってにこやかに笑って、手を振って飲み物を買いに人ごみに消える。
二人で一緒?
ヴァイス様の顔が近い状態で一緒にストローで飲み物を飲んでいる図を想像してしまって、全身が熱くなる。う、うん。無理。あの綺麗な赤い瞳が目の前にあって端整な顔が近くにある状態で一緒に飲むなんて絶対無理。恥ずかしさで死んでしまうと思う。
私は一人赤くなった両方を抑えるのだった。
「はい。どうぞ。マイレディ」
ヴァイス様が綺麗なグリーン色のジュースを買ってきてくれて、渡してくれた。
キラキラと中が光っている。
「凄く……綺麗です。飲むのがもったいないくらい」
「お気にめしていただけたなら光栄です。今年の新作ジュースらしいですよ。あまりにもマイレディの瞳に似て綺麗だったので買ってきてしまいました」
後半は甘くささやきながら、私にジュースを渡してくれる。
その行為に私はまた顔が赤くなったのを感じる。
「……ヴァイス様は、女性の扱いになれていらっしゃいますね」
「おや、そう見えますか?」
「そ、その、行動がとてもスマートというかステキというか……」
「そう言っていただけると、嬉しいです」
にっこりと笑うヴァイス様は本当に嬉しそうで、それだけで心臓がバクバクしてしまう。
「まぁ、商売柄女性の扱いには慣れている方だと思います。ですが、このように必死に口説いたのは貴方が初めてです」
「え?」
「前にも話したと思いますが、女性に好意を抱いた事が一度もありませんでしたから。本当に好きな人にどのように接していいのかわからず、私もかなりいっぱいいっぱいでして。可笑しな事をしていないといいのですが」
はにかんで笑いながら、手の甲にキスをしてくれて、全身が本当に熱くなるのを感じてしまう。
「ほ、ほほほほ、本当にお上手です!!!!」
自分でもよくわからない返事をして、慌てて飲んだジュースの味はものすごく甘くて少しシュワッとした。
それからテレを隠すようにもくもくとヴァイス様の買ってきてくれた、綺麗な色のジュースを飲んで待っていると、オーケストラの曲が流れてくる。
「おや、はじまるようですね。それではよろしいでしょうか」
そう言って、私のジュースを預かってくれて、コートにしまう。
前から思っていたのだけれど、ヴァイス様のコートはどうなっているのだろう?
そんなことを思っていると、ヴァイス様が私の手をとった。
途端、光が会場全体を照らして、綺麗なシャボン玉が宙を舞い幻想的な光をかもしだす。
「では、一曲お付き合いいただけると嬉しいです」
ヴァイス様の言葉とともに、私たちは曲に合わせて私たちは踊りだした。幻想的な光の中で。