42話 気持ち
「本当に申し訳ありません。豊穣祭は護衛をつけますから、マーサ達と楽しんできてください」
10日間開催されるの豊穣祭の終了二日前、私がヴァイス様の身体の魔素濃度の計測をしていると、ヴァイス様がそう言って申し訳なさそうに微笑んだ。
あれから、ヴァイス様は熱が下がったり、上がったりを繰り返したりで体調が安定しない。
幸いなのは痣ができないことだけれど、それでも容態がいつ急変するかわからない状態だ。いまも辛そうに肩で息をしている状態で、離れるわけにはいかない。
父だって死ぬときは突然だった、いきなり全身の肌の硬質化が全身に進んでしまって、あっという間だったのだ。
「気にしないでください。豊穣祭は毎年ありますから。体力が弱っているのは危険です。高質化が一気に進んでしまうかもしれません」
「……ですが、楽しみにしていたのでしょう? そう遠くではありませんから」
「はい。でも楽しみにしていたのはヴァイス様と一緒にいく豊穣祭です。豊穣祭は毎年あります。また来年、一緒に行っていただけると嬉しいです」
私はヴァイス様が心配しないようにと、にっこり笑ってみせる。
そう、ヴァイス様と一緒にいけるから楽しみだった。
一緒に花火を見て、一緒に露店を回ってたわいもない話をして、一緒に大道芸の感想を話し合って、他にも恋人同士みたいに肩を並べて綺麗な夜景の中を歩いて、好きだとプレゼントを渡したり……、そんな事を夢見てちょっと嬉しかったけれど、無理をさせたいわけじゃない。
魔力の過剰反応が原因の熱なのか、リックス達を相手にしたときの疲れからきた熱なのか判断がつかない状態なのも、とても心配。
私がヴァイス様の魔素濃度を測り終わって、顔をあげると、ヴァイス様と目があって、慌ててヴァイス様が目をそらした。
「……どうかなさいましたか?」
何か失礼な事をしちゃったかな?と思って聞いてみる。
「ああ、いえ、すみません。あまり女性を見つめるのは失礼かと思いまして。
そうですね、では明日の最終日の夜、近くの丘で花火を見るのはどうでしょうか?
ここの近くですし、それくらいなら医者からの許可もでると思いますが」
「はい、ぜひ! あ、でもちゃんと先生が大丈夫と言ってくれたらですよ?ダメと言われたら駄目ですからね。ヴァイス様はすぐ無理をしますから」
ヴァイス様は本当にすぐ無理をするから心配になる。
私の心配をしてくれるのはとても嬉しいけれど、でも無理をしてほしいわけじゃない。
私が言うと、ヴァイス様も苦笑いを浮かべた。
「はい。さすがに今回は凝りました。こうも発熱が長引くとは思いませんでしたから。一度治さないと何もできません」
そう言って笑ってくれた。
★★★
パタン。
自分の部屋にもどってから扉をきっちり閉めて、私は笑みがこぼれそうになるのを必死に抑える。
花火に誘ってもらえた。ヴァイス様から。
熱が下がらなくていけないとあきらめていたから、すごく嬉しい。
私は机に大事にしまっておいた、包みをとりだした。キースさんがこっそり屋敷に呼び寄せてくれた行商人の人から買ったヴァイス様用のブローチ。
渡す機会がなくて渡せないと思ったけれど、花火に行けたら渡せるかな?
こっそり一生懸命練習したセリフをもう一度心の中で言ってみる。
ちゃんと伝えよう。
私もヴァイス様が好きだって。
私を個人として認めてくれて、守ってくれて、私の幸せもちゃんと考えてくれていて。泣いてばかりで駄目な私を怒りもせず、見捨てもせず、ちゃんと尊重してくれて。
私の発明をけなす事なく、さらに伸ばしてくれて、私が気づかなかった翼を与えてくれる。
いつも褒めてくれて、微笑んでくれて、なぐさめてくれて、好きだといってくれる。
私の喜ぶことを考えてくれて、用意してくれて。
いつも一番に私の幸せを考えてくれる。
幸せそうに頬を染めて微笑む顔も、時折みせてくれる子供っぽい笑顔も全部好きで。
言葉ではいい表せない、いっぱいの感謝をちゃんと、伝えよう。
明日はヴァイス様の熱がでないといいな。
「明後日は頑張らなきゃ」
私は嬉しくてベッドに寝そべると枕を抱きしめた。











