40話 許さない
「マリアっ!!!これはどうなっているのですっ!!!!」
ガシャン!!
跪いた状態のマリアの横に乱暴にワイングラスが投げられ、砕けた。
ここは第二王妃の別荘。今二人はそこの応接室で密会をしていた。
「も、申し訳ありませんっ」
「貴方の愚息が、何をしているのかわかっているの!?あの伯爵は私の可愛い息子の王位継承に尽力をしてくださっていた方なの!?彼がいるかいないかで王継承戦は大きく変わってしまう!!それをっ!!それをっ!!!彼の密輸入品の倉庫を誘拐現場に使うとかっ!?一体何を考えているのよ!!」
そう言いながら、第二王妃は近くに会った花瓶をなぎ倒し、花を何度も何度も踏みつける。
「も、申し訳ありません、この償いは必ず」
「どうするっていうの!? 平民風情が! これで第一王子派が巻き返してしまうわ!!」
第二王妃が手に持っていた扇子をマリアに投げつけ、顔に直撃する。
けれどマリアは黙ってうつむくしかできなかった。
「許さないわっ!!!ヴァイス・ランドリュー!!!!」
悔しそうに、第二王妃はがんっと机を叩くのだった。
★★★
「……面目ありません。はしゃぎすぎました」
リックスが私を誘拐しようとしてから三日後。
ヴァイス様は事情聴取を終えてから、屋敷に戻るなり倒れてしまい高熱で医者にかかることになってしまった。今日になって大分熱は引いたけどやっぱり辛そうで心配になる。
「私のせいです。すみません。外に出たいなんて言わなければ……」
ぎゅっと手を握る。リックスはなんで私に執着するんだろう。
あんな風に捨てておいて、戻るわけなんてないのに。
ヴァイス様に迷惑をかけてしまっていることに、苦しくなる。
「気になさらないでください。あれはいつか相手をしなければいけませんでしたから。キースが許可したのですから、問題があるとしたら許可した彼になります」
そう言ってははっと笑う。
「これでしばらくは、あちらも手をだしてこないでしょう。買い物に行きたいのなら、キースたちと行ってきてください。ずっと屋敷の中にいるのも気が滅入るでしょう。やっと自由に動けるようになったのですから」
「こんな状態のヴァイス様を置いて出かけるなんてできません!」
私が言うと、ヴァイス様が少し驚いたような顔をした。
「ヴァイス様?」
「ああ、そうか。そうですね。幼い時から病でも一人が当たり前だったのでその発想はありませんでした。すみません。あなたを冷たい人間と思っているわけではないのです。……いやはや、本当にうまくいきません。どうにも私の常識は常識ではないらしい」
ヴァイス様は目をつぶって、はーっと息を吐く。
「私が病に伏せていると親が出かけてしまうのが普通でしてね。いつの間にかそれが当然だと思うようになっていました。その方が効率的だと思い込んでいたのかもしれません。そうですね……一つお願いをしてもよろしいでしょうか」
「はい、何でしょうか?」
「幼い時、幼馴染に風邪の時は寝付くまで母に手をつないで寝てもらうと、自慢された事がありました。あの時は何故それを自慢するのか、わかりませんでした。でも今ならわかる気もします」
「え?」
「貴方に、寝るまで手をつないでもらえたら嬉しいです」
ヴァイス様は顔を赤くして微笑んでくれた。