4話 面倒事(ヒーロー視点)★
「容態は?」
「栄養失調と疲労でしょう。しばらく安静にし、しっかりと食事をとらせてください。
あまり胃に負担になるようなものをいきなり与える事の無いようにお願いします」
「わかりました」
そう言って去っていく医者の後姿にキールはため息をつく。
あの後、風雨が酷くなった道を馬車ではしりホテルにまでたどり着いた。
だが嵐でホテルは満室で彼女用の部屋を借りることもできず、ヴァイスの部屋のベッドで寝かせてある。
「どうするつもりですか? この嵐で他のホテルに移すのも無理でしょう」
「追い出すわけにはいかない。ソファで寝るから気にしなくていいですよ」
「旦那様がですか!?」
「一人にするわけにもいかないでしょう?
それより彼女の事を調べてきてもらえますか?」
そう言って彼女の身分証をキールに渡す。
「……かしこまりました」
納得できないような顔ではあったがキールは頷いて部屋を立ち去った。
★★★
(随分厄介な事に関わってしまった)
ソファに腰かけて寝ている女性に目を移す。
癖で葉巻に手をだそうとして、病人がいる部屋だとその手をとめ、ため息をつきながら仕事の書類に手を伸ばした。
葉巻には疲労回復効果があるため、常に吸っていたのだが、どうもあれがないと落ち着かないが病人の前で煙をだすわけにもいかないだろう。
葉巻には疲労回復の効果があるがそれはあくまでも健常な人間用だ。
どんな良薬でも症状によっては体に毒になることもある。
ヴァイスはちらりと視線をうつす。
倒れている女性の姿が、母の姿と重なった。
父に愛人を作って捨てられ精神を病んでしまった母に。
夢遊病になり、時間を問わず街を徘徊するようになってしまったのだ。
最後に見たのは馬車に轢かれ血まみれになった母の姿。
(あまりにも似ていたため思わず拾ってしまったが……)
身分証を見ると、この国では錬金術で有名なエデリー家の者らしい。
ヴァイスはこの国には最近進出したばかりで、あまり詳しくないが、それでもこの家の噂は知っている。先代の当主が死んでから入り婿が仕切っているとは聞いていた。
そして自分の記憶が正しければ彼女はエデリー家の先代の娘のはず。
何故こんな衰弱した状態で嵐の街を徘徊していた?
所持金もとてもではないが、エデリー家の者とは思えない。
(身分証を盗んだか、はたまた本人か……どちらにせよ面倒な事にかわりない)
ヴァイスは書類に目を通しながら大きくため息をつくのだった。