38話 ストレス発散
「どうだ、シルヴィアは捕まえられたか?」
「はい、こちらの倉庫に逃げ込みました。倉庫は取り囲んでおります。逃げようがありません」
城壁内にある港の倉庫で、リックスは雇った男たちの答えに嬉しそうに笑った。第二王妃の指導の元、シルヴィアを捕まえる手はずは整った。
倉庫の中にいるシルヴィアを説得して連れ帰ればいいだけ。
このまま、シルヴィアを連れて帰って、また結婚してしまえば外人の商人では手出しもできなくなるだろう。
――もう子どもなんていらない。
僕には君しかいないんだ、あの悪魔のような女サニアに騙されていただけで、僕たちこそ真実の愛で結ばれていたんだ。一緒に帰ろうシルヴィア――
リックスは鍵師が渡した鍵を受け取り、扉を開けた。
「さぁ、助けにきたよ。愛しのシルヴィア」
と、兵士を連れてリックスが扉を開けた先には、荷物の木箱と、なぜかドデンとおかれた玉座のような椅子に座ってにっこり笑っているヴァイスの姿があった。
「はい。いらっしゃい♡ お待ちしておりました♡」
「……な!? 何故貴様がここにいる!? シルヴィアは!?」
扉を閉め、武器を構える傭兵たち。
「怖い思いをさせるわけにもいきませんので、家に帰しましたが何か?」
「い、いやそうではなくて! お前達何をやっていたんだ!?」
リックスが傭兵に怒鳴るが、傭兵達はぶんぶんっと顔を横に振る。
確かにキースとシルヴィアを乗せた馬と護衛の馬はこの倉庫に逃げ込んで鍵を閉めてしまった。
そこから誰一人出していないはずなのに、なぜかそこにいたのはヴァイスだったのだ。
ヴァイスはゆっくりと椅子から立ち上がる。
「貴方がこちらに派遣ギルドをつかって密偵を放っていたのをこちらが気づいていなかったとでも? サニア嬢が私の出かける日に限ってまるで待っていたかのように遭遇を試みてきたことから、察するのは容易でした」
ヴァイスがにっこり言うと、リックスがぎりっと唇をかむ。
あの女はここにきてまで僕の邪魔をするのか。
「貴方の密偵を監視させていただきました。あの男の行動で、貴方が何をしたいのか手に取るようにわかりました。これだから人材を現地での緊急調達はあまり好きではないのですよ。すぐに敵の手のものが潜り込む」
ヴァイスがやれやれと肩をすくめる。
「……で、わかっているのに、こんなところまでノコノコきたってことかい?」
「ええ、さすがに目障りなのでね。一度警告をと思いまして。私に牙をむくとどうなるか、わからせる必要があるかと」
「何か勘違いしてなないかい? あんたは勝った気でいるが、あんたを殺しても誰もわからない。第二王妃が僕の後ろにいるんだ。ここで殺したってもみ消してくれる!」
リックスの言葉に、傭兵達が構えた。
そう、いい機会だ。ここでヴァイスを殺して海でも放り投げておけば、事故死として処理してくれるだろう。ヴァイスさえいなくなれば、きっとシルヴィアも戻ってきてくれるはず。
「ははっ。もみ消せる?何を言っているのですか、貴方は見捨てられるに決まっているじゃないですか。第二王妃もお可哀想に、無能な味方ほど厄介なものはない。事件の顛末を聞けばあなた方を味方に引き入れようとしたことを心から後悔することでしょう」
「ど、どういうことだ?」
「何故、私がここで待ち構えていたか。そこに答えがあると思いませんか?」
そう言われてリックスはあたりを見渡す。なんの変哲もない港にある倉庫だ。
何があるのだと、本気でわからず怪訝な顔をするとヴァイスはにっこり笑う。
「ここ、第二王妃の取り巻き貴族の密輸品を一時保存する倉庫なんですよ♡
この下には密輸入品がたっぷりあります」
「な!?」
「警察のTOPは第二王子派だからともみ消せるとお思いだったのでしょうが。
さすがに第一王子直属の白銀騎士が喧嘩を止めにきたら、警察も介入できないでしょうね」
「ま、まさか」
「はい。第一王子の白銀騎士にこちらの場所を知らせておきました。
城内で馬を乱暴に乗り回し、狼藉を働いてるものがおり、他国のテロリストかもしれない、新興宗教が女性を誘拐して生贄にしようとしているかもしれないなど、多数の苦情がよせられているはずですから、動くと思いますよ。テロリストなどは白銀騎士の管轄です。
そして第二王妃を毛嫌いしている白銀騎士は前からこの倉庫を調べたくて仕方なかった。テロリストがいるかもしれないなどと聞けば、悦び勇んで捜査にのりだすでしょう」
「ちょ、第一騎士がきたらもみ消しなんてできないじゃないか!?」
「その通り。貴方を庇えば密輸に関わっていたのかと第一王子派に責められる。
第二王妃が貴方のためにそこまでのリスクを負うわけがない。
つまり、あなたの後ろ盾はまったく意味をなさない。おとなしく牢屋にぶちこまれてください。ああ、私なりの慈悲であなたの犯行は誘拐未遂にとどめてあげますよ。最終的に貴方を地に堕とすのはマイレディの予定なので」
言いながらヴァイスがにやにや笑いながら近づいてくる。
「それにしても第二王妃もお可哀想に、頭の悪い馬鹿と手を組んだせいで、重要な収入源の一つを失うのだから」
ヴァイスの浮かべる笑みが不気味で、リックスはたじろいだ。
(ちょ、そんなこと聞いてないぞ。はやくこの倉庫から出て逃げないと。
いや、白銀騎士が来る前にこの男を始末しておけばいいだけだ)
「それなら来る前に殺すだけだ!やってしまえ!」
リックスが指示した途端、ヴァイスが恍惚とした顔でうっとりする。
「ああ、そうです。それですよ。やはり商人はこれでなくては。
邪魔するものは完膚なきまでに地に堕とし、嘲笑う。これでなくてはいけません。
そのためには醜く抗ってもらわないと面白くありません。これは誠に理想的展開です。
白銀騎士たちが到着するまで、私と遊んでいただきましょう。いい加減こちらも慣れぬ病人生活にストレスがたまっていたので」
そう言ってコートからゴロンと二つ大きなモーニングスターを取り出し手にもち凶悪な笑みを浮かべた。











