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37話 滑稽

 キースさんに連れてきてもらったアクセサリー店はとても豪華な建物だった。

 ヴァイス様が好きなブランド店に連れてきてもらったのだけれど……


 どれもとても高い。


 ライセンス料でもらったお金でなんとかなると思っていたのに、一番高いものは買えもしない。


 私がブローチとにらめっこしていると、キースさんが笑いながら


「無理はしないでくださいね。シルヴィア様にあまり高いものを買わせてしまっては、『やっと彼女に受け取ってもらったお金が減っただろう』と、旦那様に怒られてしまいます」


 と、私の耳元でささやいた。


 ヴァイス様ならいいそうで、思わず顔が赤くなってしまう。


 確かに一人でも自立できるようにと、渡してくれたお金を全部使ってしまっては申し訳ないけれど……。


「でも、もうちょっといいモノ買えるとおもったのに、アクセサリーに対する知識が全然足りなかったようです。これではヴァイス様の伴侶としてやっていけるか不安です。もっと知識不足な部分は学ばないといけません」


 商人の妻が物の値段を知らないのでは、主人であるヴァイス様にも迷惑をかけてしまう。


「……」


 びっくりした顔で私を見つめるキースさんに気づいて、私は慌ててキースさんを見た。


「……どうかしましたか?」


「いやぁ、今のお言葉、旦那様が聞いたら泣いて喜びますよ」


 と、言われて私は気づく。すっかり結婚する前提で話を進めていたことに。


「ち、ちちちち、違うのですっ!!あのっ!これはっ!」


「いえいえ、未来の奥様として大変頼もしいお言葉です。あの方は商売が趣味で事業を広げすぎですから、先見の明があるシルヴィア様が奥様になってくれるなら私としても大変ありがたいですから」


「あ、いえ、……はい」


 私は真っ赤になって頷いた。

 ヴァイス様に思いを伝えるということで、やっぱりそこに商家の妻としての責務は発生する。

 ちゃんとその覚悟をしたうえで、思いを伝えるのだからここで否定するのも違う気がして、思わず押し黙ってしまう。


「……それにしても」


「どうかしましたか?」


 キースさんが私の肩に手をおいて視線だけ別方向に向ける。


『つけられてました。中なら安全かと思ったのですが、どうやらこの店の者もグルのようです』


 耳元でささやくように言う。


『先ほどから私達以外に客がいませんよね?さりげなく店員が外においだしていました』


 その言葉にぞくりとする。


 ……え?どういうこと?


『名のあるブランド店でこのような事がおきるとは予想外でした。この国の腐敗は私たちの予想以上だったようです。奥様に怖い思いをさせてしまうことになりました。私の落ち度です申し訳ありません。少し我慢していただけますか?』


「それでは下見は終わりにしてそろそろ帰りましょう。奥様」


「あ、はい」


 キースさんが私の手を引いてそう言ったとき。


「お待ちください。お客様、ぜひお客様に見ていただきたい商品が」


 店の人がよってくる。でもおかしい、まるで取り囲むように人がいる。


 どうしよう。怖い。


「あ!!!火があそこに燃え広がってるっ!!!!」


 キースさんがいきなり叫んで、指さした方を皆が視る。

 その間に、キースさんは私を抱きかかえて、ダッシュした。


「ちょ、待ちなさいっ!!!」


 店員たちが追ってくるけれど、キースさんは私を抱きかかえたまま、スイスイと店を脱出した。けれど――。

 馬車が両側しっかりと他の馬車に塞がれていて出れないようになっている。


「緊急事態です!!こちらに援護を!!!」


 キースさんが言うと、護衛の人が、問答無用で馬車から馬を切り離し、そのまま解放された馬にキースさんが私ともども乗り込んだ。


「さ、逃げましょう。奥様になにかあったら、私が殺されてしまいます。旦那様に」


 キースさんが馬を走らせた途端、どこからいたのか、知らない馬に乗った人たちが追いかけてきた。


 護衛だった人も他の馬車から奪った馬にのり私たちの隣に並走して、走っている。


 街中で乱暴に馬を走らせて、逃げる私たちと複数の追うものたちで街中は騒然とした。


「街中で随分目立つことをしてきますね。いやぁありがたい」


 と、笑いながらキースさん。


「わ、笑いごとでしょうか?」


「ああ、申し訳ありません。あまりにもあちらの行動が滑稽すぎて。少々路地裏にはいりますので、しっかり捕まってくださいね!」


 そう言ってキースさんが馬の脇を蹴り飛ばした。


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