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35話 約束

「何もおかしナ成分はありませんね。毒になるような物はありまセン」


 あれから5日後。三日目あたりでヴァイス様の痣は綺麗に消えて、肌は正常な状態に戻った。けれどやはり魔力の数値は乱れており、皮膚が過剰反応しやすい状態であることにはかわりなかい。ミス・グリーンの調べてくれたデータを見ても、確かに体に害のある成分は見当たらなかった。


「ヴァイス様だけが過剰反応したということでしょうか。しかしこの中になにか体に合わないものがあるというのは考慮にいれるべきです。怪しそうな成分をかきだして、以後これらを含むお茶や食べ物は全て禁止しましょう」


「そうですネ。決まった物しか食べない方向で行った方がいいでショウ」


「それにしてもこのお茶の薬草、こちらではあまり見ない物デスネ」


 ミス・グリーンがお茶の入った瓶を見つめて言う。


「西部で最近栽培がはじまったものです。近年、山間部で育てていたのを平野部で育てるのに成功したとかで、西部では盛んに使われるようになりました」


「そんないいモノ、なんで東部では使わなかったのデス?」


 ミス・グリーンの問いに私はうーんとうなる。

 二年前から営業があったのは確かで、私の所にも西部の薬草売りが営業にきていた。


「東部の民と西部の民の肌の違いがあります。西部の方たちは魔力の強い場所に住んでいますから、魔力耐性が高いのです。それに比べ東部は土地の魔力濃度が薄いため、彼らほど魔力耐性が高くない。そのため、西部の人達に無害でも東部の人たちには有害というものがあります。だから皆西部からの仕入れには慎重になるのです」


「オー、今回もそれじゃないですカ?」


「でも成分的には問題はありませんし……。ヴァイス様はいま正常な状態といえません。ですからヴァイス様に異常があったから東部の人にあわない、にはなりませんから」


 私が考えていると


「それはそうでしょうか?」


 後ろから声が聞こえ、振り返ると、そこにはキースさんに睨まれながら、にっこりと立っているヴァイス様の姿があった。


「ヴァイス様」


「気になる事がありましね。少し貴方達にお知らせに」


「気になることですか?」


「ええ、ごくわずかなのですが、そのお茶が流行しだしてから、その間にわが社の女性向けの疲労回復の薬やお茶の伸びがよくなっています。それも例のお茶が普及している国中心に」


 と、パラリと書類を置く。


「オー。社長悪い人ね。仕事禁止じゃなかった?」


 ミス・グリーンがキースさんとヴァイス様を交互に見ながら言う。


「申し訳ありませんが、私は何もしないで、寝ているだけという時間が耐えられません。仕事は趣味です。それまで禁じられたら、暇で死んでしまいます。いっそ死にます」


「たった五日も我慢できないとか、子どもですか!?」


 キースさんがヴァイスさんに詰め寄るけれど、ははっと笑ってかわされる。


「まぁ、そこは些細な事ですから、いいでしょう。ですがマイレディ。

 この現象少々気にかかりませんか?」


「……ヴァイス様と同じですね。細胞が活性化したせいで疲労が酷くなっていると?」


「微量のお茶を摂取しただけであそこまで悪化するのは、素人意見で言わせていただければ、信じられません。もし、このエーデル商会のお茶が私と同じ病状を引き起こすとしたら」


 ヴァイス様が私を見つめた。


「……現時点で商品として出回っている特効薬はありません。大変な事になります」


 そう、父が死んでしまったように、医者はその病気の存在すら知らない。

 誰一人治せる人がいないし、私だってテーゼの花が手にはいらないと無理で、その薬は熟成期間をかなり要する。

 そのせいで、ヴァイス様の薬もまだ完成していないのだ。もし本当にこのお茶にそのような効果があるとしたらテーゼの花からつくる薬の生産など間に合わない。大変な事になってしまう。


「デモ、まだ推測の域ネ。データもなしに騒げばいちゃもん扱い」


 ミス・グリーンが眼鏡をかけなおしながら言う。


「そうですね、特にわが商会は商売敵ですから、足を引っ張りたいだけとあしらわれて、終わりでしょう」


 そう言ってヴァイス様が葉巻をとりだして、キースさんに取り上げられる。

 少し恨めしそうにキースさんを見て、視線をこちらに戻した。


「ですからミス・グリーン。本国で分析するように頼んでもらえますか。あちらの方が人も多いし、設備もいい。化粧事業はまだ本格的にはじまっていません。化粧事業もやるならマイレディが合流してからのほうがいいでしょう。まぁ、まだ可能性の段階です。私が何年も薬を服用していても何ら問題がなかったのですから、病として発病するには何年かかかるでしょう。現状は無害なのか有害なのか調べておきましょう。場合によってはその薬草をうちで仕入れる事になるかもしれませんしね」


「はい。わかりましタ。私もそろそろ滞在期間終わりマス。ちょうどよかったデス」


 ミス・グリーンが頷く。


「それとマイレディ」


 ヴァイス様が視線をこちらに向ける。流し目で見られて少しどきっとしてしまう。


「は、はいっ?」


「あの復元能力を抑制する薬というのは常用して大丈夫なものでしょうか?

 あれを飲むと疲れがとれるのですが」


 ニコニコ笑いながらヴァイス様が聞いてくる。

 確かにヴァイス様は普段使わなくてもいい魔力を常時使っている状態なので、それを抑制するのだから体調は良くなると思う。でも……


「また薬に頼ろうとしないでください。旦那様!薬中ですか!?」


 ヴァイス様がキースさんに襟首を掴まれる。


「体に悪いと決まったわけではないでしょう?」


「でもやはり、常用はやめておきましょう。耐性がついてしまって、いざというときに効果がなくなる可能性があります」


「それは残念です」


 ヴァイス様が本当に残念という顔をすると、キースさんが勝ち誇った顔をして、ヴァイス様の襟首を掴んだ。


「ではそろそろ、お部屋に戻ってください。寝る時間です」


「あ、そうそう。マイレディ」


 キースさんに引きずられながら、ヴァイス様が微笑む。


「はい?」


「もう少しで豊穣祭ですが一緒にどうですか? その日なら例の方たちも王族の行事に参加していますから、遭遇することもありませんし、たまには息抜きに」


「豊穣祭」


 そういえば、閉じ込められてから行くことなんてなかった。

 パレードに、露店に、花火に、路上演技。

 昔父や友達と行った事を思い出して、胸が高鳴る。


「は、はい!ぜひ行きたいです」


「よかったです。では、また後程」


 そう言って少し顔を赤らめてにっこり微笑んでくれるヴァイス様の笑顔は本当に嬉しそうで、私まで嬉しくなってしまう。


 ヴァイス様と豊穣際……。


 二人でパレードを見る姿を想像して、私は思わず顔が赤くなる。

 この国で豊穣祭デートは一番憧れる事で、やっぱりそういったデートは恋人を意識してしまう。

 この国の女性は豊穣祭の花火の時に告白されるのが憧れで、その日に告白されると永遠に幸せになれる――。

 そうだ、これはチャンスだと思う。ヴァイス様にちゃんと私の気持ちを伝えるいい機会。

 今度こそ覚悟を決めないと。

 泣いてばかりいないでちゃんと思いを伝えるんだ。うん、頑張る。


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