34話 今後
「キースさん、昨日服用したものでいつもと変わったものはありませんでしたか」
あのあとヴァイス様に、平謝りしてからベッドに移動して寝てもらった。私たちは別室に移動してキースさんに尋ねる。いままで順調に回復していたのに、急に悪化してしまっている。
それの原因を調べないといけない。
「そういえば、流行しているという新しいお茶をお出ししました」
キースさんが少し気落ちした風に言う。
「流行しているお茶ですか?」
「はい、その……エデリー商会がここ最近新しく美容に効くと出したお茶で。
今この国とその周辺国で流行していると聞きました。それを試そうという話になりまして。舐めて風味を確認しただけでしたが。」
「それに毒が入っていたってことデスかねー?」
ミス・グリーンがひょいっと後ろから顔を出す。
「毒とは限りません。ヴァイス様は人より回復機能が過剰反応する体質になっていますから。健常な人が飲んでも無害なものがヴァイス様に毒になる可能性はあります」
「飲んで美容に効く系のお茶はよくありマース。デモ、こんな短期間ですぐ効くと有名になるということはかなり強い成分ですネ」
「はい。その成分を調べてみましょう。一過性の過剰反応ならいいのですが……。
復元能力を抑制する薬を飲んでいましょう。それを服用してまたシミが増えるようなら、テーゼの花で作った薬を服用します。現状維持のままなら少しだけ様子をみてみます。一時反応なら三日で消えるはずです。以後は、食べ物、飲み物も徹底的に管理します」
「わかりましタ。それじゃあ私はその茶葉の分析をしまスね」
「お願いします。私も復元能力を抑える薬を病床にあわせられるように、作成してきますので、キースさんはヴァイス様を。また交代制にして誰か必ず一緒にいる状態にしてください。急変する可能性もありますから」
「はい、かしこまりました」
私の言葉にミス・グリーンとキースさんは頷いてくれた。
★★★
「貴方の商会のお茶。かなり流行しているそうじゃない?」
王宮で第二王妃の庭園で第二王妃がマリアに微笑んだ。
「はい。おかげさまで。これも皆王妃殿下のおかげですわ」
マリアは出されたお茶に口をつけながら優雅に笑う。
そう、シルヴィアがいなくなったせいで、いままで取引していた薬草が買えなくなってしまい、新規にいままで取引のなかった西側の王国と取引を開始した中にその薬草はあった。
現地の人が煎じて飲むと美容にきくとのことで、取り入れてみたのだが、これが効果覿面で飲んで数日で肌に張りがでて綺麗になると、貴族の間で流行したのだ。
もちろん第二王妃の社交界の地位があったからこそ、すぐに広められたのだが。
「王妃殿下には感謝しております。今年の豊穣祭では多額の投資をさせていただきますね」
「あら、嬉しいわ。最近、ポーションの質が悪くなったと噂を聞いていたから心配していたのよ?」
「ご心配には及びません。この西国から仕入れた新しい薬草でポーションを作成したところ、前より回復力がよくなったと評判ですから」
「あら、それでは今年は期待しておりますわね。ミセス・マリア」
「はい王妃殿下。期待してくださいませ」
マリアは怪しい笑みを浮かべる。
さんざんヴァイスに馬鹿にされたが、運はやはりマリアにある。
この薬草はまだ西部でも出回ったばかりで、東部には流通していない。
そしてかなり安かったため、田園も買い占めた。
マリアの一人勝ち状態だ。あの生意気な青二才の商人を追い抜いて見せる。
(あの生意気な商人とシルヴィアを後悔させてやるわ。必ず)
★★★
「もう恥ずかしすぎて死にそうです……」
キースがヴァイスの寝室に行くと、案の定というか予想通りというかヴァイスがいじけていた。布団にくるまって、謎の悲しいオーラを放っている。
「もういい歳なんですから、体を触られたくらいでイジイジしないでください。乙女ですか気持ち悪い」
キースが水差しに水を入れながら言う。
「触診で感じていたとかそういうド変態だったわけじゃないんでしょう」
キースが言うと、ヴァイスの返事がぴたりととまる。
「………」
「…………」
しばし無言で見つめあう二人。
「てれってってってー♪旦那様は『ド変態』の称号を手に入れた」
効果音をつけながら言うキースに「一度死にたいようですね」とヴァイスが威圧を放つ。
「や、すみません。私には故郷になんの縁もゆかりもない病弱なだれかがいるかもしれませんので、見逃していただけると」
「貴方とは本当に一度じっくり話をつける必要があるようです」
「それより旦那様、体調は大丈夫なのですか?」
「ええ、特に。痣が出来た以外の変化はありません。疲れやすいのは前からですから」
「今日は薬を飲んで寝てくださいだそうです。シルヴィア様が旦那様ように用意しておいた薬だそうですから、これは飲んでも問題ないと思います」
そう言って薬を差し出した。
「わかりました。では各事業所に仕事の指示を書かないと……」
書類を手に取ろうとするヴァイスの手をキースが止める。
いつになく強い力で手を握られ、ヴァイスはキースに視線を向けた。
「旦那様。我々をもう少し信じてくださいませんか。療養中の留守を守れないほど、貴方の部下たちは無能ではないはずですが」
そう言って手を握る力を強めた。
「……キース?」
「あのお茶を試すのを私は立場上、止めるべきでした。申し訳ありません」
いつになく真剣な表情に、ヴァイスはやれやれと肩をすくめた。
「私が試すと言ったのだから仕方ないでしょう。あなたのせいではありませんよ。
ははっ、それにしても急に真面目になられると、気持ち悪いですね」
ヴァイスが茶化した風に言うが、キースは黙ったままヴァイスを見つめるだけで、ヴァイスはため息をつく。
槍でもふってくるのではないかと茶化そうと考えたが、そういう雰囲気でもないらしい。
(自分が思っているよりも酷い状態と見るべきか……)
「……わかりました。おとなしく寝るとしましょう」
「はい、お願いします」
答えるその声はどこか震えていた。