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32話 ミス・グリーン

「きゃー、ミス・シルヴィア!!会いたかったでーす!!」


 次の日。キースさんが私の錬金術の工房で紹介してくれたのは緑髪の眼鏡をかけた綺麗な女の人だった。


「えっとこの方は?」


 背の高い白衣をきたその人に私は視線を向ける


「以前旦那様がお話したとおもいますが、化粧品事業部の所長、ミス・グリーンです。

 本当は帰国してから顔合わせの予定だったのですが」


 キースさんが言うと、ミス・グリーンはにっこり微笑んだ。


「貴方のポーションとレシピが素晴らしくて一度会ってみたくなって♪

 待てなくて旅行名目で遊びにきちゃいました♡」


 白衣姿で嬉しそうに言う。


「す、素晴らしいですか?」


「そうデース! 見てくださいこのポーション!! 肌の魔力細胞の過剰活性化を防ぐために、MP11の数値を極限まで下げて、それでいて肌の復元組織MOP123の魔細胞だけによく効くグランゼの花の魔素を極限まで圧縮して抽出していまーす!!!」


 そう言って、私に私のつくったポーションの数値をレポートしたものを見せてくれる。


「はい、そうなんです!たぶん過剰反応するのはMP11なんです!」


「おー、ヤッパリ!旦那様から過剰反応の硬質化を教わってから私も調べてみました。あなたのお父様の知識は凄いデース」


「……何を言っているのかさっぱりなので、私は席をはずしてもよろしいですか?」


 キースさんが冷や汗をかきながら、あははと笑う。


「おーすみません。旅行名目の入国なので滞在があまりできません、とりあえず本題に入りマース」


「はい?」


「ミス・シルヴィア、私にあなたのポーション作り拝見させていただけマスか?」


 にっこりとミス・グリーンは笑った。




「思った通りデース! やっぱりこれ商品化無理でーす」


 私のポーション作りを真剣な目で見ていたあと、完成したポーションを手にしたミス・グリーンが微笑んだ。


「は、はい? な、なにか駄目だったでしょうか?」


 商品化できないというのはどういうことだろう?

 確かに改良は必要だと思うけれど、何か作り方に問題があったのかな?


 ミス・グリーンは腕をくんで、考え込む。


「うーん。なんて言っていいですかネ。これを作れるのは貴方だからなのデス」


「え?」


「貴方の魔力抽出と圧縮の技術はとても素晴らしいデス。それはとてもとても。

 そのレベルでつくれるのは私でも10個中1個できればいいレベルなのデス。

 この薬は貴方だから作れるのです。言っている意味わかりますよね?」


「つまり奥様だから作れたのであって、他の人では作れないから商品に出来ないということですよね?」


「そうなりマース♡ 確認にきてよかったデス。レシピ通りに作っているのにどうしてもできなくてヤキモキしたのですよ」


「す、すすすすすみません」


 どうしよう、出来ないものをレシピとして送ってるとは思わなかった。

 余計な時間をとらせてしまっていたみたい。怒られてしまうかも。


「アハハ。なんで謝るんですか、レシピを勝手に頼んだのはこちらです。

 其れに嬉しいですよ」


「嬉しい……ですか?」


「こんな凄い錬金術師と一緒に仕事できるなんて光栄デース!さすが錬金術で名をはせたエデリー家のお嬢さんです!!!きっと血筋なんデスね!」


 ミス・グリーンの言葉にぶわっと涙が溢れてしまう。

 え?やだ。泣かないって誓ったのに。


「……ってなんで泣いてるです!?」


 ミス・グリーンがものすごく慌てて私を見た。


「すみません、すみません」


 エデリー家の錬金術師。そう評価してもらえたことが嬉しくて、気づいたら涙がでてしまっていた。そうだ、エデリー家は商売に走り始めてから、量産することばかりに注視して技術をあまり披露しなくなってしまったけれど、もともとは高度な錬金術をできるはずの由緒正しき血筋だったはず。父は商売に走ってしまった現状をよく嘆いていた。


――父さんは無理だったけどお前には才能がある。立派な錬金術師になれるよ。お前は由緒正しきエデリー家の血筋なのだから――


 急にそれが思い出されて、気づいたら泣いてしまっていた。


「オー!!泣かない!!いい子!いい子!!!」


 ミス・グリーンが私を抱きしめて、頭をぽんぽんっと叩いてくれる。


 泣きやまないと。私がぐしぐし涙をぬぐっていると


「ミス・グリーン♡」


 いつの間にか来ていたヴァイス様が扉の前で、ニコニコとした笑顔で立っていた。


「おー社長!? 怒らないでください!?私何も痛い事してませーん。悪口もいってませーん。何故泣いたのかわかりませーん!?」


 あわあわと釈明するミス・グリーン。

 そう、彼女は何もしてない。ちゃんと私からも言わないと。


「問題点はそこではありません。気安く彼女に抱き着かないでいただきたいっ!

 私だってまだっ!」


 ヴァイス様が途中まで言いかけて、そこで止まる。


 そして目を泳がせた後、耳まで真っ赤になる。


「……マダ?」


 ニタニタとした笑みを浮かべて、ミス・グリーンがヴァイス様に聞き返した。


「わー、女性に嫉妬とか大人げない」


 キースさんが薄目で突っ込む。


「おー、婚約者なのにまだ抱き合ってナイとか。政略結婚デス?」


 ミス・グリーンの言葉にヴァイス様は何か言おうとして、やっぱり目を泳がせた。


「いや、失礼しました。なんでもありません」


 少し悔しそうな顔でうつむくヴァイス様。

 違う。ちゃんとヴァイス様が好きって伝えないと、誤解されちゃう。

 ヴァイス様は契約婚約だと思ったままだもの。


「ヴァイス様っ!!」


 抱き着くと慌てて、ヴァイス様が私を受け止めてくれた。


「シ、シルヴィア?」


「違うんです、違うんですっ……っ!!」


 言葉にしなきゃなのに嗚咽でうまく言葉が出ない。


「おー旦那様悪いオトコ。フィアンセ泣かせたら駄目です」


「そうですね。酷いお方だ。泣かせないでください」


「……貴方達」


 ヴァイス様の声が聞こえて、ごとりと何か重いものが落ちる音がした。

 なんだろうと見ようとしたけれど、ヴァイス様にしっかりと抱きしめられていて見えない。


 その音の後


「おー要件おもいだしマシタ!私街にお買い物いってクルネ!!!」


 ミス・グリーンの声が聞こえて


「私も最近育て始めた食虫植物の餌の時間となりましたので失礼いたしますっ!!」


 キースさんも慌てて扉から出て行った。




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