29話 もっと強く
「さぁ、帰りましょう」
サニアが走って逃げていく背を最後まで見ないで、ヴァイス様は私に手を差し出してくれた。
どうしよう。
すごく嬉しい。
サニアの発言がどんなにおかしくても、いつもみんなサニアの味方をして、責められるのは私だった。
それなのに今日は誰も私を責めなかった。
ちゃんとサニアにおかしいと言ってくれた。
みんなが私の味方をしてくれた。
何より――
ヴァイス様がサニアより私を選んでくれたのが、うれしかった。
また涙がでそうになってしまい、ぐっと我慢する。
いつも些細な事で泣いていたら迷惑をかけてしまう。
「はい、今日は本当にありがとうございました」
私がヴァイス様の手をとると、ヴァイス様が笑ってくれる
「いえ、お騒がせしてしまって申し訳ありません。今日は検査はやめておきましょう。気がそがれました」
「はい。そうですね」
泣かないように涙をこらえて精いっぱい返事をする。
「……少々強く言いすぎました。どうもあなたの事を悪く言われるとカッとなってしまいます」
ヴァイス様が申し訳なさそうに言ってくれるけれど、それがまた嬉しくて涙がでてしまいそうになる。
「すごく、嬉しかったです」
うつむいたまま、そう答えるだけが精いっぱいだった。
自分のために怒ってくれる人。
ちゃんと守ってくれる人。
否定しないで認めてくれる人。
優しく見守ってくれる人。
成果を評価として認めてくれる人。
その存在が嬉しくて、頼もしくて、愛おしくて。
言葉で全部言い表せない感情に、心が締め付けられる。
私のペースにあわせて歩く速度をあわせて、エスコートしてくれる彼の横顔ををちらりと盗み見る。
ここまでしていただいているのだから、いつまでも泣いていたら駄目。
強くならなきゃ。ちゃんと自分自身で。
いつも守られるだけじゃなくて、ちゃんと自分で自分の事くらい言い返せるくらい強く――。
私は握ってくれたヴァイス様の手に少し力を込めた。
どうか貴方の隣を歩けるくらい強くなれますように――と。











