27話 行かないで
「あの子が?」
思わず私がマーサさんに聞いてしまう。
「はい、ヴァイス様に会わせろと、頑として動かず。
妊婦ですから手荒な事もできず、いまキース様が対応していますが……」
「わかりました。私が対応しましょう。貴方はここで待っていていただけますか?」
装置を外しながら、ヴァイス様が立ち上がる。
その姿がふいに、リックスとサニアの姿に重なった。
そうだ。父が最初は夫婦二人がいいだろうと、私とリックスは別の場所に住んでいた。
けれど急にそこにサニアが、変な男の人にあとをつけられてる。一人で帰るのが怖いと毎日来るようになって、そこから夫婦仲がぎくしゃくしてきた気がする。
シャツの上からコートを羽織る姿が、不意にあの時のリックスと重なって怖くなる。
一度だけ行かないでと頼んだ事があったけれど、リックスに冷たい女と言われてから、怖くて何も言えなくなった。
また、私は好きな人をとられてしまうの?
私みたいな我の強い女より、か弱くて可愛い妹の方が男の人は好きだから。
行ったらまた私は置いていかれてしまうかもしれない。
「……マイレディ?」
気が付いたら、私はルヴァイス様のコートを掴んでいた。
「すぐ戻ってきますよ。心配しないでください」
微笑みながらヴァイス様が言う。
そうだ、わがままはよくない。あの子の性格上ヴァイス様に会うまできっと動かないだろう。問題なのはサニアが妊娠しているというところ。
彼女一人なら放っておけばいいけれど、何かあったら、ヴァイス様達に迷惑がかかってしまう。
キースさんだって今頃困っているはず。
でも、やっぱり行ってほしくない。
だけど我儘は言えない。
ならせめて――。
「私も一緒にいいですか?」
ヴァイス様を見上げる。
ヴァイス様は一瞬困った顔をして、ふむと頷いたあと、私に視線をむけた。
「……正直あまりお勧めできません。貴方の方がご存じだとは思いますが、貴方の妹君の性格を考えると、何を言われるかわかりませんが、それでも?」
「はい、私も一緒に説得します」
私はヴァイス様のコートを離さないように強く握る。
お願いだから、おいて行かないで。
もう不安の中待つだけは嫌。
祈るように私はヴァイス様を見つめた。
ヴァイス様は少し困ったように、手を顎にそえると、ちらりとマーサさんを見る。
「奥様が行きたいというなら連れてってあげるものですよ。旦那様」
そう言ってマーサさんがけらけら笑って、「奥様には私が指一本触れさせませんから安心してください」とウィンクをしてくれた。











