26話 錬金術の化粧利用
「錬金術の化粧事業ですか?」
ヴァイス様の魔力の数値検査のため、魔力分析の装置をつけているときにそう提案されて、私は思わず聞き返した。
「はい。もともとあったプロジェクトなのですが、そのプロジェクトによろしければ貴方に加わっていただきたいと思いまして」
魔力測定装置を頭と腕と足につけて寝た状態のヴァイス様が視線をこちらに向ける。
「わ、私にですか?」
「貴方の薬のレシピを、本国に送ったらぜひ皆会いたいといいましてね。錬金術を化粧品に転用するとき、何が難しいか貴方なら言わなくてもわかりますよね」
「はい。ヴァイス様の今の状態と同じですね。回復をさせすぎて、しばらくは綺麗になりますが常用しすぎるとシミができやすくなります。化粧の場合は表面にぬるだけなので、そこまで深刻ではないとおもいますが」
「はい。その通りです。今まではその明確な原因がわからず難航していました。化粧水などは従来通りの自然の物をつかったほうがいい。髪の毛の艶や薄毛対策の薬などはすでに開発しているのですが、どうしても肌だけがうまくいきません。私たちの国ではなるべく薄化粧で、それでいて肌が綺麗な女性が美人ともてはやされる傾向がありまして。なんとかシミやしわなどをとる薬を開発したいなと。
そこで貴方に商品開発に加わるようにお願いしたいのです」
「わ、私がですか?」
「もし、迷惑でなければですが。できればそのまま私と国に行き、そちらで働いていただきたい。お願いできますか?」
「私でいいのでしょうか?」
「はい。もちろん。皆喜ぶと思います。
顔合わせしたいところですがどうもこの国は仕事関係での入国の手形をとるのが難しくて。今から彼らが手形をとるころには貴方が出国できる時期になってしまいますので、顔合わせはあちらの国になるとおもいますが」
「は、はい!ぜひやりたいです!」
「それはよかった。ですが一つ確認しておきますが、その場合、もし結婚を破棄した場合でも仕事上、嫌でも私と顔をあわせることになるでしょう。それでもよろしいでしょうか?」
少し上目遣いで聞くヴァイス様の言葉に私は嬉しくなる。
「も、もちろんヴァイス様が嫌なわけありません!!」
私の言葉に、ヴァイス様の顔が一瞬すごく嬉しそうにほころんで、あわてて元の表情に戻す。そして私と目があって、真っ赤になって、手で顔を隠した。
「ああ、それはよかったです。いえ、すみません。その、気にしないでください」
ヴァイス様の照れが可愛くて私の方も顔が真っ赤になってしまう。
「い、いえ、私こそちゃんとお返事をしていなくてすみません」
「かまいませんよ。もとより約束ですからね。出国可能になったその日にお聞かせいただければ、それまでは、婚約者としてよろしくお願いいたします」
そう言って手をだしてくれて、私も顔が赤くなるのを感じながら手を握る。
……ちゃんと言わなきゃ。
いつまでも、待たせるわけにはいかない。
大丈夫、ヴァイス様はいつだって自分を尊重してくれてる。
リックスと違う。
結婚したって豹変するわけがないもの。
今こそ言わなきゃ。
「あ、あのっ!!」
「はい?」
「わ……」
「ヴァイス様大変ですっ!!!!」
私が言おうとしたその瞬間。マーサさんの手によって部屋の扉がばーんっと開かれた。