24話 泡沫であり、幻想のようなもの ★
「……愛とは泡沫であり、幻想のようなもの。
思い込みと理念との相反であり、人類が存在するための合理性であり能動的でうつろいやすい。それがゆえ幻想的に見え、言葉で無数に価値観が存在し、その存在そのものを証明するのが難しく、人類が完璧に理解することのできぬもの」
執務室で両肘を机の上に立て、両手を口元で組んでぽつりとヴァイスがつぶやき
「何急に、謎ポエム垂れ流しているんですか旦那様。気持ち悪いです」
速攻で隣にいたキールに突っ込まれる。
「なるほど。これがポエムですか。今まで芸術というのはまったくわからず、それとなく、美辞麗句と聞きかじった知識をもとに知った風を装っていましたが、心のうちなる叫びを芸術というのなら、私もいま理解できた気がします」
真顔で答えるヴァイスにキールが頬をひきつらせた。
「……ひょっとしてシルヴィア様とのお食事はうまくいかなかったのでしょうか?」
「そこがまず問題ですね。何をもって成功とするべきなのか指標がわからない。断られもせず、承認されもせず、泣かれてしまった。
これが彼女の抱える闇がいまだ彼女を捕らえているとみるべきなのか、私からの告白を不快に感じて泣いたのかそれがわかりません」
「本人に直接聞けばよかったじゃないですか」
「甘いですね。それをしてしまって後者だった場合どうします?
残りの婚約期間すら私は彼女とすごす貴重な時間を破棄しなければいけなくなります。本来なら4ケ月ある交流期間ですらですっ!
そんなことを私にできるわけがないっ!」
決め顔で叫ぶヴァイス。
「もう、ヘタレなのを言葉で着飾ることも放棄して本音駄々洩れじゃないですか」
「何とでも言ってください。これなら政敵を徹底的に叩き潰す方が100倍楽です。いっそのこと彼女の義家族を全力で叩きつぶしてきましょうか」
「眼が据わっていますよ!? 大体、エデリー商会の本格的な処分は奥様の気持ちが落ち着いてから、奥様にどうしたいか聞いてから処分するとおっしゃっていたじゃないですか!?」
マントからごとりとモーニングスターを取り出して立ち上がったヴァイスをキールが慌てて止めにはいる。キールが体にがしっとしがみつくとヴァイスは笑う。
「そうでした。私としたことが。わかりました。もう落ち着きましたから安心してください」
にっこりと爽やかな笑顔になるヴァイス。
「旦那様……」
嫌な予感がしてしがみついたまま、キールが恐る恐る顔をあげると
「潰すのは誰か一人に絞ります」
と、凶悪な笑みを浮かべた。
「おちついてねぇ!!!」
しがみついたキールを引きずったままずるずると歩き出したヴァイスにキールが全力で突っ込むのだった。











