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20話 発明

 

「眼鏡……ですか?」


 ヴァイス様が目を覚まして、一緒にとった夕食時、私はヴァイス様に自分の作った魔道具の眼鏡を差し出した。 


「はい。私が作った魔道具です。……その試していただけますか?

 この眼鏡をかけて書類を読んでみてほしいのですが」


 私の言葉に、ヴァイス様は嬉しそうにお礼を言いながら、眼鏡をかけて書類に目を通す。


「これは凄いですね。一目見ただけで情報がすべてはいってきます」


 とても嬉しそうに書類に次々と目を通す。

 やっぱりヴァイス様は使えた。嬉しくて私はほっと胸をなでおろす。


「何故このような素晴らしい魔道具を今まで世に発表しなかったのでしょう?」


 まるで新しいおもちゃを買ってもらったかのように、目をキラキラさせていってくれるヴァイス様はちょっと可愛いと思うのは失礼かもしれない。


「えっと、その……使える方が限られているからです」


「ほう、魔力的な相性か何かでしょうか?」


 ヴァイス様の言葉に私は首を横に振る。


「この魔道具は視覚の処理能力を超えた情報量を脳に直接を送っています。それゆえ、その情報量を処理できる方しか使えません。

 同じ絵を一瞬だけ見せても、多くの情報を得る人と、あまり覚えていない人、その差が激しいように、この商品の欠陥は、脳の処理速度の高い人しか使えないという事です。

 それもかなり限られた一部の方。

 一部しか使えないものをとてもではありませんが商品として売り出す事はできません」




――なんだ、こんなの売れないじゃないか。君ってそうやって自分が頭いいのを自慢するところあるよね。君しか使えないものをもってきて僕が使えない事への嫌味なのかい?――




 リックスのあの言葉以来封じてしまった魔道具。

 でもヴァイス様なら使えると信じてた。


「この魔道具の欠陥は、全ての情報を視覚から脳に送ってしまうことです。私の技術では文字量をセーブすることも個人が理解できるところまで選別する機能をつけることはできません。

 そしておそらく今の魔道具技術では個人に調整することはできないでしょう。だから商品として発表するのも錬金術協会への発表も控えていました」


「それはなんとも……もったいないですね」


「そうでしょうか?脳の処理速度はある程度鍛える事は確かに可能ですが、生まれつきによるものも大きいと書物で読んだ事があります。貴族の方でも使えるのは本当にごく一部だと思います。世に出す意味がわかりません」


「だからですよ、一部しか使えないからこそ使える者が優秀であるという証明になる。そのプレミア感こそ貴族相手には重要です。実際に使えるかが問題なのではありません、この眼鏡を所持し、使えると見せる事が重要なのです」


「そ、そういうものでしょうか?」


「使いすぎるとすぐ脳が疲れてしまうなど、使わない事への言い訳もちゃんと用意して、売り出せば彼らはこぞって飛びつくでしょう。もちろん付加価値をつけるための綿密な戦略は必要ですが。そこは私にお任せください。そういった事に関してなら、こちらはプロなので。ですが、本当に貴方はすごいですよ。優秀と言うほかない」


 眼鏡をかけて嬉しそうに書類に目を通しながら言う。


「ところで実際には使いすぎると何か問題があるのでしょうか?」


「魔力値に変化はありませんでした。ですがヴァイス様の状態は健康とはいいがたいので一日10分で30分の休憩をはさみ3回までの使用にしてください」


「一秒もあれば読めますからね。三十分もあれば十分です。いやはや、これは本当に素晴らしい!」


 そう言って子どものように無邪気に笑ってくれる。

 ああ、きっと私が欲しかったのはこの笑顔だった。

 ただ、嬉しさを共有したかった。

 ともに発明して喜びあえる夫婦になりたかっただけなのに。


「……ああ、すみません。泣かないでください。私はまた何か言ってしまいましたでしょうか」


 またいつのまにか泣いてしまっていた事に気づいて、私ははっとする。

 いつも何もしてないのに泣いていたら嫌われてしまう。


「すみません、すみません」


 私の言葉に、ヴァイス様は笑って「謝るようなことではありませんよ。そうですね。すみませんでした。泣きたいときは私の事は気にせず泣いてください」と、抱きしめてくれた。



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