19話 対策 ★
次の日。
ヴァイス様は一緒に朝食をしたあとに、私に催眠にかかりにくい指輪をくれた。
その後キールさんに仕事の指示をすると、すぐに眠ってしまった。
おそらく身体の魔力が過剰に回復しようと活発なせいで余分な力を使い疲れやすく、さらにその疲れを癒そうと葉巻や薬を増やして悪循環に陥っていた状態だったのだと思う。
体内魔力の状態が悪すぎてまともに活動できない状態になってしまっている。
「いま、父の病の時には間に合わなかった、ポーションを作っています。
もしかしたらこれを飲めば治るかもしれません」
私は錬金術用の作業場でかつてヴァイス様から頂いたテーゼの花のエキスをつかったポーションをキール様に差し出した。
「では今すぐに飲ませてみますか?」
キールさんも言葉に私は首を横に振る。
「薬自体は完成しているのですが、魔道庫で熟成させた方が効果が高まります。いますぐ服用してしまうと、あまり効果のない可能性が高いです。ですから基本は薬の服用をやめることでの治療を続けたいとおもいます。休憩をきちんととる形で治療していきましょう。テーゼの花は生産地ですら栽培が終わっていて、今年はもう手に入りませんから、作れる薬はこれ一つです。慎重に服用したいとおもっています。でももし私が不在の時にヴァイス様の状態が急変するようなら飲ませてください」
「わかりました」
真剣な表情でキールさんが頷いた。
★★★
「この部屋にあるのが全部一日で読む書類ですか」
ヴァイス様が寝たのを確認してから、私はキール様と執務室にきていた。
書類の山が乱雑に広がっている。
まず取り組まないといけないのはヴァイス様の仕事量の削減。
この問題をクリアしないときっとヴァイス様は、こっそり仕事をしてしまう。
「はい。こちらにある書類がすべてです。ですがこの書類は他の人には任せられません。旦那様のこだわりで全てやってしまいます。ああ、触らないでくださいね。位置にも意味があるそうです」
キールさんの言葉に私は頷いた。
ポーションの薬草の仕入れや、発注受注と一緒だ。
薬草のとれる場所の天気や事件、そして発生した虫害などすべての情報を把握してはじめて見えてくることがある。
だからヴァイス様は全ての情報を自らの目を通し、決済している。
「無造作に内容も関係ないものがおかれているように見えますが、密接に関係していますね」
「はい?といいますと」
「おそらくヴァイス様は西部の麦の注文を今年は増やしたのでは」
「……よくおわかりになりましたね」
「ここに纏められているものは、東部で風の影響がでて、気温が上がり不作になるときに見られる症状です。来年に不作になる可能性が高いため在庫を確保しておかないといけません。ポーションの薬草の仕入れと一緒ですね」
全ての数値には意味がある。
まったく意味のなさそうな帽子が売れたという情報が、日照時間が増えた事におこった現象で、ある作物の収穫量がふえ、それにともないそれを食べる虫が増え、さらにそれを食べる小動物が増え、それを餌としていたモンスターの増加で、そのモンスターを倒すのに有効な銀製の短剣が売れる予兆だったり。
些細な情報こそ見えない情報が眠っている。ヴァイス様はその情報を見抜く力があるからこそ、一代で商会を大きくした。
私では見抜けない情報をもヴァイス様なら見抜くのだろう。
だから全て自分でチェックし、データを得るために人には決して任せない。
代わりに仕事をやると言ってもきっとヴァイス様は首を縦にはふらないだろう。
でもこの仕事量のままでは体を壊してしまう。
使用していた薬には眠気を吹き飛ばす効果のあるポーションと、短時間でも深い眠りにつけるポーションがあった。あれを乱用してむりやり睡眠時間を極限まで削って仕事をしていた。しかも日常的に。
……そして私のせいでやらないといけない事が増えてしまった。
きっと普段だってキャパオーバーだったのに、私の事でやらなければいけないことが増えたことによって、いままで以上に薬に依存して症状が一気に現れた。
だからちゃんと睡眠時間を確保しないと。
「キール様、至急とりよせてほしいものがあります」