18話 病気 ★
「疲労です。魔力もほぼ枯渇しています。十分に休ませてください」
あの後、屋敷にヴァイス様を運び込んで医者の人に見てもらった。
お医者さんの第一声がそれだった。
「そりゃ高速マフ(魔道具)を最大出力でかっ飛ばして、途中で壊したうえに次の街まで、魔力でブーストして自力で走るなんてことするから」
「そ、そんなことをなさったのですか!?」
「三日かかる道のりたった一日できたようです。かなり体に負荷の高い魔法もかけていたはずです」
キール様の言葉に私はヴァイス様の手を握る。
そこまで無理をして心配して駆けつけてくれたのは嬉しい。
でもそんなに無理はしてほしくない。
そっと手をとって、あることに気づき私は、目を細めた。
「……ここは」
手の感触で目をさましたのかヴァイス様が目をあける。
「大丈夫でしたか!?疲労で倒れてしまわれたのです」
私の言葉にヴァイス様は少し考えた後、
「……ああ、申し訳ありません。少し気が緩んだのでしょう。もう大丈夫です」
と、笑ってくれる。でも――。
「この手の痣は?」
私は目覚めたばかりのヴァイス様に食い入るように聞いた。
「痣?」
「腕のこの部分です。少し茶色く固くなっています」
「ああ――。本当ですね。どこか無意識に打ってしまったでしょうか」
「では、生来のものではないと?」
「――ええ。それが何か」
寝たまま目を細めるヴァイス様。
「普段服用しているポーションや葉巻を教えてください」
私はぎゅっとヴァイス様の手を握りしめた。
どうか私の勘違いでありますようにと願いながら。
「今後一切のポーションの服用をやめてください。葉巻も一日二本までにし、最終的には吸わない方向でお願いします。このままだと命を落とします」
教えてもらったポーションと葉巻の数。そしてヴァイス様から測定した魔力数値を見て私はヴァイス様、キールさん、マーサさんに告げた。
教えてもらったポーションも葉巻の数もとてもではないけれど一日に取る量じゃない。
普通の人ならお金がかかりすぎてとてもできる数ではないのだけれど、ヴァイス様はお金持ちがゆえできてしまった。
「理由を聞いても?」
ベッドのクッションに背をあずけたままの、ヴァイス様がふむと、私に尋ねる。
「ポーションは何故回復させているかご存じですよね」
「人間本来の治癒力を高めるでしょうか」
「はい。ヴァイス様は常にポーションや葉巻を服用してしまったため、その治癒力を過剰に使い過ぎ、常に身体が回復させようとしている状態になっています。この皮膚はその前兆です。傷ついてもいないのに回復させようと魔力を過剰供給し、逆に皮膚の表面の細胞を殺してしまっています」
「だから飲みすぎはダメっていったじゃないですか!
睡眠時間や休憩時間まで削って金儲けに走るからこうなるんです!!」
私の言葉にキールさんが慌てた様子でヴァイス様に詰め寄る。
「現状でかなりまずい状態なのでしょうか?」
「今はまだ初期の症状です。少なくとも1年はポーションや指定量以外の葉巻の服用をやめてください。体の免疫と魔力を正常な状態に戻せば問題ありません。このまま今の量の服用を続けていたら手の付けられない事になります。
また葉巻はなるべく一日二本服用してください。急に全部やめるのもよくありません。
午前中と午後にわけての使用でお願いします」
私の言葉にヴァイス様はなるほどと、うなずいた後
「貴方を信用していないわけではありません。ですがそのような病例は聞いたことがないのですが」
と、首をかしげる。
「……私の父の死亡原因です。父は自分の体で病気についてデータをまとめていました。
私の父が、発表するようにと錬金術協会に持ち込んだのですが、当時の錬金術協会の理事長がポーションが売れなくなるからと握りつぶしてしまったのです。この病気で死ぬものは皮膚病と診断されています」
告げる私。
そう、父の死亡原因も薬を多用したことでの魔素免疫の過剰防衛による皮膚の硬質化。
そしてその硬質化は皮膚の次には臓器にいたり、全てを動かなくしてしまう。
父の時は気づくのが遅すぎ手遅れだった。
「……なるほど。わかりました以後は薬をやめて気力で乗り切りましょう」
「それもダメです。睡眠もちゃんととってください。これは脅しではなく、魔力を正常な状態にもどさなければどんどん病状は進みます」
「わかりました。大人しく寝る事にしましょう。だから泣かないでください。マイレディ」
そう言って、ヴァイス様が私の涙をすくいとってくれる。
いつの間にかあふれた涙に、私は恥ずかしくてハンカチでぬぐうのだった。