16話 襲来 ★
「……なんだか門の方が騒がしいですね」
ヴァイス様が本国に戻ってから数日後、いつものようにポーションを作り終わって中庭を散策していると門の方からがやがやと騒がしい。
「私が見てきます。護衛をつけますのでここから出ないようにお願いいたします」
私の散歩につきあってくれていたキールさんが慌てた様子で私に言う。
「は、はい」
けれど、それよりはやく
「せっかく会いにきたのにいないとはどういう事ですか!?」
豪華なドレスをきた10代くらいの女の人が門番さんや説得する衛兵さんたちをかきわけてずかずかと屋敷に入ってくる。
「カトリーヌ様!?」
「お久しぶりですね。キール。ヴァイス様は一体どこに?」
「あ、いえ本国に戻りました」
「こちらに滞在していると聞いてわざわざ私の方本国から出向いたのにですか!?
……そちらの方は?」
金髪の綺麗なドレスを着た16歳から18歳くらいの女性が私を睨んだ。
「あ、いえ、それは」
キールさんが慌てて私を隠した。屋敷の護衛の人はその女性が連れてきた騎士たちの相手にしていて私の方に来れる様子ではない。
「もしかして貴方がヴァイス様と婚約したという女性」
キールさんを押しのけてカトリーヌ様と呼ばれた女性が私を睨んだ。
「あ、はい」
「まさか……こんな田舎くさいのを娶ったというの?」
「え、あ、はい。結婚を前提にお付き合いをさせていただいてます」
私の言葉にカトリーヌと呼ばれた令嬢はわなわなと身を震わせ、きっと私を睨み、いきなり手袋を叩きつけてきた。
「えっ?」
「決闘よ!!あの方をかけて!!!!」
カトリーヌ様がどーんっと私を指さした。
★★★
「申し訳ありません。まさかここまで追ってくるのは予想外すぎて対応できませんでした」
警備の人達とカトリーヌ様の連れてきた護衛達とがカトリーヌ様をずるずると外に連れ出して、やっと落ち着いた頃、キールさんに謝られた。
「あの方は?」
「本国の伯爵家のご令嬢なのですが、ずっと旦那様に懸想していまして。まさかここまで追ってくるなんて」
「決闘を申し込まれてしまいましたがどう対応したらよろしいでしょうか」
「……ここは国が違います。そしてあなたは貴族令嬢ではありません。受ける義務も責務もありませんので、そちらは私の方で処理します。これで決闘になってしまったら私の首が飛びます。物理的に」
キールさんが死んだような眼でアハハと笑う。
「あ、ありがとうございます」
私が言うと、キールさんが「こちらこそご迷惑おかけして申し訳ありません」と笑った。
★★★
「厳重注意をうけました」
次の日。
なぜかまたカトリーヌが泣きべそで、門の前で待ち構えていたキールの前に現れた。
「……なら、なぜまた来たのでしょう」
そりゃ他国に旅行滞在という名目で入国したのに、兵士までつれて問題をおこせば厳重注意になるだろうと思いながら、キールが心底呆れた表情で言う。まぁ、チクったのはキールなのだが。厳重注意で諦めてくれたらよかったのにと、心の中で思う。
「あの方のハートを射止めた人を見に来るくらいなら許されるはずです!」
「許されません!!お帰りください!!
何か問題があったら私の首がとびます!貴方ならご存じでしょう!?」
「そこがまたよろしいのでは!? 大体、まだこの国にきて一か月くらいしかたってないのに、いきなり婚約だなんて私は認めません! まずはこの私に話を通すべきです!」
ずずぃっとカトリーヌがキールに詰め寄る。
「貴方は旦那様のお母さんですか!?」
「未来の嫁です!」
「いや、旦那様に断られたでしょう!? おままごとごっこしていた小さい時の印象が強すぎて結婚相手とは考えられないと!? 大体貴族令嬢のお嬢様と、平民の旦那様じゃ身分が釣り合わないじゃないですか!?」
「ヴァイス様なら陰湿で陰険な方法で爵位などすぐに手に入れられるはず! それくらい可能なのになぜやらないのですか!?」
「だーかーらー!!いい加減にしてくださーい!!!」
キールの悲鳴があたりに響くのだった。