15話 それぞれの思惑
「本国に帰った……ですか?」
ポーション作りが終わり部屋に戻ると、キールさんが申し訳なさそうにうなだれた。
「はい、どうも急ぎの伝書が届いたらしくて、一度国に戻るようです10日はかかるかと」
「……そうですか。せっかくお時間を作ってくださったのに申し訳なかったです」
私がいうとキールさんが首を横に振る。
「どのみち午後には呼び出しをうけて旦那様の方でも無理になっていましたからね。気になさらないでください」
ヴァイス様はもともと名の知れたやり手商人で、こんな片田舎の小国でも噂が流れているほど、有名だった。多忙な事は間違いないのだろう。
それなのに時間を割いてくれたのに、結局お礼すらいえなかった。
父の薬の原料が手に入るのが嬉しくて、没頭してしまったことを心から悔やむ。
「早く帰ってきてくれると嬉しいです」
私の言葉にキールさんは微笑んでくれた。
★★★
「やっぱり、離婚は間違っていたんだ」
「何をいっているの、今更!?」
エデリー家の執務室でこぼしたリックスの言葉に、サニアがかっとなって反論した。
「だってそうじゃないか。首にした途端売り上げも落ちている。作れなくなってしまった商品だってあるんだ。まさかこんな事になるなんて」
「それだって他の商品をしいれたら大丈夫だったじゃない。リックスは最近サニアに冷たいわ」
「い、いやそういうわけじゃ。サニアに怒ってるわけじゃないんだよ?
でもこのことが母さんにばれたら……」
「ばれたらどうするのです?」
かつんっと室内にハイヒールの音が響き、リックスとサニアが慌ててそちらに視線をうつした。
「私が旅行に行っている間に何があったのです?
我が商会の悪評が流れています。これはどういうことですか?」
執務室の扉のまえでたたずむその姿に息を呑む。
金髪の美しい女性が立っていたのだ。
「お義母様」
「母さん、別荘地にいっていたのでは?」
「ええ、知らせが連絡がきてかけつけたの。
私がいない間に勝手にシルヴィアと離婚したそうじゃない?
どういうことなのリックス」
「そ、それは……」
リックスがぎゅっと手を握る。
そしてサニアに視線を向けた。
母マリアが旅行中にシルヴィアと離婚して結婚してしまえばいいと提案したのはサニアなのだ。
(サニアが変な事を言わなければこんな事にならなかったのに……)
心の中で思いながら恨めしそうにサニアを見た。
その視線にサニアがびくりとして、
「でもお母さまだって、私の方がふさわしいって」
慌ててマリアにすがった。
「お遊び程度なら許していたけれど離婚まで許した覚えはないわ
とにかく籍をもう一度入れなおして、離婚自体をなかったことにするしかないわ。
まだシルヴィアのサインは残っていたはずよ」
「そ、それがサインを偽装してまた契約を結ぶのは、出来ないようにしたと言っていました」
考えるポーズをとった母マリアにリックスがおずおずと言う。
「なんですって」
「ランドリュー家の当主と婚約したと」
リックスの言葉にマリアがはぁーっとため息をついた。
「最近勢力を拡大しているときいたけど、うちの国にも手を伸ばしてきたなんて。
まさかシルヴィアに目をつけるとは。
いいわ、その勝負うけてたとうじゃない。この国で自由にできると思っているなら思い違いも甚だしい。私には王族にもパイプがあるのだから。叩きのめしてやるわ。
そしてシルヴィアを連れ戻さないと。
そうね、まずは簡単な嫌がらせからしてあげようかしら」
そう言ってマリアは怪しい笑みを浮かべた。