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14話 昔の記憶 ★

「これで抽出終わり」


 私はテーゼの花から抽出したエキスを手にとった。

 父が病気で死ぬとき、もしかして手に入れられていたら死ななかったかもしれない、テーゼの花が含む魔素。これがあれば父の病の特効薬ができたかもしれないのに、当時の私は手に入れられなかった。

 だからどうしてもこの花の抽出エキスがほしかった。

 ここまで魔素を抜き取っておけばあとは錬金術用の保管庫で何年ももつはず。


 私は用意してもらった保管庫に大切にエキスの入ったフラスコをいれた。

 ヴァイス様の用意してくれた錬金術の施設は前使っていた仕事場より設備が整っている。マーサさんに趣味を聞かれて答えた事があったけれど、その話だけでここまで準備してくれたんだ。


 ヴァイス様の心遣いが嬉しくてつい顔がゆるむ。


 なのに――




「いいんだ僕の方が才能がないから」




 ふと、昔の記憶が蘇る。


 私が質のいいポーションをつくると、いつもリックスはそう言って悲しんだ。その後もたびたび弱音を吐かれて彼の前でポーションをつくるのはやめてしまった。


 気が付くと、彼は嫌だとはいわなかったけど察してくれという態度が酷くなってきて、私が好きなものをどんどん奪われていた気がする。


 ――女は男をたてるものですよ、趣味に没頭するなんてはしたない――


 義母の言葉が頭に浮かぶ。

 趣味に没頭するな。自分のやりたいものなどするな。夫にだけ尽くせ。


 その言葉が頭に浮かんではっとする。


 そういえば私はヴァイス様を放置してしまっている。


 設備がよかったため見積もっていた時間よりかなり早く終わった。

 ちゃんとお礼にいかないと。


 ★★★


 怒らせてしまったかな?

 契約結婚なのに自分の趣味を優先してしまい、彼の貴重な時間を無駄にした。

 口では大丈夫といいながら、後になって「本当は嫌だったんだよね」と言うリックスの顔が浮かぶ。何故言葉に甘えてしまったのだろう。もう父も死んでしまって、今更手に入れても仕方ないエキスの抽出にあんなに執着してしまったのだろう。女の私がでしゃばったら駄目だったのに。


 ヴァイス様だってあの花をそんな意味でくれたわけじゃない。

 とっても高価な花で私を喜ばせるために用意してくれた花なのに。


 ごめんなさい。ごめんなさい。どうしてこんな大事な事を忘れていたの。

 ちゃんとお礼を言わなきゃ。


「いない――」


 開けっ放しになっていた執務室で私は立ち尽くした。


 扉を閉じて息を整える。

 ここに来るまでいろいろまわってみたけれど、キールさんもいなかったから外にでかけたのかもしれない。

 がたんと音が聞こえて思わず本棚の後ろに隠れた。


(あれ、私なんで隠れちゃったんだろう)


 扉を開けて部屋にもどってきた声はヴァイス様とキール様だった。

 二人は私がいるのに気づいてないようで、そのままヴァイス様は椅子にこしかけた。


 どうしよう。ますます出にくくなってしまった。


「旦那様、そんな機嫌が悪くなるくらいなら、彼女に後にするようにいえばよかったのでは?」


 キール様の声。

 どうしよう、やっぱり怒っていたんだ。謝らないと。


「テーゼの花は一日で枯れてしまいますからね。あの状況でやめろは彼女には酷でしょう。それに彼女に喜んでほしくて用意した花が喜んでくれたのなら私は本望です」


「だったら私に機嫌が悪いのをなんとかしてください」


「私の顔はもともとこれですが? それに残念なのは本心ですがそれと同時に嬉しくもありますよ」


「はい?」


「いいではありませんか。彼女が本心から熱中できるようなものをプレゼントできたのですから。彼女が喜んでくれるならそれは喜ばしいかぎりです。

 好いてる相手の嬉しそうな姿を見られるのは純粋に嬉しいでしょう?


 ……キール?」


「いえ、ドラゴンの大群が人類を滅ぼしに押し寄せてくるんじゃないかと。窓の外を確認していました」


「貴方とは一度じっくり話し合った方がよさそうですね」


「申し訳ございません旦那様。威圧放つのをやめていただけますかね。旦那様の威圧はマジ洒落にならないんですけど。私じゃなかったら死んでますよ」


 キールさんの言葉にヴァイス様の深いため息が聞こえた後


「とにかく、今のうち出来る仕事はすませておきます。また別の日に時間をあけられるようにしないと。この屋敷全体に探知の結界をはっているので、不審者は入れないとおもいますが、警備員が少ないので心元ないです。派遣ギルドに信用できる人物を手配できるように交渉してきます。残りの時間は仕事をすませてきます。この国は他国からの出入国に時間がかかりすぎてどうにも人が集めにくいのが難点ですね」


「人員が少ないのは確かですが、本当におひとりで?」


「貴方は彼女のそばにいてあげてください。何か不測の事態あったとき対応できるのは貴方くらいです」


「ヴァイス様に警備のものもつけずにですか?」


「これ以上この屋敷を手薄にするわけにはいきません。私はそれなりに恨みも買っていますからね、私ではなく囲っている女性に手をだそうとする輩がいる可能性も0ではありません。彼女が外に出かける時警備をつける人員を考えると、これ以上ここの人を減らすわけにはいきません。それに私に何かあると本気で思いますか?」


「はい、旦那様の場合、襲われても陰湿な方法で完膚なきまでに叩きのめしている姿しか想像できません」


「わかってくだされば結構です。それでは夕食までには戻ってきます。彼女を頼みます」


「って、何故窓から!?」


「何事も最短を選ぶ性質なので。夕食までには戻ってきますよ」


 その声とともにガサガサと音がして、


「――やれやれ」


 と、キール様の声がきこえて部屋からでていく音が聞こえる。


 どうしよう。


 契約的な結婚だと思っていた。

 でも今好いているといってもらえた。

 それが男女間の恋愛ではなくパートーなー関係だとしても純粋に嬉しい。


 顔が赤くなるのがわかる。そこまで大事に思ってくれていた。それだけで嬉しい。


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