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13話 プレゼント ★


 緊張だらけの食事が終わり、ヴァイス様と私は館にある庭園にきていた。

 キールさんやマーサさんは小さいと言っていたけれど、このように手入れされた花園があるだけでも普通に凄いと思う。色とりどりの花が植えられ手入れもきちんとされている。

 おそらく売りにだされてすぐ買い取ったのだと思う。


 庭園の手入れ具合から本当に売る直前まできれいに丁寧に使われていた屋敷……まさか無理やり買い取ったりはしてないはず。


 ヴァイス様の噂を思い出して私は思わず顔を見た。


 目をつけられたら必ず死の訪れる死の商人。


 それがヴァイス様の噂。

 けれど噂と実際は全然違うと改めて思い知らされる。


 優しくて人柄のいいと噂のリックスは妻を虐げる人だったし、ヴァイス様は行き倒れの私にここまでしてくださる優しい人。


 噂とは正反対。


 つい見つめてしまい、目が合うとにっこりと微笑んでくれて、思わず私は顔が赤くなる。


「す、すみません」


「おや、何故謝るのでしょう?」


「え、そ、そ、それは思わず顔をまじまじと見てしまいました」


「フィアンセに見つめられ迷惑ということはありません。私は貴方の綺麗な瞳が視れてとても嬉しいですが」


「瞳……ですか?」


「はい。あなたのエメラルドグリーンの瞳はとても綺麗で、心惹かれます」


 そう言って顔を近づけてくるヴァイス様。


 ……ちょ、ちょっと待ってください。あまりにも顔が美しすぎて、そんなに近づけられると恥ずかしいっ!?


「あ、あの、光栄です」


 慌てて視線を逸らすと、「おや、迷惑でしたか。では以後気を付けます」とヴァイス様。


「い、いえ迷惑とかじゃなくて慣れてなくて」


「そうですね。まだ会って四度目で縮める距離としては、性急だったかもしれません」


 言いながらヴァイス様が内ポケットから何かを取り出そうとして、慌ててしまう。


「……どうかなさいましたか?」


「ああ、いえ、気にしないでください。どうも考え事をするとき葉巻を吸う癖がありまして」


「葉巻ですか?」


「はい。疲れを取る効果のあるシャーゼの葉の葉巻です。疲れを忘れるために吸っているうちに考え事をするとき吸う癖がつきました」


 シャーゼの葉の葉巻。

 疲れた体力を回復させ、頭の回転をはやくする効果のあるものだ。

 けれどそれ故、薬の原料としても需要が高い。私も働いていた時はその葉の確保でかなり四苦八苦した。欲しい人が多すぎて競合相手が多すぎたのだ。なんとか父との付き合いで融通してもらえたけど、コネがなかったら手に入れるのは難しい。葉巻となればそれこそ平民のひと月の給与くらいはいくだろう。それを常用しているという事はやっぱりお金持ちなんだなと感心してしまう。


「私は薬の匂いに慣れていますから大丈夫です。気にしないでください」


「流石にそれは。髪やドレスに匂いがうつるのを嫌う方もいらっしゃいますからね」


 言いながら笑うヴァイス様の顔は本当にきれいで優しくて、つい見ほれてしまう。


 ヴァイス様は本当に優しい。


 でも――その優しさはいつまで続くのだろうという不安もある。


 リックスだって最初から冷たかったわけじゃないから。


 この優しさに甘えたいという自分と。

 優しさなんてすぐに終わると訴えている自分。


「少しだけ止まっていただいてよろしいでしょうか」


 考えごとをしていると、呼び止められる。


「はい?」


「貴方にプレゼントがありまして」


「私にですか?」


「はい、これです」


 そう言ってヴァイス様がコートから花束を取り出した。

 コートからなぜそのサイズの花束が?と、どうでもいい事を疑念が浮かび

 私はまじまじその花を見つめ――そして気づく。


「これは……」


「テーゼの花です。莫大な魔力を必要とするためごく一部でしか咲かない花ですね」


 彼がとりだしたのはとても貴重な青い花。魔力の高い地でしか育たず、しかもすぐに枯れてしまい、保存方法も確立していない伝説級の花。


「知っています!ゴルダール地方でしか咲かないポーションの原料になる花です!でもこの花は凍結の魔法もきかず一日で枯れてしまうため、保存法も確立されていないはずですが、なぜここで?」


「王室の温室では育てていまして、知り合いからその花を分けていただきました」


「あ、あの抽出してきていいですか!?」


「……え?」


「この花でしか取れないポーションの成分があるのです!枯れてしまう前に抽出しないと手に入らなくて!」


 枯れてしまってはその成分は抜き出せない。花から成分が抽出できるのは綺麗な青色の花をつけている間だけ。一秒でも無駄にできない。


「……ああ、なるほど。それは急ぎおこなわないとですね」


「あ、でも道具が……」


「大丈夫ですよ。こちらへ」


 さりげなく手をそえてくれて、案内してくれたのは中庭にぽつんとたった可愛い建物だった。

 中にはいるとずらりと、錬金術に必要な道具が並んでいる。


「ここは」


「マーサに貴方は錬金術が好きと聞きまして、用意させていただきました。

 屋敷の中でもよかったのですが、錬金術師に聞いたところこのここが魔力を集めやすい場所で一番向いていると言われまして。

それなりに詳しいものに用意されたのである程度道具はそろっていると思います」


「十分です!ありがとうございます!」


「ええ、どういたしまして。それではその作業が終わるのは何時間ほどでしょうか?」


「抽出自体は二時間くらいで終わるとおもうのですが、保管までやるとなると夜遅くまで……あ」


 そこで私は初めて気づく、ヴァイス様にお礼も言ってないうえに、せっかく設けてくれた親睦の時間を無駄にしてしまっている。


「も、も、申し訳ありません、お礼もまだなうえ貴重なお時間なのに」


「いえいえ、私の事はお気になさらず。互いの親睦を深めるのはまた今度にしましょう。

 また手に入れてくれてと頼まれてもなかなか難しい花ですから。

 貴方の方で必要ならすぐにでも抽出作業をおこなってください。私がいると気がちるでしょうから、私は仕事に戻ります」


「あ、ありがとうございます!」


「喜んでいただけたなら何よりです」


 そう言ってヴァイス様はにっこり笑ってくれた。

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