9人目
3年ぶりでしょうか?ふと気になりのぞくと、毎月一人は読んでいただけているような。
完結作品でも求められることがあるのでしょう。
時々更新があるかもしれません。
その日地図師が死んだ。
彼は辺境の村に生まれた。
彼には特別な力はなく剣も魔法も使えなかった。
しかし彼には道をまっすぐ引く手と、歩み続ける脚、夜空の星と話せる目を持っていた。
彼は常に歩き続けた。
砂漠の縁を、凍湖の上を、山脈の影を。
名も無い峠に名を与え、忘れられた井戸に印をつけ、渡れぬ川に浅瀬を探した。
雨と風が紙を裂く夜も、彼は火を絶やさず世界に軌跡を記し続けた。
足の裏は地図のようにひび割れた。
彼の地図は天使であった。
商隊は迷わずに都へ至り、巡礼は季節を外さずに聖地へ辿り着き、飢えた村には交易が戻り、孤立した街には医者が来るようになった。
彼の地図は悪魔であった。
将軍たちは彼の線を道として軍を進め、彼の記した浅瀬は騎兵の轟音を招いた。
彼はそれを知りながら止める力はなかった。
一度、暴君が城のための新図を求めた。
彼は拒んだ。
焼き板に刻んだ版を自ら割り、右手の感覚を失うほどに火にかざした。
多くを失い、少しを守った。
なおも彼は歩み続けた。
誤りがあれば次に塗り替え、危地があればそれを知らしめた。
孤児を弟子に取り、測量と読み書きを教えた。
弟子たちは各地に散り、名を競わず精度を競い世界に刻み続けた。
晩年、彼は静かに言った。
地図は道ではなく灯である
持つ手次第で人を帰らせも、迷わせ続ける
と
最後の改訂が綴じ上がるのを見届け、彼は目を閉じた。
世界は彼の線に救われ、彼の線に傷ついた。
市場の人々は彼を道の父と呼び、戦場を知る者は彼を侵攻の共犯と呼んだ。
天使であり悪魔であった。
その日、世界に道を描き、戦に道を与えた地図師として死んだ。
故人:大地図師オルバ・セリオン・マーパ
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原動力になります。
またの別の英雄でお会いしましょう。




