敗北
「あれれえ?ガブリエラちゃん、ボロボロじゃないっすかあ」
軽い口調の男の声がした。男は、ハルバードの背後にいた。ラジックの目には、急にハルバードの胸にナイフが突き刺さったように見えた。
「遅いぞ、貴様ら」
先程までハルバードと対峙していた女、ガブリエラ呼ばれた女は右腕左足を失くした状況だった。
「そんなこと言わないでほしいっす。ちゃんとお宝は貰ったから」
軽い口調の男は、何かが入っている袋をガブリエラに見せた。
「右腕、左足ならウチの帝国で義腕、義足を作ることが可能です。どうか、悲観せず」
また別の、長髪の男が言った。
「帰るぞ。目的は達成した。パスク、肩を貸せ」
「ガブリエラちゃん、かわいい!いつもそのくらい頼ってくれればいいのに!」
パスクと呼ばれた女が、足を失ったガブリエラを介抱する。
「待てよ!」
傍観していたラジックが、叫んだ。その声に、ガブリエラたちは動きを止めた。
「よくも……兄さんを……」
ラジックは杖を取り出した。しかし、その杖は一瞬にして、灰と化した。ガブリエラの光線だった。ハルバードの魔法でも消滅しきれていなかった。
「それで?どうするんだ?」
ガブリエラは、自ら浮遊してラジックに近づいた。
「私を殺すのか?殺したいよな、トドメは刺してないものの、貴様の兄を追い詰めた人間だものな」
ガブリエラは、ラジックの手から王冠を奪った。
「だが貴様には無理だ。先の魔法王よりも存分に弱すぎる。こちらから殺すのも躊躇うくらいにな」
ラジックは、その場に立ち尽くすしかなかった。兄は、自分を犠牲にしてでも戦った。しかし、ラジックにはそれができなかった。自分が死ぬ覚悟など、できていなかった。
「だから貴様を殺すのはやめよう。人には、復讐する権利がある。私のようにな」
城から爆発音が響く。ついに、城は原型を失くしてしまった。
「貴様にその気があるなら、私を殺しにくればいい。できれば、の話だがな」
「皆の衆。迎えが来たゆえ。潮時でござる」
これまで口を開いていなかった男が言う。空から浮遊物体がやって来た。
「ござるっちの言葉、化石の時代の言葉だよ!流行遅れも度が過ぎる!」
パスクはケラケラと笑い、浮遊物体に飛び移った。続いて軽い口調の男、長髪の男が飛び移った。
「ガブリエラ殿、一人で来られるでござるか?」
「すまない、ウィングも燃料切れのようだ。肩を貸してくれ」
「承知でござる」
ござるっちと呼ばれた男と、ガブリエラも浮遊物体へ飛び移った。
「終焉だ。戻るぞ」
ガブリエラが声を掛ける、が。
光線がラジックを狙って解き放たれた。
「何をする⁉」
光線を撃ったのは、軽い口調をした男だった。
「何って、俺らの目的は魔法使いの殲滅ジャン?しかもあいつ、王族ジャン?残すわけにはいかないっしょ。リーダーだからって、勝手は許せないっす。俺らだって、国の命令で来てるんだから」
「ヴィラジミル、貴様……!」
ガブリエラは軽い口調の男、ヴィラジミルを睨みつけた。
「否。目標、沈黙、確認できません」
長髪の男が言う。全員が、視線を地を這う男に目を向けた。
「死なせやしないさ、私が生きている限り、手の届く範囲の人間は、誰一人……!」
「魔法王……!」
ハルバードが、命尽きる前の最後の魔法を使い、ラジックをその場から離脱させていた。
(生き残れよ……ラジック……!)